第55話 ここは『宝の山』になったぞ!
『闇の神』は手の力を緩める。
『光の神』は虫の息だが、辛うじて生きている。
「解放されたからって、
なにも変わらない。
また動きを止めて、『氷の鏡』を奪えばいい!」
『闇の神』は一足飛びでトシオに詰め寄る。
しかし、トシオは満面の笑みで。
「回答!
お前は対象の周囲の空気を、気体を固定して、
動きを止めている!」
トシオがそう宣言した途端、
『闇の神』が手を振り下ろした。
その彼女の顔は驚愕に歪んでいる。
「どうした?
俺は動けるぞ?」
トシオは笑みを深めて。
「回答!
お前の権能の『闇夜』とは!
つまり、
この世にある『人間の五感だけで正しく認識できない』ものをさす!
気体! 粒子! 病原菌! 重力!
そして、お前はそれをコントロールして攻撃をする!」
「止めろ!」
『闇の神』が声を裏返らせて叫ぶ。
しかし、トシオは止まらない。
「お前の『闇夜』の力の源は、『謎』だ!
人間が分からない、認識できない、
観測できないものを管理する権能!
だから、
お前は人間に文明を発達しないよう魔物をけしかける!
お前の天敵は、
何を隠そう『人間の好奇心』だからだ!
『科学』なんてもので、
見えないものを見極められて、
『謎』を暴かれたお前は力を失う!」
「黙れぇ!」
『闇の神』が必死の形相でトシオに向けて手を何度も振るが、
何も起きない。
「パントマイムか?
なかなか上手いぞ!
ははははは!」
トシオの笑顔は崩れない、崩せない。
「見ろ!
このキャンプ地にはたくさん人がいながら、
『ここには』俺しかいない!
どういうことか、わかるか!?」
「うるさい!」
「コイツら皆、
今も必死に『お前』を観測しようとしてんだよ!」
『白の教会』のメンバーは必死に、
テントを行き来している。
皆、『光の神』を見ないようにしつつも、
涙を流しながら必死に研究を続けている。
「あっちのテントは、
顕微鏡を作ろうとしてレンズを試してる!
向こうは、逆におれがあげた望遠鏡を大きくし天体観測し、
暦を作ろうとしてる!
そして、やれぇ!」
トシオが合図すると、
テントをはばゆい光が包む。
光を浴びた『闇の神』が苦しみ出す!
「『死の荒野』の土を使った、
発電機だ!
ここの土が水を気化させるのを利用して、
蒸気を集めてタービンを回す!
水蒸気爆発するくらいの威力だし、
火力発電と違って空気も汚れない!
見ろよ!
『死の荒野』だって!?
今、この時、この瞬間、
ここは『宝の山』になったぞ!」
『闇の神』の顔がひび割れて、
見るも無惨なものになる。
『闇の神』はズタボロの『光の神』を高く掲げて叫ぶ。
「止めなさい!
即刻、研究を止めて、全部燃やしなさい!
さもなくば、『光の神』の残骸を殺す!」
『闇の神』がそう叫ぶ。
しかし、誰一人として、止まらない。
止まれない。
トシオが号令をかける。
「唱和!」
「我らは、信徒であり、背信者なり!
我らは『光の神』を崇め、
しかし、その庇護から解き放たれるため!
『神の御力』を借りずに生きることを、
ここに誓いたてる!
主よ! 『光の神』よ!
我らは!
我らは、貴女を崇め奉るが、
貴女に助けは乞いません!
許しを乞いません!
願うことはいたしません!
我らは、貴女に祈り、誓いをたて!
その誓いを果たすため、決して歩みを止めません!
この命が付きようとも!
貴女を見捨てても!」
『白の教会』全員が、
滂沱の涙を流しながら叫んだ。
そして、一人が何かをもって『光の神』に向かって叫ぶ。
「主よ!
見てください!
望遠鏡です! できました!
月の表面の凹凸まで見えます!
これで、天体を観測し、研究をします!
絶対に暦を作って、
貴女の日を作ります!
『光の神』の日を!」
また一人、泣きながら。
「主よ!
我らが主よ!
顕微鏡でず!
倍率はまだまだでずけど、
木の葉の『口』が見えまず!
ここから呼吸してまず!
植物が! 呼吸してまず!
生きてるんでず!
ずごい……!」
もう一人。
「主よ!
今、誰がやっても同じ反応をするものを見つけました!
魔水晶です!
顕微鏡と望遠鏡のレンズを作るときに、気付きました!
これを磨くとき、いつも同じ音がなるのです!
誰がやっても同じ音で振動してるのです!
魔法で振動数を計測したら、同じ回数です!
これと天体の観測で分かる星の周期を合わせて、
太陽の動きを計測したら暦だけでなく、
『時間』を定義できるんですよね?
お母さんのメモにありました!」
「だから、お母さんじゃねぇって!
クソが!
振動数も、
魔法なしで観測できるようにしろ!」
その一人は、泣きながらはい、と応えて走っていく。
『光の神』の瞳はおぼろげだが、その顔は微笑んでいた。
赤ん坊が初めて立ち上がったときのような、
初めて一人で自転車に乗れた子どもをみたような。
そんな顔だ。
それに対して、
『闇の神』は苦悶の表情を浮かべて苦しむ。
「神じゃない俺には『権能』ってのは、
よく分からんものだったんだがな。
どうやら、
『支配権』と『管理義務』が混ざったものなんだろ?
その事象を支配できるが、
同時に管理しないといけない。
お前は自分の権能が人に見えてないことを良いことに、
適当な管理をしてたんだろ?
でも、もう無理だな?
『科学』で全部、観測できるようにしてやる!
半年もあれば、
コイツら俺のメモなしで研究し始めるからな!」
「うるさい!
コイツを殺すから!
アンタたちの神でしょ!?
本当にヤるからね!?」
いくら『闇の神』が叫ぼうが、
『白の教会』たちは、誰一人止まらない。
「何なの?
アンタらは何なの?」
「コイツらは、
『探求者』であり『探究者』。
この世の謎を解き明かし、理解し、
世のため人のため活用する。
俺の世界じゃ、『研究者』って呼ぶんだ」
トシオは、これでもかと言うくらい笑う。
『闇の神』は『光の神』を地面へ投げ捨て、
絶叫しながらトシオに飛びかかった。




