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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第四章 フレックスタイム制!

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第53話 良いマーク、でしょ?

●???●


「お母さん、お疲れ様!」


 『踏破の聖女』は氷塊に向かってそう言った。

『大海のダンジョン』崩壊から二十日。

水蒸気爆発がやっと収まり、ダンジョンの崩壊が確認された。

 そして、聖女は軽々と大きな氷塊を持ち上げ、

乱暴に魔法鞄へ詰め込んだ。

 小さなダンジョンには即死罠がぎっしり敷き詰められ、

魔物をいつでも呼び出せるようにしていたが。

今ではただの瓦礫の山。


「帰ろ!」


 彼女の足はまっすぐ『死の荒野』へ向かった。

そこに待っていたのは、

立ち並ぶテントとそこを右往左往する『白の教会』たち。


「ただいまぁ!」


 その一言で、全てが終わったことが伝わる。

歓声が沸き上がる。

『踏破の聖女』が魔法鞄から氷塊を取り出した。

更に歓声が大きくなる。

 そこへ、『氷の鏡』を持ってレオが駆け寄った。


「よし、彼を解放しなけれ……!」


 その瞬間、その場にいた全員が全く動かなくなる。

喜び跳びはねたまま、空中で止まっている者。

近くの者とハグしたまま止まっている者たち。

皆、時間が止まったかのように動かない。


 そこに現れたのは、

ボロボロのドレスを着た女。


 髪もボロボロ、顔はアザだらけ。

ドレスは黒いものに白いペンキをぶちまけたようになっている。

そして、その右手にはダンジョンコアを握っていた。


「『氷の鏡』を、寄越しなさい」


 『闇の神』だ。

身体から禍々しいオーラをにじみ出しながら、

満身創痍でレオへ向かって歩いていく。


「『敵』だ!」


 それに『踏破の聖女』が光速で飛びかかり、蹴りを放つ。

しかし、その足は突然勢いを失い、彼女は地面に落ちる。


「へぁ?!」

「無駄。無駄だから。

私は『闇の神』でありながら、

『光の神』の権能を取り込んだ。

 その踏破の力の源の『文明』と『都市』を奪いました。

貴女はもはや、ただの頑丈な少女」


 嫌らしく笑う『闇の神』。

しかし、その顔に余裕はない。

 しかし、聖女はそれでも笑う。


「あははは!

主は、お前なんかに負けない!

だって!

お母さんが来たもの!」


 お母さん。

謎の一言に『闇の神』が困惑する。


「だっ、誰のこと?!

お母さん?」


 『闇の神』、と言うより、

神の親は『創世の神』のことだ。

さすがに、それが相手になると『闇の神』も分が悪い。


「お母さん、だよ!

あははは!」

「くっ!

この、狂信者め!」


 話にならない。

『闇の神』は、右手を振って聖女を遠くへ吹き飛ばす。

地面に強く叩きつけられた聖女は、

ケガはしないが気を失ってしまう。


「とにかく、『氷の鏡』を!」


 『闇の神』の目的は、『氷の鏡』。

それさえあれば、

『最古のダンジョンマスター』が目覚める。

 あらゆる国の政治へ介入し、

各地の魔物の氾濫を計画し、

この世を表と裏から制していたマスターだ。

彼女がいれば、まだやり直しがきく。


「あの不細工が!

あっさり負けやがって!

 ……いや、メグすらこうなってるんだ。

油断大敵」


 『闇の神』は、産まれて初めて反省した。

何もかもうまく行っていた。

神に選ばれ、力を得て。

 目障りだった『光の神』を騙して、

力を食らい。

存在を神から人間に落とし。

 他の神に『分派』を教えて、

自ら力を割らせて忙殺する。

 異世界から優秀な人材をさらって、

ダンジョンマスターにする。

そのダンジョンを都市や国に取り込ませて、

『光の神』の権能を侵し。

『分派』ではなく、

『魔物』のダンジョンマスターに魔物の権能を管理させ、

自分の自由にできる時間を増やす。

 完璧だった。

何もかも『闇の神』の思い通り。


 そして、ゆっくり他の神を取り込んで、

『創世の神』を超え、この世を統べる。


 それが、彼女の『闇の神』の目的だった。

あの男を『樹海』に落とすまでは。


「……あら?

こんなところにいたの?」


 仮面を付けた女性の前で、

『闇の神』は立ち止まる。

仮面の女性は、他の人と同様に全く動かない。

 そして、『闇の神』がその仮面を剥がすと、

彼女とそっくりな顔が露になる。


「ぶっ!

何、それ?

おでこに落書きでもされた?」


 『闇の神』は仮面の下の顔に落書きされているのを見つけた。

『元光の神』を嘲笑ってやろうとしたが、

既におとしめられていたので大笑いする。


「何、そのマーク。

太陽のつもり?

 左右の二本が長くて、

手みたいで、バカみたい!」


 左右の二本が長い、太陽のようなマーク。

そのマークは、突然まばゆく輝き、

『光の神』は雷を纏う。


「なっ!?」


 『闇の神』は慌てて後ずさる。

その手から落ちた仮面の内側、

ちょうど『光の神』の額の辺りに同じマークが書かれていた。


 そのマークは、地図記号の『発電所』。


 トシオがあの時、

『氷の鏡』を使う前の時に仮面を剥いで書き込んだマークだ。


●マンチャータ跡地●


「光ったぁ!」

「やったぁ!」

「完成だ!」

「バカ!

電球消せ!

向こうへ流せなきゃ失敗なんだよ!」


 白い服の人々が、河口に集まって叫んでいる。

彼らの目の前、河口野水から頭を出しているのは、

人が入って立てるほど大きなタル。

 タルに溝を作って中をすり鉢状にし、

それが川から海へ流れる水を横から受け止め、

すり鉢の中に渦を作る。

まるで、水洗便所の水を流したように、

渦を作ってタルの中へ水が流れていく。

 そのタルの奥には、タービンが用意されている。

このタービンが渦で加速した水流で回ると、

ベルトと歯車を回してモーターを回転させる。

重力渦式等と呼ばれる水力発電機だ。


 そして、発電された電気が、

彼らの目の前で電球を光らせた。


「電球から、部屋に電気を流せ!」

「蓄電池にたまるか?」

「たまったら、変電器だ!」


 彼らは電球へ流れる電気を一旦切り、

別の電線へ流れるよう切り替えた。

電線の向かう先は、

ダンジョンの崩壊で唯一助かった灯台。

 高さ五十メートルある建物の最上階に大きな火皿が置いてある。

しかし、今は火皿は取り外され、

電球を並べて連ねた物と銀の大きな皿。

この皿は、元々ここにあった火皿だったが、

懸命に磨き上げて銀を薄く張ることで『反射板』に変えた。


 吊るされた電球が全て灯り、

反射板がその光を海へ向けて放つ。


 夕暮れの赤さの中に、白い光が灯っている。

反射板はうまく作用しており、

海の向こうまで光を届けている。


 トシオの大量の『奥の手』を書き留めたメモ。


 三年間、毎日のように書き留めた、

トシオの頭の中にある知識の塊。

そこには、

スリングショットの設計図、

鳥もちの原案、爆弾の構想。

翼果を模したチャフ等のメモ。

 その中に、もちろん発電機や電球があった。

『白の教会』にトシオはそれを全て渡し、

白服たちは寝るまも惜しんでそれを解読。

たった二十日で、電気による灯台を作る程になった。

 白服たちは地面に両ひざを付き、

感涙を流して祈る。


「主よ!

成しました!

我らは成しました!

 『闇夜』を切り裂く槍を!

作り上げました!」


●死の荒野、『白の教会』キャンプ地●


「なんなの!?」

「良いマーク、でしょ?」


 『闇の神』を見て笑う『光の神』。

彼女の額のマークは、トシオの仕業だが、

彼は『こうなる』とは思ってなかった。

 単純に、

ゆくゆく発電により『光の神』の力が増すきっかけになるなら、

この間抜けのデコにマーク書いとけ、

くらいの気持ちだった。

 トシオの予想を上回る白服たちの有能さと。

発電機の発明を権能の『文明』ではなく、

『日光』で取り込んだ『光の神』の機転により形勢を逆転した。

 このきっかけは、

トシオが書いた額のマークを見て『闇の神』が言った太陽、と言う言葉。

そのときに、『光の神』は発電機の発明は、

『光』とも解釈でき、取り込めると気づいた。


「神ですらないアンタが!

良い気になるなよ!」


 『闇の神』はそう叫んで『光の神』へ飛びかかった。

『光の神』はゆっくり右手を振ると、

そこに光でできた槍が現れた。

『光の神』が光の槍を握って、『闇の神』を迎え撃つ。

 日が沈む。

『闇の神』の時間だが。

それは既に、人の手で穿たれた。

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