閑話 再出発
●オスマンサス王都、プニャード●
「マンチャータの状況は?!」
「街は大破!
港は利用不能!
土地が割れて海に水没し、
街の大きさが半分になってます!
しかし、住民の避難は完了していたので、
人的被害はゼロです!」
オスマンサス王は、
トシオから事前に聞いていた事を踏まえて行動を起こす。
「『教会』からは、何も来てません!」
「よし!
議会の設立を、国民へ通達!
選挙についても伝えて、
各地の学校でも授業内容に取り込め!
授業の名前は『政治』とする!」
「既に公示しています!」
百年待った。
国民は民主化の是非による内戦で疲弊し、
民主化に拒絶反応を見せる事もあった。
しかし、今や生き証人はもうレオ一人。
新しい国のかたちに、国民の大半は期待を寄せている。
「さっそく、議会を召集しました!
開会宣言は、いつでも可能です!」
「レオ殿は?」
「まだ戻られていません!」
レオは『死の荒野』から魔法使いによりプニャードに転移してもらう手はずだ。
だが、レオはもう少しトシオを見届けたいと希望していた。
オスマンサス王は手を打って。
「分かった!
レオ殿が戻られたら、
議会を開会しよう!
銀行の方は!?」
「国庫との接続完了!
議会が銀行を経由して予算を運用し始めれば、
信用が得られるかと。
ただ、嬉しいことに、
商人の一部は既に銀行の利用を表明してくれています」
間違いなく朗報だ。
商人の利用があってこそ、銀行は成立する。
「はっはっはっ!
そう言う予想外なら、大いに結構!
トシ・オーみたいなのは、
もうたくさんだ!」
王は笑う。
周りは苦笑いだ。
王は気になることを確認した。
「何もかも急に動かしたんだ!
軋轢はあって当然なのだが」
「今のところ目立ったものはありません。
各地の領主も、
待っていましたと言わんばかりです」
領主の中から反対意見もあるかと身構えていた王は、
思わずはぁ?、と言ってしまう。
「我が国の商人たちは驚いていますが、
好意的な者が多数です。
領主系の商人は、
むしろ遅かったじゃないか、と怒鳴ってましたよ?」
「百年前にそれの用意をして、
そのまま待ってくれていたのか。
謝罪しておかねばな」
何もかも、突然の事だ。
民主化で、皆が得するわけじゃない。
損をする者も確実にいる。
それなのに、ついて来てくれることに、
オスマンサス王は嬉しくて嬉しくてたまらない。
「他国に本拠地を持つ商人の一部は反対してますけど、
銀行と彼らは直接的な関係は『まだ』ないので。
今は置いておきます」
「自分のコネや利権を商人名義に変えて、
逃がそうとしてる領主もいますが」
「いい、いい。
それくらいはいいさ!
商人の中に入っても、
それを守れるだけの商才が彼らにあるなら、
むしろ大歓迎だ。
できないなら、
自由競争の原理の元に自然に全てを失い、
散っていくだけさ!」
オスマンサス王の言う通り、
商売は甘くない。
資金やコネがあればいいが、
そのお陰で絶対に儲かると言うわけではない。
王は後は自然に任せるのが、
むしろ健全だと判断した。
「両替業もおこなうんだ、
偽金と偽の手形には注意せよ!
偽金は、銀行に来たら回収して本物と交換。
厳罰に処さない代わり、
それを入手した経路を聞き出して裏を取れ。
回収した偽金は潰すな。
流通経路ごとに集めて保管せよ。
そうすれば、偽金の発行元がわかる。
そこを潰しにかかればいい」
「手形には有効期限と失効期限を付けましょう。
頻繁に銀行に持ち込む必要が産まれ、
偽の手形だとすぐに分かります。
これも回収して流通経路を聞き出せば、
毒の源流が自ずと分かると言う寸法ですな」
銀行は信頼があってこそ。
オスマンサス王は元々、
ダンジョン保有国として国際的な地位を上げ、
『教会』に並び立つ国になって民主化に取りかかるつもりだった。
それに引き換え、銀行はダンジョンがなくても、
信頼を守れれば国際的な地位が上がる。
国を問わず商人の信頼を得られれば、
更に国際的な地位が上がる。
「商業ギルドは、
こちらに人員を派遣する代わりに、
銀行について詳しく教えてほしいと要望が来てます」
「今はダメだ。
立ち上げは我々で信用にたる者を選ぼう。
数年後には、受け入れられると伝えよう。
そうだ。
十年後には業務提携をしたいと、
商業ギルドへ打診もかけよう」
オスマンサスとしての国の信頼に、
商業ギルドの信頼が重なれば、
『教会』も第三国も手を出しづらくなる。
「銀行の名前は?」
「決まっている。
カラシシ銀行だ」
レオの本名から取ることで、
レオの名前を国に残す算段だ。
「そして、新設する『科学省』には、
『白の教会』の方々をお呼びして、
『科学』について、存分に研究していただこう」
オスマンサス王は、
『死の荒野』の土の研究を諦めていない。
彼は虎視眈々と、
トシオにも恩を売って取り込めないか思案を始めている。




