第52話 作戦開始!
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「行くぞ?
サトウ トシオ!」
「おう!」
トシオが返事をした途端、
カラの手の中の『氷の鏡』が光を放つ。
トシオがその光を浴びると、足の先から氷始めた。
辛そうに顔を歪めるトシオ。
しかし、その顔はどんどん笑顔に歪む。
「作戦開始!」
トシオのその最後の言葉を聞いたカラは、
魔法鞄から『死の荒野』の土を大量に取り出した。
カラは氷の板になったトシオを土で埋め、
帰還石を割って地上に戻る。
『白の教会』隠れ家の地上。
あの砦から少し離れた、
あのゴーレムとゴーストの襲撃の時の崖の上。
カラが自分たちの目の前に現れたのを確認した白服たちは、
声を張り上げる。
「今だぁ!」
「やれぇ!」
白服たちは、大きなレバーを引いた。
途端に、隠れ家が爆発して崩れ落ち、穴が塞がる。
「土をかけろ!」
魔法が使えるものは、
魔法で土を隠れ家があったところへ。
魔法が使えないものは、
オスマンサスに借りた大量の魔法鞄から土を取り出してかけていく。
あっという間に、小山が出来上がり。
「潰せぇ!」
魔法使いが、その山を上から押して潰す。
道や建物の基礎を作るときに使う魔法だ。
「次の土をかけろ!」
念入りに、念入りに、
トシオの氷とゲートを埋める。
タイマーの残り時間がゼロになった。
ゲートが開き、大量の水が放出したが。
『死の荒野』の土はそれを吸い上げ蒸発させた。
ウンディーネたちは外へ出られず、
入口付近から水を生成して外へ向けて放つ。
大量の海水を土へ向かって放つ。
『大海のダンジョン』はその名の通り、
海に面した海のダンジョン。
海水には、塩をはじめとしたミネラルが含まれる。
『死の荒野』の土に触れた水は急速に気化、蒸発し、
ミネラルが残り固まって、膜を張る。
膜がたくさん重なり、殻になる。
隠れ家があった小山から、
白い蒸気が立ち上がる。
「やれぇ!」
白づくめたちが、
ゴーレムの襲撃の時に作った崖を魔法で崩して、
隠れ家の跡を更に埋め立てる。
地中のミネラルの殻は厚くなり、
帰化した蒸気が逃げ場を失い、
どんどん蓄積して。
それは、臨界点を越える。
轟音、爆発。
小山が浮き上がって、高温の水蒸気が辺りに立ち込める。
爆発の勢いは強く、
ゲートの前の水とウンディーネは吹き飛び、
土砂が『大海のダンジョン』へ雪崩れ込む。
その勢いは弾丸並み。
その量は膨大。
ダンジョン内で控えていた魔物たちは、
爆発の衝撃と土石流で死んでいく。
「そうなるのかぁ!」
ショウは、それも予測済み。
急いで残りの魔物を別のところへ転送し、
予定していた緊急処置を施す。
ダンジョンの道をゲートから『大海のダンジョン』の出入口まで、
まっすぐにつなげた。
爆発の勢いは出入口に逃げ、
ダンジョン街のマンチャータに吹き出した。
巨大な間欠泉は、
マンチャータの町を破壊し、
王都プニャードからも見えるほど高く上がる。
既にオスマンサス王はマンチャータから住人を逃がしていたので、
人的被害はゼロで収まった。
「これで、爆発が収まるまで……?!
なんだ、あれは?」
ものすごい勢いで、
氷の塊がダンジョンの内部を破壊していく。
その上、『死の荒野』の土がダンジョン内に塊で入り、
それもミネラルが殻を作って爆発する。
氷の塊がダンジョンの壁にめり込んで止まった。
ショウは急いでそれを確認する。
「なんだ?
氷?
にしては、固すぎる」
『氷眠刑』を受けたトシオだ。
魔物の氾濫すら無傷で、と言う話の通り、
水蒸気爆発も、魔物の群れにぶつかっても無傷だ。
水蒸気爆発はまだ収まらない。
ゲートから海水が溢れれば溢れるほど、
『死の荒野』の土は爆発していく。
『白の教会』たちは絶えず土を追加して、
地上から押さえつけて爆発を誘引する。
「それも想定内。
その中でいくら暴れてくれようとも、
私には無害だ」
ショウはそう言いつつも、焦る。
その理由は、
ショウは一度もゲートから向こう側を見ることができてないからだ。
何かを用意されている可能性がある。
その何かを先に知っておかなければ。
既にショウの予定していた戦法は崩れ去り、
若干受けぎみになっている。
このままは、不味い。
ショウは冷や汗を流しつつ、
現状を把握しようと試みる。
「『死の荒野』の土は、
水を気化させるのか。
おそらく、
アイツはゲートにその土をかけているか、
ゲートを埋めている。
なら、アイツ自身に逃げ場はないはずだ。
死ななければエリクサーでなんとかできる。
思い切りいこう」
ショウは細長い魚の魔物を召喚した。
それは海底の土の中に潜っていく習性がある。
それらをゲートへ向かわせるが、
水蒸気爆発の勢いはいつまでも弱らない。
「海水を止めなければ、
爆発が収まらないのか?」
魚の魔物たちはゲートへ近づけもせず、
爆発によってやられていく。
海水を止めると、
ゲートの向こうへの攻撃が止まる。
しかし、海水を止めないと爆発が収まらない。
どうすべきか悩むショウ。
その間『白の教会』は、
土を盛るのをやめない。
蒸気でサウナのような環境になっているが、
彼らは汗だくで必死に土を盛り続ける。
「行くよー!」
そこへ『踏破の聖女』は飛び出した。
彼女は風呂に入って、
食事をしたら勝手に飛び出した。
『聖女の右』たちが必死に止めたが、
彼女はお母さんからのお使いを果たしに向かう。
駆け出した彼女は土の中を突き抜けて、
水蒸気爆発の勢いを味方にゲートを通る。
そして、まっすぐに氷塊へ向かって駆けていく聖女。
作戦としては、彼女はまだ出番はないのだが、
それを止められるトシオがいない。
聖女は借りた魔法鞄に氷塊を入れた。
「そぉ、れ!」
そして、聖女は足を上げる。
『大海のダンジョン』のコアへ向かって。
踏み込んだ足が告げる行き先は、
大海のダンジョンの深部ではない。
マンチャータから少し離れた、
寂れた廃村のそばにある海岸の洞窟だ。
空間も何もかも踏み潰して、
水没した洞窟の入口に『踏破の聖女』が立つ。
「しまった!」
ショウは立ち上がって、
全ての操作を手動に変える。
彼は急いで本物のダンジョンコアを隠していた小さなダンジョンに魔物を配備した。
聖女は笑う。
そして、聖女は鞄から氷塊を取り出し、
小さなダンジョンの入口そばの海中に置いた。
彼女は『それら』を理解してない。
しかし、その野生の勘は、
氷塊を海の中に置くことを強く推奨した。
「何を?」
ショウはダンジョンに入ってこない聖女を見て、
訝しむ。
突然、氷塊の裏にゲートが現れた。
そのゲートは開いており、
ゲートの出現を見届けて『踏破の聖女』はどこかへ駆け出す。
もちろん、このゲートはトシオのゲートだ。
トシオの身体が移動したので、ゲートもついてきた。
次の瞬間、
ゲートから放たれる大爆発がダンジョンを襲った。
「防御を!!」
ショウは魔法を、魔物を使い。
急ごしらえの壁を作り、
置けるオブジェクトは全て設置して、
小さなダンジョンの奥にあるダンジョンコアを守る。
しかし、水蒸気爆発は止まらない。
壊れない氷塊や土砂をまるでパイルバンカーの釘の様に、
何度も何度もダンジョンへ叩きつける。
「水を!
海水を止めなければ!」
海水がゲートから『死の荒野』に流れるから、
土が海水を飲み、水蒸気爆発を起こす。
だから、海水を止めれば止まるはずだ。
しかし、さっきと違って入口の外にある海水は自然のものだ。
ダンジョンのものでないので、ショウには調節できない。
しかも、既にそちらに裂く力が少ない。
ショウは魔物や壁、ダンジョンを操作するために必要なポイントを、
文字通り湯水のように消費してやっと爆発と氷塊を受け止めている。
魔物がミンサーにかけられたようにすり身にされていく。
数百億あったはずのポイントが、瞬く間に失くなっていく。
ショウの優位性は、もう一つもない。
しかし、
ショウはそうしてでも時間を稼がねばならない。
なんとか、この状況の打開策を考える。
そのための時間を。
「土嚢だ!」
一部のオブジェクトをゲートを囲うように設置しようとした。
しかし、ゲートから吹き出す爆発が強すぎて破壊されていく。
魔物を配備しても、すり身が増えるだけ。
外の『白の教会』が、
上から絶えず押さえつけて圧をかけているので、
水蒸気爆発の勢いは弱まらない。
白服たちは百度を越える高温の蒸気の中、
トシオの指示で用意した防護服を着て作業をひたすらに続ける。
それでダンジョンを破壊できると聞いた限りは、
彼らにそれをやめる選択肢はない。
「……雨だ!」
そして、時期は雨季。
『死の荒野』にも雨は降る。
更に土と水の重さが追加され、
地下の爆発の勢いを強めていく。
地面からたちこめる水蒸気が空気を湿らせ、
雨雲を大きくしていく。
「……そうか。
そうなるのか……っ」
とうとうショウのコンソールに表示されたポイントが、
底をついた。
もうゴブリンの一頭も喚び出せない。
氷塊は、小さなダンジョンを貫き。
最奥のダンジョンコアを木っ端微塵に砕いた。




