第51話 誰がお母さんだ!
●死の荒野『白の教会』隠れ家最深部●
俺は土が剥き出しの部屋の真ん中に立ち、
目の前のゲートをにらむ。
既に残り時間が三十分を切ったので、
俺の目の前にゲートが現れていた。
「……本当にやるんだな?」
そう訪ねるのは、レオこと、カラさんだ。
「日本語の俺の名前を発音できるのはアンタくらいだ。
アンタにしか頼めん」
「……『氷眠刑』は、かなり苦痛を伴うぞ?」
さすが、体験者。
言葉が重い。
「でも、アンタは無事に目覚めた。
それなら、良い。
後は手はず通り、
頼んだからな?」
「……君には大きな恩がある。
私自身の目的とも合致するし、
手を抜くつもりは一切ないが。
本当に『教会』は介入しないのか?」
『教会』と言うか、
『闇の神』は『光の神』の復活でそれどころじゃないはずだ。
「大丈夫だろ。
介入されても、アンタらならやれる。
眠る前に、金髪と少し話したい」
「分かった。
部屋の外にいる」
カラさんは、頷いて部屋を出た。
部屋には俺と金髪の『聖女の右』の二人だけ。
「そっちも、手はず通りに頼む」
「承知しております」
深々と頭を下げる金髪に歩み寄り、
俺はその仮面をひっぺがした。
「マジで頼むぞ?
『光の神様』よぉ」
金髪こと、『光の神』が目を見開く。
「あー、無駄だぞ、言い訳は。
なんたって、
俺は『闇の神』の顔を見て覚えてるからな」
金髪の顔を見たときの既視感。
あれは、怨敵の顔そっくりだったからだ。
カラさんとオスマンサス王が髪色以外そっくりなように。
『闇の神』と金髪は、髪色以外瓜二つだ。
黒髪の『闇の神』と金髪の『光の神』。
対比としてもあり得る。
「オスマンサスの民主化。
それでアンタは力を取り戻せたはずだ。
頼むぞ、『闇の神』を抑え込め」
「……難しいことをおっしゃる。
私は既に神としては死んでます。
権能の欠片、
『聖女の任命権』と『聖女への加護付与』を持った、
人間の『聖女もどき』。
それが今の私です。
それに、あれの力はもう、
私でなんとかできるものじゃありません」
金髪が折れて、
自分の正体が『光の神』であることを認めた。
「既に世界の、国の仕組みに、
ダンジョンが深く根付いてしまっている。
更に、魔物も人々の驚異でありながら、
資源として成立している。
そのため、私の権能の『文明』と『都市』が、
あれに大半食われています。
食われた分、あれは力を増してる」
宗教で文明の発展を阻害しつつ、
人の生活にダンジョンと魔物を組み込んで侵食する。
なるほど、権能はそうやって取り合えるのか。
「補足しますが、
貴方が同じことをしても、
神ではないので権能は奪えませんよ?」
「けっ!
なんだ、そうかよ。
クソッ!」
『闇の神』から権能を全部ひっぺがして、
殺そうと思ったんだけどな。
「オスマンサスの民主化を支持したいとは、
思います。
しかし、確かに力を取り戻せましたが、
既に私は人間。
神として力を振るうことができない。
私には……、もう」
「時間稼ぎでいいんだよ。
『聖女の加護』を強化するとかでいい。
少なくとも、
俺が目覚めるまでは『教会』を抑えろ」
光の神が頭をかいた。
「じつは、少し前に『踏破の聖女』に、
『闇の神』が接触してですね。
彼女を助けるために、
私の力をほとんど使ってしまって」
「はぁ!?
ばっ! なんっ!?
くそがぁぁぁぁぁぁ!」
何してくれてんの、この神!?
「聖女が大分疲弊してて、
『闇の神』がダンジョンコアを持って逃げたんですけど、
それを追えるほど彼女の体力が残ってなくて。
一旦帰って休むように指示しました」
「あーー!!
もーー!!
くそがぁぁぁぁぁぁ!」
今知りたくなかったわ!
計画が!
残り時間二十三分で!?
糞がぁぁぁぁぁぁ!
「……も、申し訳ない。
彼女、この数日食事も睡眠もなしで、
ダンジョンコアを追っていたので……」
「クッソぉー!
分かった!
指示を変える!
お前、聖女が帰ってきたら、
風呂入れて寝かせろ!
起きたら飯食わせて、
予定を繰り上げて『大海のダンジョン』のダンジョンコアを追わせろ!
それでチャラ!
分かったか?!」
「……はぃ」
小さくなって謝罪する金髪。
俺はもうコイツは神とは呼ばん。
金髪で十分だ。
コイツが『闇の神』に良いようにされてるのが、
何となく納得できる。
コイツはポンコツ女神だ。
あのマッチョの像の方が頼れるわ。
「他の指示は継続だ!
本当に頼むぞ、頼むからな?
もう俺の中でお前の信用ゼロよ?
頼んだからな?」
「はぃ……。
ごめんなさいぃ……」
ダメ神だ、コイツ。
「ただいまぁ!」
ここで来んなよ、聖女ぉ。
どこからか聖女が現れて、俺の前で立ち止まった。
「主から、
休めってお告げがあった!」
「き、ん、ぱ、つぅ!?」
「ごめんなさいぃぃ」
金髪は慌てて仮面をかぶって土下座する。
聖女が俺の服の裾をぐいぐい引っ張って言う。
「あのね!
ダンジョンマスターがね!
『教会』の聖女だったの!
でね、でね!
聖女は仕留めたけどね!
ダンジョンコアを『敵』に取られたの!」
「……マジかよ!
良くやった!
すげぇぞ、お前!
さすが、聖女様!」
大型犬を褒めるがごとく、
聖女を褒める。
聖女も、でしょ、でしょ?!、
と嬉しそうに跳び跳ねる。
良く分からんが、
『聖女』がダンジョンマスター!
これは良い情報だ。
ただ、敵、ってことは『闇の神』が邪魔しにきたのか。
ダンジョンが破壊できなかったのは残念だが。
中間報告、と思えばこれは良い情報だ
「これで、しばらく『教会』は動けねぇ!
金髪より良い仕事するじゃねぇか!
金髪、さっきの指示は取り消し!
予定どおりの作戦を実行しろ!」
「……本当に、ごめんなさい」
金髪がまた小さくなる。
俺はそれを無視して聖女に話しかける。
「よし!
逃げた『敵』は後回しだ。
とりあえず、風呂に入って寝ろ」
「お母さん、お腹空いた!」
「誰がお母さんだ!
お風呂が先です!
金髪!
他のやつらも呼んで、
聖女を風呂へ入れろ!
ベッドへぶち込め!」
「はい!
すぐに!」
金髪が聖女をなだめすかしつつ、
二人で部屋を出ていく。
入れ違いでカラさんが入ってきた。
「……なんか、
艶っぽいことするのかと思ってたのに。
めちゃくちゃ説教してたね、君」
「あれのせいで、計画がポシャるとこだったわ!
『踏破の聖女』のお陰でリカバリーできたけど!」
カラさんが苦笑いしていた。




