第50話 逃げた!
●どこかの森の中●
黒いドレスを翻し、
『闇の神』はメグのダンジョンコアを拾い上げた。
「これ以上、好きにはさせない」
『踏破の聖女』は、
いつかのトシオのようにまばたきすらできず、
石を振りかぶった体制のまま動かない。
「忌々しい。
『光の神』から加護を貰った聖女」
『闇の神』を含む神が、
この世界の人間を直接殺すことはできない。
『死の神』のみ、この世界の人間を殺せる。
トシオは『闇の神』が連れてきた別世界の人間なので例外だ。
しかし、そのルールを破ることはできる。
破ると神はしばらく現世に関与できなくなる。
『闇の神』は、メグへ借りを返すため、
それを破ることにした。
「死になさい」
『闇の神』が右手を振り上げて、
振り下ろした。
その瞬間、『踏破の聖女』の身体がまばゆく光だした。
「なっ!?」
『闇の神』の力が霧散し、
『踏破の聖女』が動けるようになる。
「なんで?
『光の神』の力が?」
『闇の神』が困惑している。
『踏破の聖女』が敵を見つけた。
彼女は握った石を、
マサカリ投法で『闇の神』へ投げつけた。
『闇の神』は力を使ってそれを防ごうとしたが、
石がその力を砕いて貫く。
『闇の神』はかろうじて石を避けたが、
その頬から一筋の血が流れる。
すぐさま、『踏破の聖女』が追撃の飛び蹴りを放つ。
「なんで、力が増してるの!?」
『闇の神』は困惑しつつ、
『踏破の聖女』から距離を取った。
『光の神』の司るのは、人の文明。
オスマンサス王の宣言は、世界に届いた。
国が、貴族が人を統べる根拠の一つが、
『創世の神に選ばれた人間』だからだ。
オスマンサスはそれを手放し、
民主化をすると宣言した。
それは、明確な人の文明の変化、進歩だ。
それを糧に『光の神』の力が強まり、
『踏破の聖女』の加護も強化された。
『闇の神』と『教会』は、
それをさせないために百年前のオスマンサスに介入し。
内戦を起こして、反民主化を勝たせた。
それに気付いたトシオが、
オスマンサス王に『銀行』を教えた。
銀行は金融の流通経路を明確にするため、
融資などで土地から資産を切り離すためなど、
民主化には必要なものだ。
だが、この世界には銀行の概念からない。
商業ギルドは金貸しはするが、
銀行と呼べるほどの機能はなかった。
そう言うものを含めてまとめた『銀行』が、
トシオの言う『ダンジョンより国益になる話』だ。
オスマンサスの民主化宣言と、
議会政治の導入。
銀行の設立と言う大きな文化の進歩。
『闇の神』が必死に『神の御力』と言って誤魔化し、
文明や技術を進歩させないようにしたのは、
『光の神』を衰退させるため。
そして、文明の『無変化』が長期間続いたため、
『光の神』は死に瀕していた。
それに気付いたトシオが、
全てをひっくり返す一手を打ったのだ。
「あの男っ!」
『闇の神』はすぐに目的を変更する。
ダンジョンコアの確保だ。
『闇の神』はダンジョンコアを抱えて、
急ぎ闇に溶ける。
『踏破の聖女』は、もう一投石を投げたが当たらなかった。
「逃げた!」
『踏破の聖女』は地団駄を踏んで悔しいがり、
家路についた。




