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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第三章 充実した福利厚生!

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第48話 相手が勝ち誇ったとき

●どこかの森の中●


「しつこい!」


 小型のドラゴンの背に乗り、

空を駆けるのは、『聖女』。


「あははは!

見つけた!

敵だ! 敵だ! 敵だ!」


 それを走って追いかける、

『踏破の聖女』。


「なんで!

居場所が!

わかんの!?」


 ドラゴンの飛行速度を上げても、

『踏破の聖女』の速さの方が早い。

『聖女』が捕まらないのは、

飛行している為、高度があるからだ。


「逃げてもダメ!

ダメだよ!

人をたぶらかし、堕落させている!

『闇の神』の使途さん!」


 『最古のダンジョンマスター』は、

見つからないように実はたくさんのダンジョンを保有している。

ショウが『最大』なら、メグは『最多』だ。

 しかし、どこのダンジョンへ逃げても、

『踏破の聖女』は追いかけてくる。

真っ直ぐ、真っ直ぐ。

ダンジョンコアへ。


「ダンジョンに閉じ込めても突き破ってくる!

魔物の軍勢も、

モーセか、ってくらい左右に割ってしまう!」


 メグは舌打ちをして、最後の賭けに出た。

ドラゴンの背からタイミングよく、

メグが飛び出した。


「奥の手、……ここで使う!」


 奥の手とは、

『身体の乗っ取り』だ。

ダンジョンマスターになったときのメグは、

四十歳だった。

初期は、そのまま自分の身体で活動をしていた。

 『闇の神』から、面白い話を聞くまでは。


 ダンジョンマスターは、『魔物』なのよ?


 メグはショックは受けなかった。

むしろ、自分は生まれ変わったと捉えて、

自分で自分を調べた。

 そして、シェイプシフターを見つける。

シェイプシフターは、色んなものに姿を作り替える魔物だ。

ダンジョンマスターとして召喚した魔物は、

そのまま自由にさせて、

必要なときに命令してコントロールできる。

 そして、もう一つの機能として、

マスターの意識を召喚した魔物に憑依させて依代にできる。

外出するときの安全策の一つだ。

魔物の身体で活動すれば、

もし殺されても元の身体かダンジョンコアが無事なら死なない。


 その憑依を利用する。


 『聖女』として選ばれた美少女たちは、

メグの憑依したシェイプシフターを『聖水』と称して飲まされ、

死ぬ。

シェイプシフターは少女の体内に侵入して、

『脳』や『臓器』に擬態し身体を乗っ取る。

そうすれば意識はメグのまま、

美少女の身体を自分の身体にできる。

そう言うカラクリだ。

 メグの元の身体は『氷の鏡』を使って、

ダンジョンの最奥に封印している。

オスマンサスの建国より以前、

鏡が国宝になるより遥か昔の事だ。

 それと同じようなことを『踏破の聖女』に行えば、

殺せなくとも、無力化できるはずだ。

 メグは追ってくる彼女を見た。

『踏破の聖女』は狂喜の笑顔だ。

その右手には、金づちが握られてる。

 そう、ダンジョンコアはそれだけで割れる。

たったそれだけで、ダンジョンは壊せる。

大層な武器はいらない。

 さぁ、飛びかからんとした瞬間、

メグの全身から冷や汗が吹き出した。


 『踏破の聖女』の左手にあったのは、

見知った形の爆弾。


 手榴弾。

俗にパイナップルとも呼ばれている。

日本の映画やアニメでよく使われる、

『手で投げる爆弾と言えばコレ』と言う爆弾だ。

 第一次大戦、第二次大戦で使用されていた古い爆弾だ。

現代兵器の中では古いが、その分性能は折り紙つき。


 しかも、ピンが付いてない。


 『踏破の聖女』はレバーが外れないよう握ってるだけ。

いつでも爆発させられる状態だ。

 あの男、こんなものまで用意してたの?!

声は出せないが、メグは心の中で絶叫した。

これでは身体を乗っ取るときにあの爆発を手放すだけで、

殺られる。

 メグは偽物の爆弾か、とも思ったが、

ファンタジーの世界でチャフまで作ってしまう男だ。

見た目だけのフェイクだと言いきれない。

 そんなものを握って、

『踏破の聖女』は笑っているのだ。


 ダンジョンを破壊できるなら、

自爆も厭わない。


 狂ってる。

メグは自分の事を棚に上げてそう思った。

 しかし、メグはもう飛びかかってしまっている。

止まれない、戻れない。

 シェイプシフターは変身能力こそ凄まじいが、

その身体能力は人より弱い。

騙し討ち、不意打ち専門の魔物だ。


 でも、やるしかない。


 メグはとっさに、

シェイプシフターを聖女の身体から抜き出し、

ダンジョンコアを持って『踏破の聖女』から遠ざかるように跳ぶ。

 聖女の身体だけが『踏破の聖女』に向かって跳んでいく。

『踏破の聖女』は右手の金づちで一振するだけで、

聖女の脱け殻をひき肉にした。

 小型のドラゴンがそこに追撃をかける。

『踏破の聖女』は金づちの釘抜きの部分でドラゴンの爪を受け止め、

手首を返して爪を砕いた。

小型とはいえ、ドラゴンの爪だ。

金属すら砕くそれを、彼女は卵のように割って見せる。

 そして、金づちを振り上げてドラゴンへ投げつけた。

ドラゴンの頭がザクロのように爆ぜて裂ける。


「あれ?

ダンジョンコアは?

どこいった?」


 『踏破の聖女』は周囲を見回した。

しかし、人影はない。


「いよぉし!」


 そう言いつつ、『踏破の聖女』は足を高く上げた。

美脚が露になり、白い肌が月の光を跳ね返す。

そして、その足を振り下ろした途端。


「へぁ?!」


 両足が地面から離れて、

『踏破の聖女』の身体が浮き上がった。

足を振り下ろした勢いで、

空中で水車のようにくるくる回り、

姿勢の制御ができなくなる。

 メグのオリジナル魔法、

『重力喪失』だ。

突然無重力状態になった『踏破の聖女』は、

困惑した顔で回る。


「足が地面につかなきゃ、

『踏破』の力は使えない!」


 メグが笑ってそう叫び、

姿を木から人に戻す。

さっきひき肉になった美少女の姿だ。


「死ね!」


 メグは少し離れた所から、魔法をかまえた。

仕留めた。

そう確信し。


「『相手が勝ち誇ったとき、

ソイツは既に敗北している』。

あははは!」


 メグの知ってるセリフだ。

誰が教えた?

そんなの、あの男しかいない。

 『踏破の聖女』がそう言って笑っている。

両手を拡げて、

ピエロのマークのように両頬の横で開いて。


 左手に、何も持ってない。


 メグがそう気付いたときには、

もう、遅かった。


 爆発、閃光、衝撃。


 剥き出しのシェイプシフターの身体が焼け、

爆発で飛んできた鉄片で切り裂かれて、散り。

メグの意識が元の身体まで吹き飛ばされ、

ダンジョンコアを手放してしまう。

 地面に落ちたダンジョンコア。

そこに、魔法が解けた『踏破の聖女』が降り立つ。


「一つ目!」


 『踏破の聖女』は落ちていた石を拾って、

ダンジョンコアへ叩きつけようとした。


「待ちなさい」


 その瞬間、彼女の身体が動かなくなる。


「メグは殺らせない」


 そこに突然現れたのは、

『闇の神』だった。

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