第48話 相手が勝ち誇ったとき
●どこかの森の中●
「しつこい!」
小型のドラゴンの背に乗り、
空を駆けるのは、『聖女』。
「あははは!
見つけた!
敵だ! 敵だ! 敵だ!」
それを走って追いかける、
『踏破の聖女』。
「なんで!
居場所が!
わかんの!?」
ドラゴンの飛行速度を上げても、
『踏破の聖女』の速さの方が早い。
『聖女』が捕まらないのは、
飛行している為、高度があるからだ。
「逃げてもダメ!
ダメだよ!
人をたぶらかし、堕落させている!
『闇の神』の使途さん!」
『最古のダンジョンマスター』は、
見つからないように実はたくさんのダンジョンを保有している。
ショウが『最大』なら、メグは『最多』だ。
しかし、どこのダンジョンへ逃げても、
『踏破の聖女』は追いかけてくる。
真っ直ぐ、真っ直ぐ。
ダンジョンコアへ。
「ダンジョンに閉じ込めても突き破ってくる!
魔物の軍勢も、
モーセか、ってくらい左右に割ってしまう!」
メグは舌打ちをして、最後の賭けに出た。
ドラゴンの背からタイミングよく、
メグが飛び出した。
「奥の手、……ここで使う!」
奥の手とは、
『身体の乗っ取り』だ。
ダンジョンマスターになったときのメグは、
四十歳だった。
初期は、そのまま自分の身体で活動をしていた。
『闇の神』から、面白い話を聞くまでは。
ダンジョンマスターは、『魔物』なのよ?
メグはショックは受けなかった。
むしろ、自分は生まれ変わったと捉えて、
自分で自分を調べた。
そして、シェイプシフターを見つける。
シェイプシフターは、色んなものに姿を作り替える魔物だ。
ダンジョンマスターとして召喚した魔物は、
そのまま自由にさせて、
必要なときに命令してコントロールできる。
そして、もう一つの機能として、
マスターの意識を召喚した魔物に憑依させて依代にできる。
外出するときの安全策の一つだ。
魔物の身体で活動すれば、
もし殺されても元の身体かダンジョンコアが無事なら死なない。
その憑依を利用する。
『聖女』として選ばれた美少女たちは、
メグの憑依したシェイプシフターを『聖水』と称して飲まされ、
死ぬ。
シェイプシフターは少女の体内に侵入して、
『脳』や『臓器』に擬態し身体を乗っ取る。
そうすれば意識はメグのまま、
美少女の身体を自分の身体にできる。
そう言うカラクリだ。
メグの元の身体は『氷の鏡』を使って、
ダンジョンの最奥に封印している。
オスマンサスの建国より以前、
鏡が国宝になるより遥か昔の事だ。
それと同じようなことを『踏破の聖女』に行えば、
殺せなくとも、無力化できるはずだ。
メグは追ってくる彼女を見た。
『踏破の聖女』は狂喜の笑顔だ。
その右手には、金づちが握られてる。
そう、ダンジョンコアはそれだけで割れる。
たったそれだけで、ダンジョンは壊せる。
大層な武器はいらない。
さぁ、飛びかからんとした瞬間、
メグの全身から冷や汗が吹き出した。
『踏破の聖女』の左手にあったのは、
見知った形の爆弾。
手榴弾。
俗にパイナップルとも呼ばれている。
日本の映画やアニメでよく使われる、
『手で投げる爆弾と言えばコレ』と言う爆弾だ。
第一次大戦、第二次大戦で使用されていた古い爆弾だ。
現代兵器の中では古いが、その分性能は折り紙つき。
しかも、ピンが付いてない。
『踏破の聖女』はレバーが外れないよう握ってるだけ。
いつでも爆発させられる状態だ。
あの男、こんなものまで用意してたの?!
声は出せないが、メグは心の中で絶叫した。
これでは身体を乗っ取るときにあの爆発を手放すだけで、
殺られる。
メグは偽物の爆弾か、とも思ったが、
ファンタジーの世界でチャフまで作ってしまう男だ。
見た目だけのフェイクだと言いきれない。
そんなものを握って、
『踏破の聖女』は笑っているのだ。
ダンジョンを破壊できるなら、
自爆も厭わない。
狂ってる。
メグは自分の事を棚に上げてそう思った。
しかし、メグはもう飛びかかってしまっている。
止まれない、戻れない。
シェイプシフターは変身能力こそ凄まじいが、
その身体能力は人より弱い。
騙し討ち、不意打ち専門の魔物だ。
でも、やるしかない。
メグはとっさに、
シェイプシフターを聖女の身体から抜き出し、
ダンジョンコアを持って『踏破の聖女』から遠ざかるように跳ぶ。
聖女の身体だけが『踏破の聖女』に向かって跳んでいく。
『踏破の聖女』は右手の金づちで一振するだけで、
聖女の脱け殻をひき肉にした。
小型のドラゴンがそこに追撃をかける。
『踏破の聖女』は金づちの釘抜きの部分でドラゴンの爪を受け止め、
手首を返して爪を砕いた。
小型とはいえ、ドラゴンの爪だ。
金属すら砕くそれを、彼女は卵のように割って見せる。
そして、金づちを振り上げてドラゴンへ投げつけた。
ドラゴンの頭がザクロのように爆ぜて裂ける。
「あれ?
ダンジョンコアは?
どこいった?」
『踏破の聖女』は周囲を見回した。
しかし、人影はない。
「いよぉし!」
そう言いつつ、『踏破の聖女』は足を高く上げた。
美脚が露になり、白い肌が月の光を跳ね返す。
そして、その足を振り下ろした途端。
「へぁ?!」
両足が地面から離れて、
『踏破の聖女』の身体が浮き上がった。
足を振り下ろした勢いで、
空中で水車のようにくるくる回り、
姿勢の制御ができなくなる。
メグのオリジナル魔法、
『重力喪失』だ。
突然無重力状態になった『踏破の聖女』は、
困惑した顔で回る。
「足が地面につかなきゃ、
『踏破』の力は使えない!」
メグが笑ってそう叫び、
姿を木から人に戻す。
さっきひき肉になった美少女の姿だ。
「死ね!」
メグは少し離れた所から、魔法をかまえた。
仕留めた。
そう確信し。
「『相手が勝ち誇ったとき、
ソイツは既に敗北している』。
あははは!」
メグの知ってるセリフだ。
誰が教えた?
そんなの、あの男しかいない。
『踏破の聖女』がそう言って笑っている。
両手を拡げて、
ピエロのマークのように両頬の横で開いて。
左手に、何も持ってない。
メグがそう気付いたときには、
もう、遅かった。
爆発、閃光、衝撃。
剥き出しのシェイプシフターの身体が焼け、
爆発で飛んできた鉄片で切り裂かれて、散り。
メグの意識が元の身体まで吹き飛ばされ、
ダンジョンコアを手放してしまう。
地面に落ちたダンジョンコア。
そこに、魔法が解けた『踏破の聖女』が降り立つ。
「一つ目!」
『踏破の聖女』は落ちていた石を拾って、
ダンジョンコアへ叩きつけようとした。
「待ちなさい」
その瞬間、彼女の身体が動かなくなる。
「メグは殺らせない」
そこに突然現れたのは、
『闇の神』だった。




