第46話 スキンケア、大事だもんな
「トシ・オー様。
様子が変です」
金髪のその声で、俺は目を覚ました。
視界のタイマーの残りは十四時間を切っている。
四時間くらい寝てたか。
仮眠にしちゃ、長めだな。
「……おそらく、
この通路に人が入ってきてます」
「それはいいけど、
金髪は眠くないの?」
「私も今の間に少し仮眠をいただいてます」
寝て頭がスッキリして、良い感じだ。
難点は、『氷の鏡』に代わる案がないことだ。
金髪の言う通り、
なんとなく近くに人の気配がする。
人の声も聞こえてくる。
「まぁ、侵入経路を疑うならそこからだろな」
確か、俺が俺の家に着いたのが昼飯の少し前。
残り時間からすると、城の外はもう夜。
「捜索は一旦打ち切って、
部屋を調べたのか。
地下に戻ろう。
行ってない道があったろ?
あそこに行こう」
地下の分かれ道。
俺たちは西へ向かう道を進んだが、
北へ向かう道があったはずだ。
俺たちは極力音を立てず、
ランタンも魔法鞄に入れて進む。
地下までは問題なく戻れたが。
何かの魔法を使った金髪は、
声を殺して俺の耳にささやく。
「船着き場の出入口付近に気配がします」
「……予定どおり、北の道へ」
俺たちはもう少し進む。
分かれ道まで戻ったが。
「……後ろからきてますね」
「このまま北の道へ行こう」
俺たちは先を急ぐ。
しばらく進むと、少し広い場所に出た。
「螺旋階段か」
俺はランタンを取り出して、
足元を確認しつつ進む。
かなり長い階段だ。
なかなか先が見えない。
「三階くらいか?」
「この城は四階までです。
一番上にある王の自室に通じてるのかも知れません」
上から人は降りてこないが。
「下から大勢追って来てますね」
「突っ切ろう。
次どこに出たとしても、
通路から出て謁見の間へ行こうか」
上りきった先にある扉を押すと、
部屋に出た。
豪華な天涯付きのベッド。
扉は姿見だったようだ。
「……王の寝室か」
「そうだ」
俺の呟きに応えたのは、
なにかの野菜の輪切りで顔をパックして俺たちの前に立っていたオスマンサス王だった。
「スキンケア、大事だもんな」
「……そうだな」
突然のことに、何故かお互いに妙に冷静だ。
「トシ・オー。
まさか、城に来るとは」
「おう。
そりゃ、要るもん盗らなきゃな」
「……執務室の、お前か」
オスマンサス王はすわった目で俺を見つめる。
姿見で自分の姿を映してスキンケアしてたらしい。
よく見ると、服装もバスローブなのか。
「自首するかね?」
「まだ、しねぇ。
ただ、俺がこのままこの国にいたら、
滅ぶぞ、ここ」
オスマンサス王の眼光が鋭くなる。
「脅し……ではないか。
事実をのべているようだな」
「ご明察。
俺は今、
『大海のダンジョン』のダンジョンマスターに命を狙われている」
「……ダンジョンの異常事態は、お前のせいか」
オスマンサス王が俺をにらむ。
俺はため息をついて言い返す。
「それはダンジョンマスターのせいだ。
俺は命を狙われて逃げ回ってるだけだぞ?」
「……なら、何故ここに来た?」
俺は後ろを指差して。
「話したきゃ、俺らの後ろのを止めろ」
「……ちょっと、そこをどけ」
オスマンサス王が通路に頭を突っ込んで声を張る。
「集合!」
階段の下がざわつくのが聞こえてきた。
「はよ、来い!
ここで待機だ!」
やっと数人、階段を上がってきた。
オスマンサス王は野菜を顔から剥がしながら。
「三人そこにおれ。
二人、扉の脇に立て。
一人、私とトシ・オーの話を書いて記せ。
書記が今日はもう帰っていない。
字が綺麗な者を。
残りは、階段の下で待機」
敵だが、オスマンサス王はやはり。
「お前、頭良いな」
「お前がいうと、
嫌みにしかならん台詞だな」
後、この皮肉の言い合いは心地良い。
「さて、話せ」
「前提条件を先に言う。
朝には俺を中心にダンジョンのゲートが開く。
そして、魔物がゲートを開いてあふれ出し、
氾濫する。
最大の広さを誇るダンジョンである、
『大海のダンジョン』の魔物全部が飛び出してくる」
オスマンサス王は、目を見開いて歯軋りした。
「来んなよ、ここに」
「はっ!
それが、素か?
王様?」
オスマンサス王、俺は好きだな。
「お前を牢に入れても変わらんか?」
「無理だろうな。
魔物が大地を埋め尽くしても有り余るくらい、
あのダンジョンには魔物がいるはずだしな」
王はうなる。
「お前を『氷眠刑』に処しても?」
「下手すると、氷漬けの俺は助かって、
周囲の人や街は壊滅するぞ?」
王は頭をかきつつ、俺の身体を上下見回す。
「椅子座れ。
……酒は?」
「貰おう」
俺はベッドの脇のテーブルに案内され、
腰を下ろした。
王自ら取り出したのは、蝋で封された酒瓶。
「この酒は、レオ殿の作った酒だ。
その名も、『クラウン』」
琥珀色の酒は、
グラスに注がれた途端に芳醇な香りを振りまく。
「……ウイスキーか」
「分かるんだな。
なら、お前も『迷い人』か」
迷い人。
俺のように異世界からごく稀にこの世界に来てしまった人の総称だ。
俺自身、それを大々的に公言したことはない。
しかし、こんなバレ方は想定外だ。
「……レオは、迷い人だったのか」
「そうだったらしい。
私も記録でしか知らんが、
私の身体に流れている血もお前に近い」
オスマンサス王は綺麗なブラウンの髪で、
彫りが深い。
いわゆる、イケてるジジイ。イケジジだ。
日本人っぽさはない。
まぁ、少なくとも四世代は経過してるから、
見た目に出るような遺伝因子は残ってないだろう。
「私の娘が、
お前のような黒髪をしている」
「……くそがぁ。
分かったぞ。
『教会』は迷い人を潰したかったのか。
この世界とは異なる常識を受け入れたくなかった。
民主化、政教分離、身分制の撤廃。
そう言う『異世界の概念』を拒絶したいんだ。
だから、影響力が大きい『王族の迷い人』を、
民主化反対を傘に潰した」
俺はグラスを受け取って大きなため息を吐き出す。
王はそれを見て何故か安心した顔をした。
「……私も、お前と同じ結論に至った。
そして、当時の王はなんとかレオ殿を生かしたくて、
『氷眠刑』にした。
『教会』も我が国の極刑である以上、
何故死刑ではないのか、とは言わなかったらしい」
王はグラスを傾けた。
俺は金髪に頼んで、
グラスに魔法で作った氷を入れて貰う。
「薄まるぞ?」
「冷えると風味がまた良いんだ」
「……私にも」
金髪は仮面越しでも分かるくらい呆れながら、
オスマンサス王のグラスにも氷を入れる。
「……あぁ、冷えるとまた違う顔になる。
旨い」
「炭酸水がありゃ、
ハイボールになるんだけどなぁ」
「なんだそれは?
飲みたいぞ」
「話、話の続き!」
耐えきれなくなった書記代わりの兵がそう言う。
よく見たら、
その兵は少し前に地下で将軍と呼ばれてた人だ
「将軍様が書記代理?
贅沢だな」
「コイツ、文字綺麗に書けるんだ。
学生時代、やんちゃしまくって、
反省文書きまくったからだろが」
「お前の反省文も代筆したろうが。
自分のやんちゃを棚に上げんな、王」
将軍が我慢できずツッコミをいれる。




