第42話 あやしいから、そこ行くか
玉座に座った王の視線の先に、氷漬けの王弟。
そして、王の背中に向けて、『氷の鏡』が置かれている。
自戒と、懺悔と、後悔を表しているとか。
「俺からすりゃ、趣味悪いわ」
雨の中の城を見上げて、俺は嘆息した。
オスマンサスのに潜伏していた『白の教会』は、
なかなか有能だ。
彼らは『死の荒野』の隠れ家に帰還石で帰還する、
というので、地図や資料をいただいたが。
資料の中に城の見取り図まであった。
謁見の間は城の二階で、
厳重な警備だが、
他の部屋に比べると割かれている兵の人数が少ない。
城と言うものには、必ず秘密の通路がある。
王族や他国の国賓を緊急時に逃がすためのもので、
一部の人物だけが知る道だ。
「見取り図から、
なんとなく出入口になって通れそうな所は分かるが。
これがどこに通じてるかまでは分からん」
城の外に通じる道もあるはすだ。
秘密の通路を見つけて逆走すれば、
外から中へ入れるだろう。
俺は金髪に無茶ぶりしてみる。
「隠し通路、心当たりある?」
「こう言うのは、
墓地とか下水路に繋がってるのがセオリーですね」
「確かにそうだけど。
……ここ、
オスマンサスはダンジョンを保有する前は、
貿易で栄えてたよな?
陸路か? 海路か?」
「海路です」
なら、船だ。
海路で貿易してたとすれば、身近なのは造船技術。
なら、通路の先に船と水路を用意して、
川に通じてる抜け道を用意してる可能性は高い。
「昔の水路とかの資料あるか?」
「こちらに」
俺たちは路地裏に雨宿りして、
資料を開く。
プニャードのそばには川が通っていて、
海と通じている。
この川は海と陸をつなぐ交易路として今も使われている。
今日は全て閉鎖されてるみたいだが。
「古い船着き場が城の北にあります。
街の中まで繋がってて、
王族への献上品を運んでたそうです。
ただ、今は使われていません」
「あやしいから、そこ行くか」
俺たちは雨の中、人目を避けて進む。
たどり着いた古い船着き場に船は一艘もない。
「城壁の外だけど、すぐそこが城か。
あれ、城に繋がる裏口だろ
糞が。
雨だってのになかなかの人数だな」
「さすがに厳重に警備がいますね。
もう少し調べましょう」
俺の視界のタイマーはすでに二十四時間を切った。
時間が足りない。
「船着き場、ってか、
水草と藻が増殖してて船が出せないのか」
古い船着き場は、
水辺が緑になるくらい水草や藻が生い茂っている。
浮き桟橋まで降りて水に手を入れたが、
手に伝わる触感は草。
これでは船はつけられない。
「こりゃ、船がつけられなくて、
閉鎖されるわ」
「周りを調べましょう」
俺は港の周辺を見つめる。
人は俺たちしかいない。
川は緑色で、
せっかくの立派な船着き場なのに使えない。
立派な石積みの護岸。
しばらく放置されてるのか、
川へりから浮き桟橋に降りる階段もあちこちぼろくなっている。
「……階段、一つだけ石造りだ」
大きな川だ。
深さも結構ある。
その水面に浮いてる船着き場は六つ。
どれもかなり大きい浮き桟橋だ。
六つ階段もあるのだが、
五つは木の階段なのに、
一つだけ石造りだった。
俺たちはそこへ向かう。
「護岸の一部と階段がくっついてるな。
通路とか隠せそう」
「詳しく調べましょう」
石段を調べると、
獅子のレリーフがいくつも彫られている。
オスマンサス軍の旗にもあった意匠だ。
「レリーフの獅子が一つだけ逆向きだ」
俺がそれを押すと、
石積み護岸の一部がガコン、と動いた。
金髪を呼んで、
動いた部分を二人で押すと通路が出てきた。
「手間取らせてくれたなぁ、糞め」
「私が先行しましょうか?」
「時間が惜しい。
二人で入ろう。
金髪のは帰還石を持ってるか?」
俺は一応、
『白の教会』の隠れ家に戻れる帰還石をもらっている。
「私もトシ・オー様と同じ、
『死の荒野』の隠れ家に帰還するものを持ってます」
「分かった。
いざとなったら帰還石を割れるようにしてろ」
そう指示して、
俺たちは通路へ入っていった。
「明かり付けるぞ」
俺は魔法鞄からランタンを出して、火を灯す。
そして、入ってきた入り口を閉めた。
辺りはランタンのあかりだけ。
「しっかりした通路だな」
石材で舗装された通路の横幅は、
人が一人ちょうど通れるくらい。
高さは少し低く、中腰でしか歩けそうにない。
そして、道は緩く下り坂になっていた。
「道は城の方へ向かってます。
私が先に行くので、
トシ・オー様は三歩ほど後ろを歩いてもらえますか?」
「ランタンもう一つ出そうか?」
「いいえ。
明かりがない方が、
出口から漏れる明かりが見えやすいので」
そう言って彼女は数歩先を先行する。
俺はそれに続いて歩く。
しばらく直進だ。
道は確実に城へ向かってる。
まだ下り坂が続いていて、
地下二階分は降りている。
「止まってください」
金髪のその声に従って、
俺は立ち止まる。
金髪の背中が闇に消えた。
「トシ・オー様、扉です」
金髪がそう言って戻ってきた。
俺は金髪の案内にしたがって進む。
そこには木の扉がある。
「風は通ってますが、光は見えませんでした。
おそらく、城内の秘密の通路に出たのではないかと」
「地下ってことは、牢屋か」
俺たちは扉を開いた。
石材でできた通路から、石積の荒い通路に変わる。
道幅は変わらないが、天井が高くなって、
立って歩けるようになった。
「分かれ道か」
そして、そこから道が分かれている。
見取り図と来た道をあわせて考えるに、
間違いなく城の中には出ている。
分かれ道はどちらも平坦な道で、
西方向と、北方向に分かれていた。
「謁見の間は二階。
上に上がりたいが、どっちも平坦な道か」
「謁見の間はさっきの船着き場から西にあるので、
西へ向かいましょう」
俺は金髪の提案に乗っかって、
西へ歩き出す。
少し進むと、進路に光が差し込んでいる。
俺はランタンにカバーを被せて光を遮る。
金髪が先行して、光の差し込む辺りに近寄る。
「……っ!」
金髪は口を塞ぐ仕草をして、慌てて手招きする。
俺は口を閉ざして、足音を殺して金髪の近くに来た。
光の差し込む先から、話し声が聞こえる。
「いつになったら、
トシ・オーは捕らえられるんだ!?」
「王よ、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか!?
『大海のダンジョン』が水没したんだぞ!?
こんなこと、今まで一度もなかった!
あの男が現れるまでは!」
人気者は辛いな。
俺は顔をしかめて話の続きを聞く。
「軍は治安維持と『大海のダンジョン』の調査に出払っていて」
「分かってる!
分かってるが、
これでは聖女のお告げの通り、
『トシ・オーを害そうとした我が国に異常が起きている』、
と他国から指摘されるぞ?!」
声しか聞こえないが、
オスマンサス王はかなり追い詰められている様子だ。
周りの人々が懸命になだめている。
「すぐに捕らえて、『氷眠刑』に処せ!」
「王よ、もう少しお待ちください」
ここは地下。
どうやら、国の重鎮を集めた会議らしい。
隙間から部屋を覗くと、会議室と言うより、
軍の指令室のような部屋だった。
「将軍、現状は?」
「浮浪者どもも使って、ダンジョンを調べています。
ただ、水没しているのでなかなか奥へ進めません」
「警らの方は?」
「マンチャータにいた商人たちはほぼ全て、
隣街のトニギへ移動。
住民も大半は他の街に自主避難し。
冒険者たちは『死の荒野』の方へ仕事を求めて散りました」
ダンジョンからの魔物の氾濫は、
大災害だ。
その上、ダンジョンが最大と言われる『大海のダンジョン』。
そこから魔物が氾濫したら、
マンチャータを含めた近くの街は一瞬で魔物で埋め尽くされるだろう。
規模によってはここ、プニャードも危険地帯に含まれる。
「……王。
もう、トシ・オーは一旦置いておいて、
ダンジョンの異常を警戒した方がいいのでは?」
「……それも一理ある。
しかし、もし、
トシ・オーがこのダンジョンの異常を起こした本人なら?」
ごめんな、その通り。
原因は俺だわ。
俺はそう心の中で謝り、苦笑いした。




