第41話 雰囲気最悪だわ
プニャードまで三日の予定だったが、
雨季が始まってしまい四日もかかってしまった。
「あと一日?
ヤバイぞ。
マジで時間がない」
視界の角には残り時間が表記されている。
残り、一日と四時間。
マジでヤバイ。
「プニャードに潜伏してる『白の教会』メンバーはいるのか?」
「いますが、どうされましたか?」
「聞きたい情報がある。
ソイツが知ってるか分からんが、
聞いてみたい」
俺は馬を預けてすぐさま潜伏してる『白の教会』のメンバーに会いに行くことにした。
雨の街中は剣呑とした雰囲気。
俺と金髪はフードをま深く被って街を行く。
「王都だろ?
何で人が少ないんだ?」
「やはり、
『大海のダンジョン』の異常が原因では?」
金髪の言う通りか、
道行く冒険者同士で喧嘩が起きていた。
仕事がなくて焦ってるようだ。
「商人たちも、
ダンジョン産の商品が手に入らなくて、
かなり困惑しているそうです」
「……食い物はそんなにだが、
木材とか値上げされてるのか」
金髪の案内で路地裏へ入る。
そこは、もっと異様な雰囲気だ。
「……ここ、本来は人がいたんだな?」
放置されたゴザや、掘っ立て小屋。
しかし、
そこを寝床にしていたはずの孤児や浮浪者は一人もいない。
「お前、話してた仲間は無事か?」
「……心配になってきましたね。
急ぎましょう」
俺たちは走り出した。
たどり着いたのは廃墟。
そこももぬけの殻だ。
「遅かったか?」
「彼らも『聖女の右』です。
符丁を隠しているかも」
金髪の言うことには、
『聖女の右』にしか読めない暗号があるらしい。
手分けして、廃墟をくまなく探す。
「金髪。
ここ、どうだ?」
倒れた柱の裏に手をやると、
木目とは違う触感がある。
「見えねぇけど、なんか刻んでるな」
「ひっくり返しましょう。
そちらを持ってくださいますか?」
俺たちは柱をひっくり返した。
柱の側面には、
俺には分からない記号のようなものが刻まれている。
金髪はそれを見て険しい顔をした。
俺はおずおずとたずねる。
「……どうだ?」
「彼らは無事なのようです。
この記号は隠れ家を変えたことを示す符丁。
隣のは、複数ある隠れ家のどれに行ったか。
そして、最後はそこに行った理由。
どうやら、
『国軍が裏路地にいた人間を一斉に捕らえ始めた』らしいです」
……嫌な予感しかしない。
国軍が捕らえた人間をどうする?
「捕まったやつら、
『大海のダンジョン』に連行されたんじゃねぇか?」
「……可能性は高いです。
ダンジョンの異常を調べるのに、
人間が必要です。
それに軍人を送るのは、あまりにリスキーです。
その代わりに、と
罪人をダンジョンへ送ることがあると聞きましたが。
それすら、使い尽くしたなら?」
俺は金髪と顔を見合わせた。
「金髪の。
俺の大まかな目的をここで伝えよう。
一つ、オスマンサス国宝『氷の鏡』をいただく。
一つ、百数年前に『氷眠刑』を受けた、
当時の王弟を解放する。
一つ、解放した王弟をかくまう」
「……理由は?」
金髪の顔が仮面越しに険しくなってるのが分かる。
「今回の鍵は、
『氷の鏡』による『氷眠刑』がどういうものか、だ。
それを調べたい。
可能なら、俺が触れて色々試したい」
「あと一日で、ですか?」
「あぁ、その通り」
移動による時間のロスが痛かった。
かなり、ピンチだ。
「分かりました。
とりあえず、この次の隠れ家へ向かいます。
情報を集めて、
必要なら城に忍び込みましょう」
「刑場とかにあるんじゃねぇか?
国宝とは言え、刑を執行する道具だしな」
俺は金髪の後についていく。
今度は街の中央通りへ出た。
冒険者同士がもめて、国軍が仲裁している。
開いている店がほとんど見当たらない。
窓から外を覗く人々は、ひそひそと何かを囁き合う。
「雰囲気最悪だわ」
「トシ・オー様、こちらです。
しばらく、
私の指示通りにお願いいたします」
俺は金髪の後に続いて酒場に入った。
道に冒険者は多いが、酒場は閑散としている。
金髪はカウンターに座った。
俺はそのとなりに腰かけた。
「エール、二つ。
トシ・オー様、お金は私が出します」
「分かったよ」
俺は金髪の言う通り、指示に従う。
店主がエールを二つ、持ってきて俺たちの前に置いた。
その店主に金を私ながら、金髪がいう。
「逆さまだね」
「そうでもないさ」
「なら、良いか」
店主は笑って去っていく。
金髪のさっきのは、合言葉か?
「運が良かった。
この店に今いるのは、
皆仲間です。
すまない。
全員来てくれ」
金髪がカウンターからそう言うと、
数名の客が立ち上がって、
テーブルを店の中央へ集め出す。
店主は閉店の看板を持って店から出た。
そして、俺と金髪はその中央の席に移り、
店主を含めた客たちと向き合う。
「皆、お疲れ様。
こちらにおわすのが、
『聖人』トシ・オー様だ」
金髪の紹介に異議はあるが、
口には出さない。
顔にだけ出しておく。
金髪は構わず続ける。
「ここ数日のこの街のことと、
『氷の鏡』について教えてほしい」
「あぁ、得に『氷の鏡』のありかと、
百数年前に『氷眠刑』に処された王弟の居場所を知りたい」
俺が追加でそう言うと、
店主は口を開いた。
「五日前に、
国軍が路地裏の住民たちを狩り始めた。
どうやら、
『大海のダンジョン』の異常を調べる人足にされてる。
荷物持ち兼、肉の壁だ」
想定した通りか。
「大海のダンジョンがおかしくなってから、
この国はなんと言うか、
多いに慌ててる」
「あぁ、物価が乱高下してる」
「国軍は非番までかり出して、右往左往してる」
客たちの言葉を繋げると、
『大海のダンジョン』の異変以降、
国民の生活がままならないほど国が動き出したようだ。
「きっかけは、
脱獄囚だと聞いている。
貴方のことだろ」
「あぁ。
オスマンサス王は、
死にものぐるいで貴方をさがしてるそうだ」
「マジかよ、糞か」
俺は頭を抱えてそう呟いた。
「次は、『氷の鏡』か。
『氷の鏡』は宝物庫じゃなくて、
謁見の間に飾られてるそうだ。
玉座の背の壁にある鏡らしい」
宝物庫も謁見の間も、
警備はどのみち厳重そうだな。
俺は眉間にシワを寄せる。
「以前、『氷眠刑』を受けた当時の王弟も、
謁見の間に飾られてるらしい。
『氷の鏡』で凍りついた人は、
氷像みたいになるんじゃなくて、
『氷の壁』みたいになるらしい。
今も謁見の間の壁に埋め込まれて、
今も凍りつき眠っているそうだ」
「なら、次の目的地は城の謁見の間か」
思い描くイメージは、
有名なSF映画の壁に埋まったあの人。
あれも炭素冷凍だったっけか。
あんな感じになるのか?
俺は軽くため息をついた。




