第40話 変装とかいる?
俺は金髪の『聖女の右』と二人で馬を走らせ、
一昼夜で『死の荒野』を抜け、オスマンサスに入った。
「ここからプニャードまで、まだ距離があります。
近くの町で馬を休ませてから、進みましょう」
金髪はそう言って近くの町の方角へ馬を向けた。
俺もそれに追従する。
この三年で必要にかられ、仕方なく乗馬の練習をした。
なので、普通に俺一人で馬に乗れる。
俺は馬の背を撫でつつ、金髪を追って森の中に入った。
「すまんが、後五日しかねぇ。
プニャードまで、どれくらいかかる?」
「ここから一旦、
『大海のダンジョン』があるマンチャータに行きます。
そして、そこに潜伏してる瞬間移動ができる仲間に、
魔法でプニャードへ移動させてもらいます。
マンチャータに到着すれば、一瞬です。
しかし、今向かっている町からマンチャータまで、
もう一日はかかる距離です」
休まず走れば、
なんとかなりそうな距離だ。
俺は気になったことを金髪に質問した。
「マンチャータってか、
オスマンサス全体のことだが。
俺、脱獄囚だけど、このまま町に入れるの?
俺、変装とかいる?」
「仲間はマンチャータの町の郊外にいますので、
町に直接入らなくてもたどり着けます
今向かってる町は『死の荒野』に近い片田舎の町なので、
そのままで問題ないかと」
国軍による検問がなきゃ、
なんとかなりそうだ。
俺はとりあえず、金髪に続いて馬を飛ばす。
「オスマンサスの国宝『氷の鏡』、と
おっしゃいましたが。
何か策がおありですか?」
金髪が突然そう聞いてきた。
彼がここまで静かだったのは、
『死の荒野』の中だったからか?
俺は声を張る。
「今はない。
オスマンサス内で俺の扱いがどうなってるか次第だ。
検問を張りまくって、
軍も出して厳戒態勢で俺を探してるかどうか知りたい」
「かしこまりました。
その辺りも次の町で様子を見つつ進みましょう」
最悪、俺が捕まれば『氷眠刑』の執行時にお目にかかるが。
それは最終手段だ。
もうすぐ日が暮れる。
町に入るのは夜になりそうだ。
「もうすぐ街道に出ます。
検問があるか、一旦止まって確認しましょう」
すると、森が開けて出口に出た。
そこで止まって、少し先に道が見えたのだが。
「……なんだあれ?」
望遠鏡を使わなくても肉眼で見える。
街道沿いにたくさんの馬車が列をなしていた。
「……皆、検問に並んでる訳じゃなさそうだけど」
「何かあったのでしょうか。
トシ・オー様。
私が先行して行って参ります。
トシ・オー様はここでお待ちください。
夜営の準備をお願いしても?」
「おう。
わかっ……。
おま、そんな顔だったんか」
金髪は、仮面を取り顔をさらけ出して、
服の『白の教会』のシンボルマークを隠す。
彼の顔、否、
彼女の顔は目を見張るほど美しい。
「……お前、
どっかで見たことある顔だ」
「ご冗談を。
私たちはこの前、
聖堂で会ったのが初対面です」
どっかで見た顔だ。
俺の記憶はそう言っているが、
彼女は否定している。
金髪が街道に向かって馬を走らせた。
俺は馬から降りて、
魔法鞄から桶を取り出し水筒の水を注いだ。
馬の前におくと、馬は水を飲み出した。
「ついでに見とくか」
俺は魔法鞄から望遠鏡を取り出し、
街道の列の先が見えないか覗き込んだ。
「どこだ?
列の端が見えないぞ」
かなり長い列らしい。
先頭も最後尾も見つからなかった。
仕方がないので、
簡易の夜営道具を魔法鞄から取り出して用意する。
薪は拾わずとも、鞄にたくさんあるのでそちらを使う。
焚き火を炊いて、
馬のエサを馬の前に置いておく。
馬はすぐに食べ始めた。
しばらく焚き火を眺めて火の番をしていると、
金髪が馬に乗って帰ってきた。
「お帰り」
「ただいま戻りました。
……大変なことになっています」
とりあえず、
俺は金髪を焚き火を挟んで座らせた。
「『大海のダンジョン』が突然、水没したそうです。
それで誰もダンジョンへ入れなくなって、
マンチャータの機能が停止。
貿易港で隣町のトニギへ商人が逃げ、
『死の荒野』の近い次の町等に職にあぶれた冒険者たちが移動しているそうです。
そして、目の前の街道にいるのは、
冒険者の列らしいです」
『大海のダンジョン』のマスターが動き出したようだ。
俺は思考を張り巡らせつつ、話を促す。
「ってことは、
マンチャータはもぬけの殻か?」
「国軍が領主の軍と一緒にダンジョンを包囲して、
ダンジョンの魔物の反乱を警戒していると」
ただの脱獄囚のために検問してる場合じゃないってか?
「これでは、マンチャータへ向かうのはむしろ危険です。
直接プニャードに向かうしかありません。
今日はここで野宿して、
明日は少しでもプニャードに近づきましょう。
馬ならここからプニャードまで三日はかかる距離です。
ただ、国軍がマンチャータに固まっているはずなので、
明日からは警戒して進むのではなく、
急いで移動距離を稼ぎましょう」
「是非、そうしてくれ。
あー、糞。
『氷の鏡』を奪う策が全部パーだ。
どうしたもんか」
俺はそうぼやいて、
大きなため息をついた。
金髪はそれを見て少し笑い、二人で野宿した。




