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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第三章 充実した福利厚生!

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閑話 まい進

●大海のダンジョンの管理室●


 ショウは闇の神の見せた映像を食い入るように見つめ、

冷や汗を流した。

そこに写っているのは、

『最古のマスター』が敗走する映像だ。


「気を付けなさい。

相手は異常よ」


 闇の神はそう言って眉間にシワを寄せている。

ショウは映像を見つめながら、口を開いた。


「私も彼について、

調べました」

「どうやって?」

「彼の住んでいる町の冒険者たちから、

情報を買いました。

 トシオ、

発音の違いからかトシ・オーと呼ばれている彼は、

『ダンジョン学者』として有名な人物でした」


 闇の神が怪訝な顔をした。


「彼は三年間、

一日たりとも休まず、

ダンジョンと魔物について、

冒険者から話を聞き。

書物を読み漁り。

妙なことを繰り返す。

 最後の妙なことは、

『実験』をしていたようです。

この世界を、

自分が知る科学の物差しで理解できる形にするため」


 闇の神が渋い顔に変わっていた。


「そうなりますよね。

 我が神よ、ご忠告痛み入ります。

しかし、事実彼は偶然でも、単なる人海戦術でもなく、

実力でダンジョンバトルに勝った。

この映像と情報は、まさにそれを実証している」


 ショウが闇の神の足元に跪き、

頭を垂れる。


「我が神よ。

それでも私は必ずや、勝利を貴女に捧げます」

「分かりました。

期待していますよ、ショウ」


 闇の神はそう言い残して消えていった。

ショウは立ち上がり、自分の椅子に座る。

 そして、ショートカットにされた指示ボタンではなく、

一から自分で細かく指示を出して行く。


 画面に写し出されたのは、

五十万の魔物の大群。


 ダンジョンバトルが始まったら、

これらの魔物がトシオを襲う予定だ。

ショウは念入りにダンジョン内で軍隊の運用のシュミレーションを行う。


「一瞬でも相手に主導権を渡してはならならい。

その一瞬で全て持っていかれる。

まるで、『落とし穴』のような人物だ。

 だから、私は開始直後からクライマックスにする」


 魔物はまず、ウンディーネ。

五万のウンディーネが一斉にゲートから飛び出しつつ、

大量の水を出してフィールドを水中に変える。

 そして、水龍が十万。

研ぎ澄まされた大剣が並んでいるような、

その鱗で泳ぎ回るだけでフィールドを削り更地に変え、

隠れる場所を奪う。

更に、地面をすりばち状に削り出し地形を再形成して、

水流を作って水から簡単には出られないようにする。

 ここまでで最速は十五秒。

しかし、十五秒あれば帰還石を割ることができる。

ゲートはトシオを追いかけるが、

既にゲートからでた魔物たちは置いていかれるので、

後一秒はタイムを縮める必要がある。

 そして、次は水の中を蹂躙する。

二十万のマーマンの軍隊が水中を占拠し、

生き物全てを殺戮していく。

一万のクラーケンがそれに続き、ゲート周辺を確保。

水龍が更に周囲を削りウンディーネが水を更に増やして、

こちらのフィールドを拡張していく。

 約四十五秒で琵琶湖の半分くらいの大きさの湖ができた。

こうなれば、負けることはない。

残りの十四万の魔物たちを解き放ち、

津波のように全てを飲み込む。

 有象無象の区別はしない。

皆殺しだ。


「やはり、課題は始めの十五秒だ。

後、一秒でいい。

どうにか縮めなければ」


 誰が見ても必殺の布陣だ。

しかし、ショウにおごりはない。


「私がこれに相対するならば、

『死の荒野』の土をまくか?

あれは水と相性が良い。

 しかし、この水量を飲み干すには、

どれくらいの量が必要だ?

数百トンはひつようだ。

魔法鞄をそれだけでいっぱいにしたとしても、

足りないだろう」


 魔法鞄という便利なものはあるが、

その要領は限界がある。


「帰還石の帰還ポイントを『死の荒野』の真ん中にして、

バトル開始直後に移動する。

 これは、ありえる。

ただ、こちらが用意している戦術と戦略を事前に知らないとできない対応方法だ。

対応される可能性は低い」


 ショウは様々なパターンを想定し、

念入りに作戦の隙間を埋めてていく。

現在、リストアップしている敵対パターンは、

百パターンを越えた。


「私が『大海のダンジョン』のマスターだと知られている以上、

水を中心にした戦術だと読まれている。

だから、むしろダンジョンの中は水で満たしておく。

呼吸が必要な人間や海水に弱い魔道具はこれで入れない」


 樹海図的に広がる戦略を全て網羅できたとしても、

おそらく相手はそれを覆す何かを用意する。

そう想定しつつ、しかし、基本はしっかり踏襲する。


「チャフのようなものまで用意した彼の手腕を考えれば、

『電気』、『音響兵器』もありうるか?」


 海水は電気をよく通す。

海ほど広大な範囲と膨大な水量なら、

むしろ、電気を急速に伝達、拡散してしまう。


「開始直後は、電気を食らうと不味いな」


 さらに、音響兵器、つまり振動も同様だ。

水中でソナーのように使うならまだしも、

攻撃として使う場合は範囲と水量がキーになる。


「やはり、出だしの放水を十秒で済ませる。

それならゲートからこちらのダンジョン内の水に電気や音も伝わるものの、

ダンジョン内は擬似的な海。

膨大な水量と広大な範囲が拡散させて、

ダメージを軽微に抑えられる」


 始めに投下するウンディーネの数を増やしたとしても、

ゲートの大きさは変えられないので、

一度にゲートを通るウンディーネの数は増えない。

なので、時間はそんなに縮まない。


「後五日。

五日でこの作戦を固めて形にする」


 ショウが勝利のために惜しむものは何もない。

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