第38話 たぁんと味わえ
●???●
ゴーレムの群れが隊列を組み、
大地を駆ける。
ゴーストたちが斥候として、その頭上を飛び交う。
「あら?
あれは何かしら?」
その映像を見ている『闇の神』が、
魔物の群れを操作するメグに問いかける。
闇の神の指差す方に、『白の教会』の砦があるのだが。
「あちゃー……。
すごい人かも、サトウさん」
突然、大規模魔法が発動し、
砦の前の大地を左右へ押し上げ、
荒野に即席の峡谷を穿った。
両側には荒い土の山肌がそびえ、
中央には砦まで続く細く長い一本道だけが残されている。
魔物軍勢は、
今の隊列と速度では通れそうにない道だ。
これはただの『一本道』ではない。
言わば、大きな獣が口を開いている状態だ。
「山を登って越えるか、破壊するか。
罠と知りつつ、あの一本道を進むか。
ゴーストを前に、ゴーレムは少し下がって。
道の入り口には近づかないように……。
あ!」
一本道の向こう。
砦のところに一人の人がいた。
うずくまっているように見える。
しかし、その人は腰を持ち上げ、
顔を上げて前を見た。
クラウチングスタートの姿勢をとった、
『踏破の聖女』だ。
「しまっ! 全員、退避!」
メグの声が届くより先に、
先行していたゴーストたちは爆散した。
聖女が走り出したときの衝撃波を浴びたからだ。
更に、弾丸がバレルを通るように、
彼女が谷間を駆け抜けた瞬間、
衝撃波が谷の入り口から周囲に広がった。
谷の入り口で待機し生き残っていたゴーストと、
待機していたゴーレムたちが、
それを浴びて砕け散る。
踏破の聖女は、狂喜の笑顔で叫んだ。
「主よ!
これが! これこそが!
貴方の御力!
あぁ!
私は皆のための道を作る役割だって!
そう思ってた!
でも、本当は!
私は『敵を穿ち貫く破城槌』だった!」
聖女はそのまま駆け抜ける。
彼女の目指す先は、
『死の荒野』のダンジョンコアだ。
「マズ!
全ダンジョンを閉鎖!
ダンジョンコアを回収!
管理者たちも、全部捨てて逃げて!」
「えぇ!?
どうして!?
そんな、もったいない!」
「神様!
今アタシ、ピンチなの!
ケツまくって逃げないと!」
『最古のマスター』の危機管理能力はさすがの一言。
聖女が向かう先が『死の荒野』のダンジョンだとすぐに悟り、
全てを捨てる決断を即決した。
メグは砦の前の魔物を確認する。
「ゴーストは全滅!
ゴーレムの残りは、砦をせめ……。
はぁ!?」
『死の荒野』に雪のようなものが降っていた。
キラキラと輝くそれは、さながらダイヤモンドダスト。
それは聖女のスタートとほぼ同時に放たれたバリスタが、
聖女の衝撃波を受けてゴーレムたちの頭上で砕け、
中身を谷の入り口付近に振り撒いていた。
そして、ゴーレムたちは突然自壊し始める。
「なん! で!
……あ!
ムカつく!
アイツ、『チャフ』を作ったの!?」
聖女はそれに気がついた。
怒涛の展開に闇の神はついていけてない。
砦の上からそれを眺めるトシオが笑う。
自分の仕掛けた計画が上手く行った喜びと、
きっとどこかで見ているダンジョンマスターをあおるために笑う。
そして、トシオが口を開いた。
「少しねじった長方形。
片側の辺に重りの代わりに厚みを持たせて、
空中でくるくる舞うチップだ。
カエデの種の様な、『翼果』の形は、
粉状の物を抱き抱えて長時間にわたり粉を散布し続ける。
本当は毒薬でやりたかったが。
これはこれで、よし。
たぁんと味わえ、
糞ゴーレムども!」
メグは、舌打ちをしながらも分析を止めない。
「今動けるゴーレムは、……なし!
ゴーレムがどんどん壊れてるから、
多分、チップに魔力を潰す粉かなにか。
……分かった!
この前の獣の魔物の魔石を、
砕いて粉にしたんだ!
ゴーレムの魔力に、
別の魔石が混ざって魔力伝達を、回路を破壊してる!
血液型がA型の人にB型の血液を輸血するみたいな?!
どんな頭だったら、
そんなこと思い付くの?!」
ゴーレムたちの構造上、
関節部分は魔力による繋がりで保持、駆動している。
人形の球体関節をボディと磁石で繋いで動かすような、
広い可動域をえられるからだ。
しかし、接地面にはむき出しの魔力回路が必要になる。
関節の隙間なので、
普通では他者が触れられることがない部分だ。
だが、細かい粉状の物は隙間に入ることができる。
更に、可動部なので、
動けば動くほど粉は関節の奥へ送られる。
そして、そこから粉の魔石を魔力回路へ取り込んでしまい、
魔力が混ざってゴーレムたちは崩壊していく。
メグは回収したダンジョンコアを手元に転送させ、
両手で大事に抱き抱える。
「とりあえず、身の安全は確保した。
これ以上あの砦を攻めるのは悪手!
神様ぁ、アイツ、ヤバい。
初見殺しだ。
『大海』の人、負けるかも」
「……ど、どういうこと!?」
戦闘開始数分で、
メグは逃げることを選んだ。
闇の神はそれを全く理解できておらず、
混乱の極みという顔をしている。
「まず、魔物対する知識が豊富過ぎる。
この人、三年間何してたの?
よほど珍しいか、
よほど強力な魔物じゃないと、
即座に対応しちゃう。
更に、道具の使い方が上手い。
翼果の形のチップなんて、
このファンタジーの世界でどう用意するの?」
「つ、つまり?」
メグは周囲が騒がしくなって来たことに気がついた。
「まずい!
逃げるね!」
メグは闇の神にそう言って、
懐から帰還石を取り出し砕いた。
メグの姿が消えるその瞬間、
入れ違いで踏破の聖女が部屋の壁をぶち破って入って来た。
「あ!
逃がした!
でも、見つけたもんね!」
そう言って踏破の聖女はまた駆け出す。
大破した部屋に一人取り残された闇の神は、
眉間にシワを寄せて頭を抱えた。
「ヤバい」
闇の神の呟きは、
彼女の姿と一緒に虚空に消える。




