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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第二章 年休120日以上!

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第38話 たぁんと味わえ

●???●


 ゴーレムの群れが隊列を組み、

大地を駆ける。

ゴーストたちが斥候として、その頭上を飛び交う。


「あら?

あれは何かしら?」


 その映像を見ている『闇の神』が、

魔物の群れを操作するメグに問いかける。

闇の神の指差す方に、『白の教会』の砦があるのだが。


「あちゃー……。

すごい人かも、サトウさん」


 突然、大規模魔法が発動し、

砦の前の大地を左右へ押し上げ、

荒野に即席の峡谷を穿った。

 両側には荒い土の山肌がそびえ、

中央には砦まで続く細く長い一本道だけが残されている。

魔物軍勢は、

今の隊列と速度では通れそうにない道だ。

 これはただの『一本道』ではない。

言わば、大きな獣が口を開いている状態だ。


「山を登って越えるか、破壊するか。

罠と知りつつ、あの一本道を進むか。

 ゴーストを前に、ゴーレムは少し下がって。

道の入り口には近づかないように……。

あ!」


 一本道の向こう。

砦のところに一人の人がいた。

うずくまっているように見える。

 しかし、その人は腰を持ち上げ、

顔を上げて前を見た。


 クラウチングスタートの姿勢をとった、

『踏破の聖女』だ。


「しまっ! 全員、退避!」


 メグの声が届くより先に、

先行していたゴーストたちは爆散した。

聖女が走り出したときの衝撃波を浴びたからだ。

 更に、弾丸がバレルを通るように、

彼女が谷間を駆け抜けた瞬間、

衝撃波が谷の入り口から周囲に広がった。

谷の入り口で待機し生き残っていたゴーストと、

待機していたゴーレムたちが、

それを浴びて砕け散る。

 踏破の聖女は、狂喜の笑顔で叫んだ。


「主よ!

これが! これこそが!

貴方の御力!

 あぁ!

私は皆のための道を作る役割だって!

そう思ってた!

 でも、本当は!

私は『敵を穿ち貫く破城槌』だった!」


 聖女はそのまま駆け抜ける。

彼女の目指す先は、

『死の荒野』のダンジョンコアだ。


「マズ!

全ダンジョンを閉鎖!

ダンジョンコアを回収!

管理者たちも、全部捨てて逃げて!」

「えぇ!?

どうして!?

そんな、もったいない!」

「神様!

今アタシ、ピンチなの!

ケツまくって逃げないと!」


 『最古のマスター』の危機管理能力はさすがの一言。

聖女が向かう先が『死の荒野』のダンジョンだとすぐに悟り、

全てを捨てる決断を即決した。

 メグは砦の前の魔物を確認する。


「ゴーストは全滅!

ゴーレムの残りは、砦をせめ……。

はぁ!?」


 『死の荒野』に雪のようなものが降っていた。

キラキラと輝くそれは、さながらダイヤモンドダスト。

それは聖女のスタートとほぼ同時に放たれたバリスタが、

聖女の衝撃波を受けてゴーレムたちの頭上で砕け、

中身を谷の入り口付近に振り撒いていた。


 そして、ゴーレムたちは突然自壊し始める。


「なん! で!

……あ!

ムカつく!

アイツ、『チャフ』を作ったの!?」


 聖女はそれに気がついた。

怒涛の展開に闇の神はついていけてない。

 砦の上からそれを眺めるトシオが笑う。

自分の仕掛けた計画が上手く行った喜びと、

きっとどこかで見ているダンジョンマスターをあおるために笑う。

 そして、トシオが口を開いた。


「少しねじった長方形。

片側の辺に重りの代わりに厚みを持たせて、

空中でくるくる舞うチップだ。

 カエデの種の様な、『翼果』の形は、

粉状の物を抱き抱えて長時間にわたり粉を散布し続ける。

本当は毒薬でやりたかったが。

これはこれで、よし。

 たぁんと味わえ、

糞ゴーレムども!」


 メグは、舌打ちをしながらも分析を止めない。


「今動けるゴーレムは、……なし!

ゴーレムがどんどん壊れてるから、

多分、チップに魔力を潰す粉かなにか。

 ……分かった!

この前の獣の魔物の魔石を、

砕いて粉にしたんだ!

ゴーレムの魔力に、

別の魔石が混ざって魔力伝達を、回路を破壊してる!

 血液型がA型の人にB型の血液を輸血するみたいな?!

どんな頭だったら、

そんなこと思い付くの?!」


 ゴーレムたちの構造上、

関節部分は魔力による繋がりで保持、駆動している。

人形の球体関節をボディと磁石で繋いで動かすような、

広い可動域をえられるからだ。

 しかし、接地面にはむき出しの魔力回路が必要になる。

関節の隙間なので、

普通では他者が触れられることがない部分だ。

だが、細かい粉状の物は隙間に入ることができる。

 更に、可動部なので、

動けば動くほど粉は関節の奥へ送られる。

そして、そこから粉の魔石を魔力回路へ取り込んでしまい、

魔力が混ざってゴーレムたちは崩壊していく。

 メグは回収したダンジョンコアを手元に転送させ、

両手で大事に抱き抱える。


「とりあえず、身の安全は確保した。

これ以上あの砦を攻めるのは悪手!

 神様ぁ、アイツ、ヤバい。

初見殺しだ。

『大海』の人、負けるかも」

「……ど、どういうこと!?」


 戦闘開始数分で、

メグは逃げることを選んだ。

闇の神はそれを全く理解できておらず、

混乱の極みという顔をしている。


「まず、魔物対する知識が豊富過ぎる。

この人、三年間何してたの?

よほど珍しいか、

よほど強力な魔物じゃないと、

即座に対応しちゃう。

 更に、道具の使い方が上手い。

翼果の形のチップなんて、

このファンタジーの世界でどう用意するの?」

「つ、つまり?」


 メグは周囲が騒がしくなって来たことに気がついた。


「まずい!

逃げるね!」


 メグは闇の神にそう言って、

懐から帰還石を取り出し砕いた。

メグの姿が消えるその瞬間、

入れ違いで踏破の聖女が部屋の壁をぶち破って入って来た。


「あ!

逃がした!

でも、見つけたもんね!」


 そう言って踏破の聖女はまた駆け出す。

大破した部屋に一人取り残された闇の神は、

眉間にシワを寄せて頭を抱えた。


「ヤバい」


 闇の神の呟きは、

彼女の姿と一緒に虚空に消える。

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