第37話 疑問に思え
地下の住居区の一番下、
魔道具の昇降機が到着するホール。
そこからさらに階段で下に降りると、
独居房が並んだ牢屋がある。
リアンはここに入れられてるらしい。
「金髪、お前入れて今、
『聖女の右』は九人いる。
俺のそばにいるこの九人は信用して良い。
他は、聖女意外全て敵だと思え」
「後にご説明いただけますか?」
「あぁ。
今説明することはできないからな」
俺たちは看守に連れられて、
一番奥の独居房に案内された。
そこには、ボロを着せられ、
鎖で両手を繋がれたリアンがいる。
リアンが俺に気付いて、
鉄格子に這って近寄ってきた。
「ちが!
違います!
私じゃないんだ!」
「うるせぇ」
そう言って俺はリアンの髪を数本抜いた。
赤茶の髪は、数秒経っても髪のままだ。
そして、俺はおもむろに俺たちを案内した看守の髪をむしった。
その髪は、俺の手の平の上で芋虫や蛇のように悶えて、
のたうち回り苦しむ。
明るいブラウンの髪だったそれは、
みるみるうちに真っ黒になってチリになり、消える。
俺は何も言わなかったが、
『聖女の右』たちは俺の指示通り、
一も二もなく看守に襲いかかる。
看守も応戦しようとしたが、瞬殺された。
「トシ・オー様!
これは!?」
「シェイプシフターだ」
金髪が驚愕した声で俺にたずねる。
俺が倒れた看守を指差した。
看守だったそれは、
着ていた服を残し、真っ黒な塊になって死んだ。
「シェイプシフターは、
人に化けた際、
頭髪部分は触手みたいに、
自身の身体を細く長く伸ばして髪を作る。
それを突然引きちぎると、
今みたいにちぎった髪の部分が死ぬ。
魔法や道具を使わなくてもこれで見分けられる。
ただし、シェイプシフターは家具とか無機物にも化ける。
三人二組で、識別の魔法が使えるヤツのところへ行け。
髪を抜いて、
人間ならソイツらにシェイプシフターを探させろ。
人だけじゃなくて、
目に写るもの全てを調べろ」
俺がそう説明すると、
白ずくめたちは目配せだけで三人二組をつくって駆け出した。
「残った三人は俺の手伝いをしろ。
リアン、出ろ。
お前も手伝え」
俺は白ずくめたちにリアンを檻から出させて連れていく。
リアンは理解できないようで、俺にたずねた。
「どっ!
どういうこと!?」
「お前は被害者だった。
犯人はシェイプシフターで、
お前に変身して色々したらしい。
他にもいろんな人に変身して工作してたみたいだ。
だから、俺の居場所がバレて、
帰還石で転移させられた。
この砦はすでに攻撃されてたんだ」
俺はいろんな薬や魔法道具をしこたま魔法鞄に詰めて、
地上へ出た。
そして、リアンと白ずくめたちに手伝わせて『死の荒野』の土を調べる。
「ここは雨は降るのに、
池も何も、水源が全くない。
何故だ?」
水筒の水をすくいあげた土にかけて、
魔法道具やいろんな検査キットで調べる。
「……トシ・オー様。
もしかして、それが貴方の力なのですか?」
金髪の白ずくめがそう言った。
なかなか見所があるヤツだ。
俺は笑顔で答える。
「そうだ。
疑問に思え。
全てを疑え、調べ尽くせ。
理論を仮定し、実験し、原理を見つけろ。
目の前のそれは、『神の御力』じゃない。
『原理』が『法則』があるはずなんだよ」
土を調べると、
この土はすごい早さで水を吸い上げて、
さらに空気中へ水分を発散する性質があるようだ。
だから、雨が良く降り、しかし、水辺はできず。
砂漠にはならず荒野のままで、
植物も動物も生きられない。
「もっと時間をかけて調べたいが、
今はこの性質が分かればいい。
『死の荒野』に地下水もないのは、
空気中へ水分を発散するからか」
砦の中が騒がしくなってきた。
多分、シェイプシフターが抵抗している。
しかし、予想外の警報が響く。
「『緊急事態!
突然魔物の群れが荒野に現れて、
こちらに向かってきた!』」
「シェイプシフターがバレたから、
混乱してるうちに攻めてきたか?
糞がぁ。
ってことは、
『もう一人のダンジョンマスター』がいるのか。
下手すると、もっとたくさんいるな」
俺はダンジョンバトルの契約書に、
『一対一』とは書いてあるのに、
『協力者』については書いてないことをしっかり覚えている。
「バトル前に他のダンジョンマスターに俺を襲わせて、
準備させないつもりか、クソっ」
俺は魔法鞄から、
愛用のスコップと空の麻袋を二つ取り出した。
そして、『死の荒野』の土を麻袋にいれて、
魔法鞄に入れる。
「金髪、魔物を見たい。
また上に連れて行け」
「仰せのままに」
俺たちは急いでバリスタのある砦の高台に移動した。
そこに、さっきの白ずくめ六人がいた。
彼らは俺の前に来て跪き、
報告する。
「報告します。
シェイプシフター八体。
全て討伐。
知らないうちに五名殺されて、
成り代わられていたようです」
「見逃してないか?」
「今地下にて、
我々が髪をむしって確認した者たちが、
現在も捜索と掃討を実施しています」
とりあえず、中の敵はなんとかなりそうか。
「外の魔物の情報は?」
白服が数名俺に駆け寄ってきて、
紙の資料の束を見ながら報告する。
「敵の数、数万!
無機物、ゴーレム系がメイン。
後、ゴースト系の飛行するタイプも多数確認しました」
「獣系が一網打尽にされたから、
ゴーレムとゴースト、ってか?
なら、余裕だ」
俺は魔法鞄から色々取り出して、
各所に指示を出す。
「前哨戦と参りましょう?」
俺はそう言って、
顔の前で強く手を打つ。




