第36話 なんか、すまん
俺は商業ギルドでマリーとアニスにも近況を話した。
二人は頭を抱えている。
「なぁ、マリー。
バニレが借金肩代わりしてくれたらしいけど」
「俺じゃなくて、
クリザンテーム王家な。
ここ、大事」
「お前、金ないの?」
「Bランク冒険者としての資産しかねぇよ」
バニレがしかめ面で返す。
俺は改めてバニレに言う。
「じゃぁ、バニレ、金貸してくれ。
金貨一枚」
「大金じゃねぇか。
無理、無理、無理」
「ねぇ、トシ・オー。
もしかして、何か買いたいの?」
マリーがそこに入ってきた。
「おう。
俺の居場所を誰かに伝えられる魔道具ってある?
俺がそれを持ってたら、
俺がどこへ連れ去られてもバニレには居場所が分かる、
みたいなの」
「ん……、無くないけど。
宝石とか、貴重品の追跡用魔道具。
盗まれた時とかもだけど、
主に運送するときに使うの。
注文主はそれを使って、
今どこに注文した品があるか確認する感じね」
ネット通販とか宅配サービスの追跡機能みたいだな。
「人間にはつけられないのか?」
「品物につけるのは小さなボタンなの。
トシ・オーの服のボタンを一つそれに変えれば、
問題ないんだけど。
問題は、
居場所を確認する方の道具が大きいの。
この応接室のテーブルくらいある。
それに地図を置いたらボタンの場所を教えてくれる」
「いくらだ?」
「うちにあるのを使います。
もう、どこにいても心配かける人には、
外せないようにします」
「アニス、目が据わってるから。
マリー、とめて、って、お前もか!
んあ?!
ジャバ、放せ!」
何故か俺はジャバに羽交い締めにされ、
マリーが持ってきたボタンを服に縫い付けるまで拘束される。
「お前ら、なんなんだよ!」
「それだけ心配してたの!
アタシもアニスも!
この二人も!
それを!
しれっと帰ってきて、
今度はダンジョンマスターに命を狙われてる?
トシ・オー、あんたね、もう!」
マリーが怒ってる。
普段のマリーは商人らしく、
感情は少し演技がかった、
でも自然な建前的なものを見せていた。
しかし、今俺が見てるのは、
正真正銘本物のマリーの怒りと悲しみだ。
多分、マリーもなれてない。
もう、ばっかり連呼して、
饒舌なはずの彼女がうまく話せてない。
アニスもいつもより眼光が鋭い。
明確に怒りを感じる。
話し方にも抑揚がない。
ジャバとライムも鼻息が荒い。
明確に怒ってる。
「……なんか、すまん」
俺は素直に謝る。
そこに。
「どーん!」
壁を突き破って、
修道服のシスターが入ってきた。
「ダンジョン学者さん、みーつけ!」
「出たな、『踏破の聖女』」
俺はうんざりしながらそう言った。
バニレとジャバとライムが戦闘態勢になるが、
俺が三人をとめる。
「コイツは敵じゃない。
コイツは、な。
つーか、
俺もあんたとは話しがしたかったんだ。
聖女殿?」
「おうち帰ろー?」
なんとなく話が噛み合わない。
彼女の顔は真剣だ。
聖女は幼い話し方だが、
恐らく俺に歳は近い。
なんか、
幼いと言うよりギャルとかの感じに近いか。
「俺はトシオ。
トシオだ。
聖女殿の名前は?」
「帰ろー。
主は帰宅を望まれてるの」
「主に伝えてくれ。
もうダンジョンマスターに見つかったって」
「かーえーろーおー」
ダメだな。
主の言葉である、
『トシオを助けよ』を忠実に守ることしか頭にない様子だ。
そして、あの隠れ家なら安全だと思ってるようだ。
俺はため息をついて、バニレに向き直る。
「ちょっと向こうへ行くわ。
バニレ、皆、
今から俺が言うことを忘れないでほしい。
『トシオになにかあったら、白の教会を呼べ』って」
「いや!
なんだよ、それ!?」
俺はまたため息をついて、
聖女に近寄る。
すると、また俺は彼女の小脇に抱えられた。
「しばらく戻れんから、
家は掃除しといてくれー」
俺がそう言い終えるかどうかで、
聖女が勢い良く飛び出した。
人の脚力とは思えない早さだ。
俺は飛ぶように消えていく景色や、
自分の身体に感じる物を冷静に観察する。
景色が飛んでく感じは、新幹線の車窓のようだ。
時速三百キロは出てる。
それなのに、俺にかかる圧がゆるい。
風圧も重圧も、自転車くらいしか感じない。
これ、もしかして。
「ちょっとワープしてんな、これ。
瞬間移動の魔法と違うみたいだけど」
瞬間移動の魔法は、
帰還石を買う際に調べた。
瞬間移動の魔法のルールは、
『発動者』が『帰還ポイントを設定』し、
魔法が発動したら設定したポイントに瞬間移動するものだ。
しかし、聖女の『踏破』は、
『進みたい道』を決めると『障害物を廃して』、
『道を作る』と仮定する。
この前の海を割ったのがそうだろう。
しかし、今のこれは、なんか『速い』。
この前より明らかに速い。
速すぎる。
「分かった。目的地か。
この前は逃げてたから、
目的地は決めてなかった可能性が高い。
今回はカーナビみたいに『目的地』を決めて、
『進みたい道』を設定すると、
『距離を含めた障害を廃して』、
『道を作る』。
その結果紙を折り曲げたみたいに、
次元を湾曲して、
距離を最短にしてるな。
糞が。
細かく答え合わせしたいが、
時間がない」
俺が考察してる間に、
あの『死の荒野』にある砦に到着した。
体感は十五分くらいか。
ここが『死の荒野』のどこか知らないが、
クリザンテームから『死の荒野』までかなりの距離がある。
馬で一月はかかるくらいだ。
やっぱり、速すぎる。
そこには、見慣れた白ずくめたちが待っていた。
「おら、『右ぃ』!
一人こっち来い!」
俺は聖女から降りてすぐにそう叫ぶ。
いつも話をしてくれてた白ずくめが俺に歩み寄ってきたので、
俺は迷わずソイツの頭巾を剥がした。
そして、露出した綺麗な金髪を数本つかんで抜く。
俺は抜いた毛を手のひらに置き、数秒見つめる。
「……よし。
お前、名前聞いてなかったな。
金髪のお前は、よし」
「何をされたのですか?」
「いいから、
他の白ずくめの髪を三本くらい抜け。
もし、『抜いた髪を見ておかしかったら』、
ソイツを殺せ。
一も二もなく殺せ」
金髪の白ずくめは、
頭巾を被り直して他の白ずくめたちに向かっていく。
聖女がそれを見て、俺に聞く。
「ねぇ、何してるの?」
「秘密だ」
「私の髪は?」
「くれるか?」
聖女が自分から頭巾を脱いだ。
白銀に輝く美髪だ。
俺はそれを数本握って抜く。
「……ただの髪だ。
問題ない。
ありがとう」
「分かんないけど、
どういたしまして!」
彼女からの会話は成立できる。
「俺も聞いていいか?」
「ご飯食べに行く!」
そう言い残して、聖女は消えた。
やはり、俺主導で聖女と話すのは難しいらしい。
「トシ・オー様。
『聖女の右』、全員の髪に異常はありませんでした」
「よし、ありがとう!
じゃあ、今度はリアンに会わせろ」
そう言って俺は歩きだした。




