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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第二章 年休120日以上!

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第34話 なんだそりゃ、ウケる!

 気が利いているのかいないのか。

俺がダンジョンバトルの契約書にサインをしたら、

スーツの男は俺を転移させた。

俺は転移先を人里、と指定したが。


「なんだこれ?」


 俺は俺の家の前で、

武装した兵士に囲まれて槍を突きつけられている。

 スーツ男が選んだ転移先は俺の家の前だった。

そして、俺に槍をつけ付けてる兵士たちは、

黄色い鷹の旗を俺の家の周りに立てていたらしい。

旗の紋様的にはクリザンテームの兵士なんだろう。

 兵の一人が俺に話しかける。


「お前はどこから現れた?」

「帰還石だ。

自分家の前に帰還ポイントを設定してたんだが。

 逆に俺が聞きたい。

こりゃ、どういうことだ?」

「自分の家?」


 兵士たちは互いの顔を見合わせ、

槍を立てて警戒を解いた。

そして、兵士の一人がどこかへ駆け出す。


「……もう家に入っていいか?」

「すまない。

少々お待ちいただきたい」


 既に俺の視界の角にはタイマーが見えている。

ダンジョンバトルの残り時間の表示だ。


「すまん。

俺も急いでんだ。

アンタらとケンカはしたくないんで、

穏便に家に帰らせてくれよ。

 五歩そっちに行くだけで家に入れんだよ、

俺の家に」

「分かってる。

分かってるんだが、

確認をしたい」

「確認、だ?」


 俺が盛大に首をかしげて見せると、

遠くから見知った顔が駆けてくる。

しかも、見慣れた服装じゃない。

 俺は大声でソイツに話しかける。


「似合わねぇ正装してんな、バニレ!

どこの貴族の道楽息子だ?

 お前、肩に黄色いフリフリ付いてんだけど!

なんだそりゃ、ウケる!」

「ウケんな!

俺にだって似合ってない自覚あるから!

 くそっ!

コイツは本物だ!

この口の悪さは、

本物のトシ・オーだ!」


 バニレが嬉しそうな、悔しそうな顔で駆けてきた。

にしても、本当に正装で、多分礼装だ。

よく見ると胸元中央に、

オリーブの枝をもった黄色い鷹の刺繍が大きく入れられている。


「トシ・オー!

無事で何よりだ!」

「うるせぇ。

説明しろ。

なんだこれ?」


 俺が抱きつこうとしたバニレの頭を両手で捕まえ、

握りしめながら言う。


「キブ! ギブ!

話すから!

放して!」

「後、俺の家に俺を入れろ」

「分かってる!

皆! この人がトシ・オーで間違いない!

周囲の警戒を続けて、

この人は家へ入れてくれ!」


 俺はバニレを解放し、俺の家に入った。

数日ぶりの我が家は何も変わりはない。

周りをクリザンテームの兵に囲まれてることを除けば。

 バニレは俺の家に一つしかない椅子に腰かけた。

俺は茶を入れてバニレのそばのテーブルに置き。

俺はベッドに腰かける。


「で、クリザンテームの第三王子殿が何の用だ?」


 飲みかけた茶を口から吹き出したバニレ。

後で自分で掃除させよう。


「……トシ・オー、お前、知ってたの?」

「ぶぁか。

お前、礼装の胸元の刺繍がデカいんだよ。

オリーブの枝をもった黄色い鷹の紋様は、

クリザンテーム王家の家紋だ。

王族以外が付けたら死刑だろ?

 後は暇してても許されて、

顔があんまり知られてない王族は、

第三王子と第四王女の二人。

 バニレが男装の令嬢なんて良いもんじゃないのは、

風呂屋でよく見て知ってるから。

必然的に第三王子殿になる」


 堂々と礼装に家紋を入れて隠すことなく歩いてるから、

てっきり気付いてもらおうとしてるのかと思ったが。

どうやらバニレはまだ隠してたつもりらしい。

 ばつが悪そうに頭をかくバニレ。


「風呂屋でよく会ったもんな。

お前、風呂から出るの早いんだよ」

「落ち着けねぇんだよ。

ぎゅうぎゅう詰めの風呂に、

大声で叫ぶムダ毛処理屋。

騒がしいことこの上ねぇ」

「俺、あの感じ好きだけどな」


 日常に戻った感じがして少しほっとしたが、

俺には時間がない。

 この前のパーカー女とちがって、

あのスーツの男は強敵だ。

まず、『大海のダンジョン』は、

広大な広さを誇る最大のダンジョンとして名高い。

 しかも、新人ではない。

ベテランのダンジョンマスターだ。

きっとモンスターも大量に持っている。


 生半可な作戦では、勝てない。


 後六日と数時間。

俺に残された時間は少ない。


「さて、バニレよ。

すまんが、俺には時間がない。

 知りたいことがある。

まず、オスマンサスの『極刑』は何だ?」

「お前なぁ。

俺が聞きたいこともあるんだぞ?

 ……しゃぁない。

オスマンサスか?

『極刑』は、『氷眠刑』だ。

それは今話題の的になってる」


 バニレは懐から紙を取り出してテーブルに置いた。

俺は立ち上がってその紙をひろいあげる。


「『教会』から、

『聖女のお告げ』?

 ……俺が死んだら、世界が滅ぶ?

なんだ?

どういうことだ?」

「『教会』から正式な発表がされたんだ。

『トシ・オーを殺すと、世界が滅ぶ』。

 お告げは、知ってるか?

『教会』におられる『聖女』が、

近い未来を予知されるものだ。

各国の政を司る長に通達される。

 予知が悪い内容なら、

国の垣根を越えて協力して回避する決まりになっててな。

お前がオスマンサスに連れ去られた数時間後に、

さっきの予知が通達された。

 それで、お前を死刑にしようとしてたオスマンサス王家が、

慌てて刑を変更した。

それが、『氷眠刑』」


 俺は紙をバニレに突き返し、

ため息をついた。

バニレは苦笑いしつつ話を続ける。


「『氷眠刑』は、

オスマンサスの国宝でもある魔道具、

『氷の鏡』を使って行われる刑だ。

 その鏡に写った者は、

身体が氷漬けになって生きたまま氷の壁に埋め込まれる。

死ぬ訳じゃない。

生きたまま氷の壁の中で眠り続ける。

氷漬けで、歳もとらず。

解除しない限り永遠に眠り続ける。

 ここ百年以上執行されていない『極刑』だ。

解除方法はオスマンサスの王族しか知らないらしい」


 冷凍保存ってか?

あのまま捕まってたら酷いことになってたんだな。


「オスマンサスの主張は、

『氷眠刑の執行後は、

ダンジョンが氾濫してもトシ・オーは死なない状態になる』だと。

 ダンジョン保有国として、

お前を殺せないならば、

自由を完全に奪おうって魂胆らしい」

「うぜぇ理論だな」

「他の国はそれに反対してる。

もし、それも死と同じ扱いになるなら?

それで世界が滅んだら?

誰の責任になるんだ、って揉めてる」


 なるほど。

それなら気になることがある。


「百年以上前に一回でもその刑を執行してんなら、

今氷漬けになってるヤツを元に戻せば良いんじゃねえか?

それでソイツが無事なら、

氷眠って名前の通り寝てるだけってことになるだろ?」


 解凍して無事なら、氷漬けでも命は助かる。

オスマンサスの理屈が正しいことになる。


「同じ話しもでたけど、

過去一回だけ執行されたのが、

『内乱罪の王弟』らしくてな。

元に戻すとややこしくなるから、

できないらしい」

「確かにそれはややこしくなるな」


 俺はため息をついた。

俺の想像だが、内乱がお家騒動な上に直系の王族同士だから、

死刑にできず幽閉もできなくて『氷眠刑』になった。

政治的判断としても、

王弟を殺すと生き残った王弟派と王家の間が剣呑な関係になるなら、

なにもできないように眠らせてしまえ、

と言うことだろうな。


「後、俺の家のこれは。

俺が死んだら世界が滅ぶってことだから、

バニレは正体を明かして俺を保護しようとしたんだな?」

「半分正解」


 バニレが苦い顔をした。

その苦い顔のまま、バニレは話し続ける。


「ダンジョンから出てきたお前をさらったオスマンサス兵を呼び込んだのは、

他でもないここの領主本人だったんだ。

 国家反逆罪で領主とその一族、

傍系も直系も関係なく全員死刑。

御家取り潰しの上一族郎党皆殺しさ。

 そして、領地と私財は王家が没収。

今ここは一時的に王家の直轄地になってる」


 嫌な予感がする。

俺はバニレの五倍は嫌な顔をした。


「そして、王は決めた。

ダンジョンからの魔物の氾濫を予知し、

町をほぼ無傷で守りきった『英雄』、

トシ・オーに報奨として爵位を付与する。

 そして、ここ一体の土地を領地として与え、

前領主の私財をすべて与える。

ダンジョン踏破の際に使った経費の借金は、

すべてクリザンテーム王家が肩代わり。

更に第四王女をお前に嫁がせる、ってよ」


 バニレが大きなため息をついたが、

俺がため息をつきたい気分だ。

バニレが両手を振って弁明し始める。


「俺は父上を止めたんだ。

親としても、王としても、

その判断は間違いだってこんこんと説いたよ。

 絶対トシ・オーはそんなものを欲しがらない。

寧ろ、猛烈に嫌がって。

下手したら国から逃げるぞ、って言ったんだ。

結局、信じてくれなかったけどな」

「俺は今、

クリザンテームから逃げる算段を立てたぞ」

「もうちょいで良いから待って?」


 バニレが俺の両肩に手を置いて懇願する。

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