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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛


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4/6

第4話 今日の分です

 俺にゴブリンの殺害、と言うか、

『命を奪う行為』自体への忌避感はもうない。

三年間、人間を含むいろんなモノに襲われ。

命からがら逃げて、抗った。

三年で身体中傷だらけ。

孤立無援で、心もボロボロだ。

 そして、相手を生かしておいて、

良かったことなんて一度もない。

あんなのは、

ラノベとかアニメだけだ。

だいたい、あいつらは俺の事をなめてかかって、

もう一度俺を殺しに来る。

人も獣も、モンスターもだ。


「樹海の浅いところで、

ゴブリンがいました。

これが、ゴブリンの耳です」


 冒険者ギルドの受付で、

俺はそう言いながらゴブリンの耳を二つ受付に置く。

朝と同じ受付嬢が慌てて受け取ったのを見届けて、

俺は踵を返す。


「待って!

話があんのよ!」


 受付嬢が何か言ったが、

俺には認識できなかった。

そのまま立ち止まること無く、冒険者ギルドを出る。

 俺は薬師ギルドへ向かう。

薬師ギルドが近づくと、

すれ違うオーバーオール姿の人たちが俺に会釈をする。

皮のオーバーオールが、

薬師ギルドの職員の制服だ。

 俺も彼らに会釈を返して進む。

薬師ギルドは冒険者ギルドと異なり、

薬師ギルドの職員か商人、医者しか出入りしない。

俺はその中の例外でとても目立つ。

 建物に入るや否や、顔見知りがいた。

彼女は俺に気付いて振り返り、

手を振る。


「おや、良いタイミングだったか?」

「マリーさん、お疲れ様です」


 薬師ギルドの受付にいたのは、

商業ギルドのギルド長、マリーだった。

 長身で大輪のバラのような女性だ。

美人と言うより、可愛いと言いたくなる顔。

出るところは出て、括れながらも肉感がある。

扇情的な体つき。

物腰は柔らかいが、

商人としては海千山千の猛者だ。

 彼女がいつも連れているボディーガードの強面二人組。

ジャバとライムも俺を見た。

そして、二人は冒険者たちと同様に、

二人は何故か俺を拝む。

俺は頭をかきながら聞く。


「……その拝むの、なんなんですか?」

「なんか、験担ぎらしいよ?

アタシも詳しくは知らないけどね」


 二人に代わって、マリーが弁明する。

ジャバとライムは仕事中、一切声を出さない。

二人のこだわりらしい。

 なお、彼らは仕事が終わった後でものすごく話す。

俺は飲み屋でこの二人とばったり出会ったことがあるのだが、

一晩中、止まること無く話をしていた。

確かにあの調子で話しては仕事にならないのかも、

と思うほどだ。


「アタシらは、

ちょうどアンタに会いに来たンだよ」

「なんでしょう?

借金はもうすぐ完済ですよ?」

「そっちは問題ないよ。

律儀に払い切ってくれて、

アタシが礼を言いたくなるくらいさ」


 マリーはからから笑う。


「まぁ、アニスもアンタに用があるらしいから、

三人で話そう」


 アニスは薬師ギルドのギルド長だ。

マリーとアニスはビジネスライクな関係だが、

かなり付き合いが長いらしい。

俺が詳しく聞こうとすると、二人に怒られた。

 マリーは自然に俺の肩に腕を回そうとした。

俺はそれを回避しつつ、言う。


「ゴブリンが出ました。

討伐したときに返り血は浴びてないつもりですけど、

マリーさんの服に臭いを着けるのは忍びない」

「あらあら、そうなの。

場所は?」

「いつもの採取ポイント。

樹海の浅いところですよ」


 マリーは腕を組んで少し考える素振りをする。

マリーの服は露出はないのにかなり色っぽい。

どう見ても特注の服で、毎日違う服を着ている。

 多分、彼女の服は自分の店のもので、

マネキン代わりにマリーが着て宣伝してる。

そんな高級そうな服を汚すわけに行かない。


「そうか、そうか。

ありがとう。

アタシが嫌われたのかと思ったよ」

「マリーに対して、

そう言う感情はありません」

「あらあら、つれない」


 マリーはまたからから笑う。

この人はどこまで本音で、

どこまで建前か全く読めない。

冗談かどうかすら分からない。

さすが、商人をまとめあげるギルド長だ。


「こんな受付のど真ん中で、

立ち話しないでください」


 受付の奥からそう声が聞こえた。

メガネをかけた小柄な男性だ。

彼がアニス。

 彼は中性的な顔つきで、

ギルド内外に人気がある。

若いやり手のギルド長だ。


「応接室が開いてますので、

ついてきなさい」


 ため息をつきつつ、

アニスは俺たちを手招きした。

 俺たちはアニスの案内で、

薬師ギルドの応接室に入る。

マリーとアニスが隣同士で座り、

その正面に俺が座らされる。

 俺はゴブリンの件をアニスにも話したが、

作業着に色々付けたまま座るから気にするな、

と言われた。


「今日の分です」


 俺はそう言って、

ソファの脇の床の上に皮で包んだ薬草の束を置いた。


「毎日ありがとうございます。

失礼します」


 そう言ってアニスが手を二回叩くと、

ドアが開いて職員が入ってきた。

彼は昨日俺が渡した皮と紐を俺に手渡し、

今日採った薬草の束を皮で包んだまま抱えて部屋を出ていく。

いつもの事だが、俺は聞く。


「薬草の状態を調べないんですか?」

「三年近く間違いない仕事をしている貴方を、

我々は信頼していますから」


 アニスはそう言ってメガネを上げた。

信頼されていると思えば嬉しいが、

しがらみになりそうで俺的に好ましくない。

俺はいつもの定型文を返す。


「それは、どうも。

報酬は、いつも通り月末に」

「分かりました」


 アニスがそう言ったので、

俺はマリーに話を振る。


「それで、マリーさんはどうしました?」

「アニスには先日話した件でね。

トシ・オー、

アンタの薬草採取の契約についてだ。

 この二年は内容を変えず、

更新して来たけど。

一度見直しをしたい」


 なるほど。

確かにそろそろだとは思っていた。

俺は分かった、と返してうなずく。


「商業ギルドととしては、

今の内容だと正直ギルド側が『貰いすぎ』なんだよ。

薬草を使う薬に限らず、

全体の薬の収益が二年連続、前年比五割増しさ。

 アンタはその分、

ダンジョンの情報か書物を流してほしい、

って言ってたけどさ。

そんなに無いんだよ、

ダンジョンに関する情報も書籍もね。

 だから、申し訳ないけど、

アンタに渡す金額を月に銀貨、三十五枚に上げたい」


 マリーの話を引き継いで、

アニスも話し出す。


「はい。

我々薬師ギルドとしても、

貴方による薬草の安定供給のお陰で、

二年連続で冬の流行り病を死者なしで抑え込めました。

 私はこの実績を薬師ギルド本部と、

各所の薬師ギルドに報告しました。

それをきっかけに、

貴方のような専属の冒険者を年間契約で確保する動きが、

他の薬師ギルドでも見られています。

 そして、この仕組み自体を発案した貴方に、

謝礼を出すことを薬師ギルド本部議会が決定しました。

銀貨、五百枚。

破格ではありますが、

妥当だと私は思っています」


 ……なんだか、雲行きがあやしい。

俺はこの三年で疑り深い性格になってしまったが。

それを抜いても、なんだかあやしい。


 こりゃ、囲い込みかな?


 二人は俺を手放したくない。

もしくは、

俺が後続を育てるまで手元に確保したい。

そう言うヤツだろう。

 マリーもアニスもまっすぐ俺を見つめている。

マリーは良く分からないが、

アニスは心底嬉しそうな顔だ。


「ありがとうございます。

 まず、アニスさん。

薬師ギルドからの謝礼を、

ありがたく受け取ります」


 俺言葉に何度もうなずいて、

何故か礼を言うアニス。

俺は次にマリーに向き直る、


「次にマリーさん。

賃金を上げいただけるのは嬉しいんですけど、

私はダンジョンを研究しています。

 そのため賃金の値上げより、

ダンジョンに関する情報の方が嬉しい次第でして。

どんな些細な情報だったとしても、

銀貨三十五枚より私の中では『上』です」

「こちらとしては、

やっぱり難しいンだよ。

 ダンジョンに関しての情報は、

保有国が情報を秘匿したり。

書物に記すのを禁じてたりするからね」


 マリーは眉間にシワを寄せて唸る。


「では、薬師ギルドからの謝礼金で、

残りの借金は返済します。

 そして、今使っている魔法鞄を売って、

もっと容量の大きな魔法鞄を買いたいのですが」

「そう言う話は、大歓迎さ。

でも、それだとウチからなにも返せてないじゃないか」

「しかし、謝礼金の残りは別の事に使いたいので、

また幾らか融資いただきたく」


 マリーは顎に手を当てて思案顔だ。


「……分かった。

その分は利子無しで融資しようじゃないか」

「ありがとうございます」

「むしろ、そんなことでいいのかい?

もう少し欲張っても良かったんだよ?」


 マリーは苦笑いしながらそう言った。


「いえいえ。

商業ギルドから、

無利子で融資して貰えた事実、と言うのは。

私にかなり高い信用性がある証拠、とも言えます。

 お二人以外とお話しするときに、

この事実は大きな利益になりますから」

「商人みたいなことを言う学者先生だねぇ。

ウチに欲しくなるよ」


 マリーは笑ってそう言う。

俺はため息をついて、愛想笑いをした。

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