第3話 さて、いつも通り
俺の仕事は薬草採り。
これが一番安全で、なおかつ安定的だ。
町の近くにある山の麓に広がる樹海。
ここの浅いところが俺の仕事場だ。
モンスター?
出ない、出ない。
時々出るイノシシと熊の方が怖い。
出たとしても、ゴブリンとかコボルトだ。
この二種類は極端に頭が悪いので、
俺一人でもどうもでもできる。
町から歩いて、
体感四十分くらいで樹海の入り口に到着した。
「さて、いつも通り」
樹海の奥まで行くと、
野生動物が多い上にモンスターが沢山いる。
だから、
入り口に近い当たりにある採取ポイントを巡る。
「最近、成長が早いな」
薬草、と呼ばれる草の正式名称は、
ウロアナラツン。
タンポポの様に長く太い主根から太い茎がのびていて、
花、葉、茎、根の各部分において薬効が変わる不思議な草だ。
俺は群生している薬草の中で花が付いているものを探す。
花が開いていなくても、
大きく膨れたつぼみがあれば十分採取時期だ。
新人冒険者たちは、これを適当に採る。
花や根がなかったり、
むりし採ってて花がつぶれていたり。
酷いときはゴミ同然の状態の場合もあるらしい。
俺は必死に覚えたこの世界の言語を駆使して、
本を読み込み採取方を確立した。
目星を付けた薬草の根元から、
だいたい俺の手のひら一つ分離れた辺りにスコップを突き立てる。
手入れを欠かさないので、
スコップはすっと土に突き刺さる。
土を掘り返さず、スコップをそのまま抜いた。
同じことを薬草の周りをぐるっと一周、
円を書くように行う。
次に、鞄から厚い皮の手袋を取り出し、
小手の上からはめる。
切り込んだ土を手で軽く掘るが、
薬草の近くの土は少し残す。
昔砂場で遊んだ棒倒しの要領で、
長い根っこを守る。
根は三十センチくらいあるので、
同じ作業をもう一度か二度行うとキレイに抜ける。
他の薬草も同様にして抜いていく。
花が咲いてないものや、
つぼみが小さいものは採らない。
このポイントは明日から十日ほど採取せずに置いておけば、
また薬草が勝手に生えてのびる。
「十本か。
後十本だ」
毎日二十本の薬草を採る。
それが契約だ。
採った薬草は傷つけないように、
根の方向を揃えて束ね、用意してた皮で巻く。
それをうまく紐で巻いて、持ち運ぶ。
そして、次の採取ポイントを目指して歩き出す。
これが、俺の今の日常。
「糞だわ」
これで月に銀貨五十枚。
日本円だと二十五万円くらいだ。
銅貨が一枚約五十円、銀貨が一枚約五千円。
銅貨百枚で、銀貨が一枚。
銀貨千枚で、金貨が一枚。
なので、俺は高給取りの部類だ。
しかし、俺は金貨を見たことはない。
この世界の人でも、
金貨を見ずに寿命で死ぬ人がざらにいるらしい。
『金貨』そのものが希少なので、
貴族か豪商しか触れることはないそうだ。
物価としては、
月に銀貨十枚あれば大人一人が十分生活できる。
「でも、本やら何やら買ってると、
金なんて失くなるんだよ」
この世界で本は貴重品で、
めったに手に入らない。
ダンジョンについての書物を買う俺にとっては、
この給料でもまだ足りない。
「鞄の借金はもうすぐ返済だけどな」
俺の鞄はファンタジーでよくある、
容量が拡張された『魔法鞄』だ。
とても沢山入る。
鞄の口に入るサイズのものなら、
大きな倉庫一つ分くらいモノを入れられるらしい。
これが高くて、そこそこの額を借金している。
俺は残り十本も難なく採取し、
帰路に着く。
ちょうど昼だが、樹海で食事はできない。
獣が寄ってくるからだ。
しかし、俺は森の異変に気付く。
「……あぁ、糞め」
背の低い木集まった茂みの脇に屈んで、
気配がした方を探す。
「……ゴブリンが三体」
少し遠いが、
ゴブリンを見つけた。
背が低く、緑色の肌。
とがった耳と鼻と、
真っ赤で大きい目。
浅いところであっても、
数ヵ月に一回はモンスターに出会う。
俺はいつもこういう場合、
無視できるなら無視して逃げるのだが。
「帰り道にいるな。
やり過ごすか?」
俺は気配を消してゴブリンたちを注視した。
しかし、ゴブリンたちはこちらへ向かってくる。
「これは、やりすごせんな」
俺は諦めてスコップを握った。
ゴブリンは頭が悪い。
彼らは数匹で群れて狩りをするが、
頭が悪すぎて生きた獲物は狩れない。
他の獣の獲物を横取りしたり、
果物やキノコを採取して食べる。
しかし、
毒のある果物やキノコを採ることもしばしばあり、
常に空腹。
それが、ゴブリンの生態だ。
ゴブリンが俺の潜む茂みに近寄る。
しかし、俺に気付いていない。
俺の脇を通りすぎるゴブリン。
俺はそのゴブリンのうなじへ、
槍のようにスコップの剣先を突き立てる。
「ぎっ!」
ゴブリンの首から血が吹き出す。
俺はそれを浴びないよう回避しつつ、
まだ現状を理解してないもう一体にスコップを振り下ろす。
クルミの殻が割れるような音がして、
ゴブリンが崩れ落ちた。
最後のゴブリンの一体はパニックになって、
絶叫して逃げ出した。
俺はそれを見送って、
返り血が外套にかかってないか確認した。
「深追いはしない。
返り血はなし」
俺はそう口に出して確認し、
死んでいるゴブリンの左耳を回収した。
後で出没情報を冒険者ギルドへ報告しなきゃならないからだ。
そして、俺はゴブリン死体を引きずって、
近い採取ポイントに向かう。
薬草の群生している辺りにゴブリンの死体を放置するためだ。
ゴブリンの死体はそれ自体良い肥料になる。
さらに、ゴブリンの死体を食べに来る獣などのフンや、
食べ散らかしたカスが次の薬草を育ててくれる。
なので、埋めずにそのまま放置する。
二体仕留めたので、
二ヶ所に死体を遺棄し、俺は町に帰る。




