第31話 ふざけんなよ
あの戦闘以降、
白服たちが俺に押し寄せてくるようになってしまった。
「バリスタの矢に何を付けて飛ばしたのですか?!」
「どうして魔物があんな風になったの!?」
「あれはなんですか!?」
やはり、コイツらはあれを見て、
思うことはあれど理解はできてないようだ。
なんと言うか、
この世界の人間には『思考の癖』がある。
ダンジョンバトルの時にも感じたが、
目の前のものを『これ何だ?』と、
疑問視するまでのハードルがとんでもなく高い。
それは思考の基本に
『この世のすべては神の御力によるもの』と言う前提があり、
目の前の出来事のほとんどをそれで解決、納得してしまうからだろう。
元の世界なら、
魔法なんてモノは真っ先に調べ上げようと躍起になるのだが、
ここでは当たり前のモノとして魔術師すら詳しく原理を知らない。
そして、人々はそれで何も問題ない、と思っている。
「大変申し訳ありませんが、
我々も是非お話を聞きたく」
とうとう聖女の右たちも、
俺に頭を下げてそう言い出した。
これは、無理だな。
俺がしでかしたことが、
ある種のショックにはなったものの、
彼らは自分で解き明かそうとはしない。
「俺が何を言おうが、
何を教えようが無駄だろう。
アンタらは完全に『神に捕らえられている』。
だから、俺の話を『聞くこと』ができない。
聞こえないから、理解はできない」
俺はそう言って、
それらの要望を一蹴した。
恨まれるかと思ったが、
むしろ燃料を注いでしまったようだ。
ごくわずかだが、
必死にバリスタや魔物の死体を調べようとする白服たちが現れた。
そいつらなら、
いつか『科学』にたどり着けそうだな。
ただ、大半は俺を恨んでるようだ。
俺は砦から夜空を見上げる。
もちろん、白づくめたちもいる。
「目が覚めて七日。
俺はいつになったらクリザンテームに帰れるんだ?」
「そうですね。
『聖人』になられたとしても、
そうでないにしても。
『死の荒野』を抜けるためには『聖女様』の御力が必要です」
『踏破』の能力。
加護だと言っていたが、魔法との違いは不明。
ここに本人がいれば色々調べるんだが。
「今日はこの後、
お体を今一度改めたいのですが」
「薬盛られそうになったのに、か?」
「ここに着たときの貴方の身体は、
それはひどい状態でした。
その上四日も昏睡され、この前の戦闘。
ご自身のためにも、どうか」
俺は唸りながらも否定しづらく感じている。
白づくめが補足した。
「なんでしたら、
私がその検診にお付き合いしますので」
「……わかったよ」
俺は観念して白づくめと共に地下へ足を運んだ。
地下五階。
あの同じ扉がならぶ廊下を進んで、
視察室へ入った。
そこには、白衣の男が待っていた。
「見覚えあるな。
アンタ、俺の鞄に仕込んだ医者だろ。
確か、リアンとか」
「弁明をさせてほしい。
私は君の魔法鞄の薬に触れてない」
医者はそう言って両手を頭の上に上げた。
お手上げ、と言うことか?
少なくとも信用はできそうにない。
「鞄に他の人が仕込んでいたのは知りつつ、
君のそばに置いたのは認める。
でも、君の薬を捨てたのは私じゃない」
「うるせぇ。
あの薬、結局弁償されてねぇんだぞ。
薬寄越せ。
自分で調薬するから」
俺はため息混じりにそういった。
しかし。
「ここでは薬品は凄く貴重なんで、
私の一存では」
「盗人猛々しいってか?
ふざけんなよ、ヤブ医者」
ずっとこの調子だ。
俺はポーションから解毒薬、
あの虎の子の毒薬も失った。
スリングショットの弾も、
この前のバリスタにくくりつけるのでほとんど消費した。
スコップが無事だったので、
俺の武器は今スコップだけだ。
「こんなのに診てもらいたくないね」
「……それについては、
反論しがたい」
ヤブ医者すら、俺の懸念を認めている。
しかし、白づくめが困ったように首をかしげた。
「トシ・オー様のお身体を思えば、
ここは堪えて検査を受けていただきたい」
「ちっ!
問診と簡単な触診だけだ。
針やら刃物、魔法もなし」
「……いいです。
それでも、構いません」
白づくめの押しに負けて、
俺はヤブ医者のそばの椅子に腰かけた。
その瞬間、俺の尻に何かを踏み潰した感触が走る。
しまった、と思ったが次の瞬間、
視界にあった診察室は霧のように消えて、
見知らぬ男の前にいた。
「っ!」
俺は魔法鞄からスコップを取り出し、
男から飛び退いて距離を取る。
この感じは『帰還石』を椅子に仕込まれていたのか。
帰還石の帰還ポイントをうまく設定すれば、
簡易の『転移罠』になる。
それは、帰還石を手にした時に俺が考えた使い方だ。
例えば、帰還ポイントを崖の上にしておけば、
瞬間移動したらそのまま落ちて死ぬ。
ダンジョンの最奥にポイントを設定すれば、
なんの用意もさせずにダンジョンに引きずり込める。
俺は周囲を素早く見回す。
男以外、何もない。
六畳一間くらいの広さ。
レンガ造りの壁、木の板の床と天井。
しかし、家具や窓、扉がない。
明らかに異常な部屋だ。
「おらぁ!」
俺は男から目を離さず、
近くの壁をスコップで殴った。
甲高い金属音がして、スコップが跳ね返った。
固い。
これは俺の腕力では破壊できそうにない。
「素晴らしい判断力と決断力だ。
なるほど、なるほど。
そうなるのか」
男はそう言って、拍手した。
俺は警戒を強める。
何故か。
男はスーツを着ているからだ。
元の世界でしか見たことがない、
三つボタンのスーツだ。
俺はスコップを構え直して口を開く。
「ダンジョンマスターさんが、
俺になんの用だ?」
「その洞察力も、素晴らしい。
そうなるのか。
ダンジョンを持たずに生き延びた、
はぐれのマスターとは」
男はそう言って両手をゆるく広げる。
その顔はちょっと驚くほど不細工。
粘土細工を地面に叩きつけてもああならない、
と思うほどの顔だ。
しかし、身なりや立ち居振舞いは一流の雰囲気を感じる。
そのちぐはぐさ、
アンマッチな感じが男の不気味さを際立たせている。
「私は『大海のダンジョン』のマスターだ。
君には私とダンジョンバトルをしてもらう」




