閑話 為政者
●オスマンサス王都●
トシオの脱獄、強奪について、
知らせはすぐさまオスマンサス王へ伝えられた。
オスマンサス王は苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
「……『異端』どもめ」
トシオを監獄から連れ去ったのは、
『教会』が異端と認定している『日光神』をまつる教団、
『白の教会』たちだった。
彼らは自身の崇める神を『光の神』と呼び、
さも原始の神の一柱のように扱う。
しかし、教会それを認めず、
異端として厳しく取り締まっている。
七教団は異端と認定された教団の中でも、
特にこの『白の教会』は厳しく扱い、
彼らを私刑で殺害することを推奨しているほどだ。
その理由は、
『白の教会』の教義が『ダンジョンとモンスターの根絶』だからだ。
どんな手段を使っても、
どんな犠牲を払っても、
ダンジョンとモンスターを殺す。
しかも、『白の教会』の教徒たちを単なる狂信者、
として扱えない訳がある。
「襲撃者は、
『踏破の魔女』でした」
「『異能持ち』だと!?」
オスマンサス王は、頭を抱えた。
まるで、本当の神の使徒のような、
『異能』を持った者が白の教会にいる。
教会とそれに準じるものたちは、
『踏破の魔女』と呼んで警戒している。
「逃げる犯人を追いかけた兵の全員が見ています。
女が『海を割って突き進む姿』を。
彼らは後を追おうとしましたが、
女が通った後はすぐに水が落ちて来て、
道が塞がり追えず。
船を急いで用意しましたが、
港から出たときには既に遠く沖へ逃げられた後でした」
報告する兵士が報告書を控えていた大臣へ手渡した。
受け取ったのは軍務大臣で、
報告書を読んで眉間にシワを寄せる。
「大臣、私にも見せろ」
「王、こればかりは現場を攻めることはできませぬ」
「分かっている。
分かっているが、
『トシ・オーがさらわれた』ことは大問題だぞ?
どうするつもりだ?」
オスマンサスはダンジョン保有国だ。
元々海に面しており、
大きな港を複数持った貿易国家だった。
それがダンジョンからの資源と言う無尽蔵の供給を得て、
瞬く間に大国の一つとなった。
「あれがいれば、
『誰でもダンジョンを破壊できる』んだぞ?」
トシオは証明してしまった。
トシオがいて、物資と人材が揃えば、
ダンジョンを破壊できることを。
ダンジョン保有国からすれば、
どんな兵器より恐ろしい人材だ。
オスマンサス王は、
一も二もなくトシオを殺すことに決めた。
だから、無理を押してもクリザンテームへ進軍し、
トシオをさらった。
「その場で殺害できなかったとしても、
王都に転移させればこうならなかった」
「安全性の問題です。
瞬間移動の魔法が発動したときに、
他の人物が紛れ込む可能性があるので、
一旦ダンジョン街のマンチャータに運びました。
そこで判決を出してしまい、
犯罪者として王都へ輸送する手はずでした」
「大臣、もう一度聞くが、
すぐ殺さないのは本当に『そう』なのか?」
オスマンサス王は軍務大臣に問う。
軍務大臣は苦い顔で答えた。
「えぇ。
先ほど『教会』から、
正式に全てのダンジョン保有国へ通達されました。
『トシ・オーを殺すと、世界が滅ぶ』、という、
聖女のお告げです」
教会、つまり『創世の神』を奉る教団。
そこには『聖女』と呼ばれる女性がおり、
時おり『神からのお告げ』を受ける。
お告げは『創世の神』の夢で、
未来の出来事であり。
『予言』である。
各国はお告げを受けると、
良いものなら積極的にそれに寄せ、
悪いものなら全力で回避する条約を締結している。
オスマンサスはお告げを受ける前にトシオの殺害を決定していた。
そのため、急遽身柄を捕らえて形式だけの裁判をし、
国の法に則ってトシオを拘束しようとしていた。
オスマンサス王は大きなため息を付く。
「それで、『極刑』か」
「えぇ。
あれは実質『封印』です。
例えダンジョンからモンスターの反乱があっても壊れず、
中から外へ出ることは絶対にできません。
それでいて、
囚人は生き続けるのでお告げにも抵触しません」
「先王も、先々代も、執行しなかった。
極刑の『氷眠刑』」
オスマンサス王は天井を仰ぎ見た。
今度は軍務大臣がため息を付いた。




