第22話 休みたい
この世界は、糞だ。
俺は屈強な覆面男二人に羽交い締めにされ、
台の上まで運ばれる。
いくら抵抗しても二人ともびくともしない。
そして、俺は台の床に身体を叩き付けられ、
二人がかりで押さえつけられる。
猿ぐつわまでされていて、何も叫べない。
「……『死の神』の信徒として、
法にのっとて、平等に審議します」
上からそう聞こえるが、
話してるヤツの顔は見えない。
俺は顔を床に押し付けられて、
目の前は台の足しか見えない。
「では、判決」
何が平等に審議します、だ?
いきなり判決下すヤツの宣誓じゃねぇぞ。
「罪人、トシ・オー。
ダンジョンを破壊し、
国益を損ない。
モンスターをばらまき、けしかけて、
国土を侵した罪で、
極刑を言い渡す」
ふざけるな。
「以上、閉廷」
糞がぁ!
お前ら全員、殺してやる!
俺はまた覆面に引きずられて、
部屋を出た。
***
冷たい石の感覚と、
両手足に付けられた枷。
口も開かないよう、
下顎を固定する口枷までされている。
本当に、ふざけるな。
ダンジョンを破壊した後、
俺は突然現れた他国の軍勢にさらわれた。
そう、俺がいた国のヤツじゃない。
国境を超えて進行してきた隣国の軍勢だ。
俺がいた国の名はクリザンテーム。
黄色い鷹の意匠があしらわれた旗を掲げる。
攻めてきたのは、
隣国のオスマンサス。
オレンジの獅子の意匠の旗を掲げる。
ダンジョン保有国だ。
ダンジョンから出て精も根も尽き果てていた俺は、
突然彼らに襲われた。
俺だけ囲まれ、羽交い締めにされて、
瞬間移動の魔法で連れ去られた。
それで法廷の様なところにつれてこられ、
この始末だ。
今ここがどこかも分からない。
近くから波の音と潮の香りがするので、
海辺だろうとは思うが。
運がいいのか、
俺のダンジョンコアはとっさに飲み込むことができた。
ダンジョンコアを飲み込むのは初めてじゃない。
何度も試したことがある。
飲み込んだとしても、何も変わらない。
数日後に大便と共に出てくるだけだ。
なので、俺はほぼ裸な状態だがダンジョンコアだけ確保している。
まぁ、枷は付いてるけどな。
俺はこう言う状況もある程度想定していた。
ダンジョンを調べて、
いつかダンジョン保有国に捕らえられることは大いにあり得る。
問答無用で殺される可能性すらあった。
まだ、判決ありきでも裁判されただけマシだと思う。
ここは、井戸のような牢獄。
入り口は遥か頭上。
円柱形にぐるっと石が敷き詰められた、
筒の底に俺はいる。
縄梯子のような物を扉から下ろして、
覆面男は俺をここまで抱えて降りていた。
扉の真下に寝転がされた俺。
扉からここまで結構な高さがある。
扉近くに見張りがいたとしても、ここは死角だろう。
俺は舌で歯の間に仕込んでた針金を抜いて、
少し開くことができた口から出した。
一応入り口を見上げる。
そして、俺は頭を床に付けて、
腰を持ち上げひらがなの『へ』のような姿勢になり、
口枷の隙間から針金を外に出した。
その針金を指で拾って、手枷の錠へ差し込む。
この世界の鍵は原始的でコツさえ掴めば簡単に開く。
手枷が外れた。
寝転がった姿勢で足枷にとりかかる。
両手が自由なので足枷はすぐ外れた。
そして、口枷にとりかかる。
鍵穴が見えないので手探りだ。
足枷より外すのに時間がかかった。
全て外して、
俺は壁を背に座る。
ちょうど背にしている壁の上に扉がある。
振り返って見上げると、
かなりの高さがあった。
ここから二十メートル以上上にありそうだ。
「いやいや、もう、限界なんて超えてんだよ」
ダンジョンバトルで疲弊していた俺に、
大きな隙があったことは認める。
だが、これは予想し得なかった。
なんせ、オスマンサスの国境は俺のいた町から、
馬で二週間はかかる距離にあるからだ。
「休みたい。
あー……、糞がぁ……」
休めない。
こんな牢獄で休める訳ない。
正直、全力の三割くらいしか出ない。
俺は昨日からろくに食べず、仮眠しか取ってないんだ。
しかも、一週間前からダンジョンバトルに向けて色々していた。
その間もろくに休むことはできなかった。
寝不足、空腹、疲労。
満身創痍。
「糞が」
俺は悪態を付いて周囲を見渡す。
井戸のような牢獄は、
ざっと直径二十メートル。
高さは扉まで二十メートル以上。
天井はさらに上にあり、
井戸のように開いている。
天井の穴から太陽が見えるから、
今ちょうど昼間だろう。
メシ食って、寝たい。
「なんとか、しなきゃな」
俺は座ったまま情報を集める。
やはり、波の音が聞こえる。
多分、海が近い。
潮の香りが強いし、
肌が潮でベタつく感じもする。
俺はオスマンサスの地図を思い描く。
俺が知ってる地図は制度の低い地図だったが、
大陸の西端辺りにオスマンサスの領海と海岸があるはずだ。
そして、オスマンサスの西端には、
ダンジョンがある。
俺の予想だが、ここは。
「『大海のダンジョン』があるダンジョン街、か?」
もし、そうなら。
さて、どうだろうか。
俺は自分の身体の具合と得た情報を統合して、
次の行動を思案する。




