閑話 熱
●ダンジョン管理室●
真っ白の部屋の真ん中に倒れたクミ。
自分の命が散り、自分という『熱』を保てなくなり。
『熱』が散って、均されていくのがよくわかる。
「い……イヤだ」
辛うじて口から出た言葉は、
誰にもどこにも届かない。
クミは幼い頃から殴られ、蹴られて育ち。
学校にもろくに通わせず。
父と母の『友達』に、
弄ばれ、汚され、痛め付けられる毎日だった。
彼女の唯一の救いは、『科学』だった。
ゴミ捨て場で拾った、オカルト科学雑誌。
それをきっかけに、彼女は科学にのめり込んだ。
まともな環境なら、
彼女は立派な科学者になったろう。
しかし、中学の頃にはマンションの一室に閉じ込められ、
ベッドに鎖で繋がれた。
毎日訪れる男や女に弄ばれ。
死ぬことも許されず。
地獄のような毎日を送る。
いつか、空から、宇宙から何かが来て、
世界を破壊してくれる。
そう夢想していた。
そこに突然現れたのが、黒いドレスの女だ。
当たりを見回すと、
見飽きた部屋がむき出しの石と木でできた奇妙な部屋に変わっていた。
「貴女、
世界を渡って来てしまったみたいね。
大丈夫。
私に任せて」
彼女は神と名乗った。
初めは信じられなかったが、
彼女の世界に来てしばらく共に過ごすうち、
クミは彼女が神であることを認めた。
異星人のテラフォーミングとは違ったが、
異世界に迷い混んで神に拾ってもらった。
クミは、この世界への移住を希望した。
「クミには、
ダンジョンマスターの仕事をしてもらおうか。
大丈夫。
教育制度はしっかりしてるから」
闇の神の言うとおり、
ダンジョンについてしっかり教育してくれた。
しかし、最後は助けてくれなかった。
クミはあの男はどうでもいいと断じてしまい、
何も調べず、闇の神にも聞かずにいた。
それが、どうだ?
あの男は闇の神の言うことをひっくり返し、
クミのダンジョンを半日で踏破した。
結果、ダンジョンコアは砕け散った。
クミは今まで何度も死を望んできた。
でも、この世界で居場所をもらって。
死にたくないと思えた。
でも、それもうまく行かなかった。
あの男のことを調べればよかった?
あの男と敵対したのがダメだった?
今更ながら、思うことはある。
しかし、もう時間はない。
思考も、クミと言う自我も、
空間に均されていき。
何もかも部屋と等しくなっていき。
ダンジョン管理室が消失する前に、
彼女の命はついえた。




