第16話 こなくそ!
二階層目の罠は、
冒険者たちの進捗速度をかなり下げた。
モンスターのように倒して終わり、ではないからだろう。
だが、罠の情報はどんどん蓄積され、
新たな死者なく二階層も進む。
カーフェイとミルヒィたちは、
一度も戻らずダンジョンに潜り続けているらしい。
順調だ。
ダンジョン攻略は、順調だ。
しかし、新たな問題が発生した。
「門を死守しろ!」
「飛んでるやつは、鳥もちで落とせ!
落としたら、とどめは後回しだ!」
「サイクロプスとオーガーのタックルに注意だ!」
「ガーゴイルだと!?」
ポータルの入口付近に大量のモンスターが湧き出した。
サイクロプスのような大型のモンスターが中心で、
それらを囲み守るように飛行型と小型のモンスターが群れている。
本来ならそんな連携を取るはずないモンスターたちが、
掲示板をめがけて突進をしかける。
「一階層のモンスターが復活しない!」
「一階層のモンスターが全部入口に集まってやがるぞ!」
さっきのサイクロプスがこの掲示板を見つけたからだろう。
モンスターたちは、
冒険者たちを無視して掲示板を目指して突進する。
俺はインクまみれの手を止めずに、
声を張り上げる。
「ダンジョンは、
つまるところ『でかいモンスター』だ!
そして、ダンジョンは『人を食う』!
直接ダンジョンは人を食わないが、
ダンジョンのモンスターが代わりに食う!
つまり、モンスターの氾濫は、
『ダンジョンの食事』だ!」
俺がこの一週間考えた仮説だ。
日本でのアニメやゲームの知識と、
都合の良い嘘も混ぜた。
これなら、筋は通るしダンジョンと敵対しやすい。
「その上、ダンジョンを守るためにもモンスターがいる!
そいつらは食うためだけじゃなく、
侵略者を攻撃する!
今現れたモンスターたちは、
防衛のモンスターだ!
コイツらはダンジョンの中の冒険者たちより、
『掲示板』を驚異だと判断した!
だから、モンスターはここだけを狙ってる!」
ジャバとライムも冒険者たちと混ざって防衛してくれている。
しかし、多少でも連携をするモンスターは強敵だ。
モンスターの種類こそ変わらないが、
難度が何倍にもなっている。
防衛線は、じりじり押され始めた。
「こなくそ!
マリー! アニス!
ちょっと離れるわ!」
俺はそう叫んでペンを投げ捨て、
防衛線に向かって走り出す。
混戦状態だが、
戦ってるはずのモンスターたちは掲示板しか見ていない。
だから。
「全員!
目を塞げぇ!!」
俺はそう叫んでスリングショットにつがえた、
特殊弾をモンスターの視点の先めがけて放った。
そして、俺も目をふさぐ。
次の瞬間、まぶた越しでもわかるほどの閃光が炸裂した。
俺が放った閃光弾が空中で炸裂し、
太陽が落ちてきたような光を放つ。
しかし、光はすぐ収まる。
俺は急いで顔を上げてモンスターを確認した。
モンスターたちは目を押さえて悶絶していた。
「今だ!
やっちまえぇ!」
俺の声に呼応して、
冒険者たちはモンスターを撃退していく。
「もうすぐ夜が明ける!
夜が明けたら、
さっきの閃光弾は効果がなくなるから!
今のが最後だ!」
俺はそう叫んで掲示板に急いで戻る。
「トシ・オー!
ナイス!」
「先生ぇ!
その飛び道具売ってくれ!」
「トシ・オー!
その武器の権利売ってくれ!」
冒険者たちだけでなく、
商人たちもスリングショットを見て色めき立つ。
俺はそれらを無視してデスクへ駆け戻る。
アニスが俺に駆け寄ってきた。
「トシ・オー!
無茶しすぎです!」
「掲示板を壊されたら、マズいんだよ。
ここを死守すれば、ダンジョンはなんとかなる。
でも、ここがやられたら、
冒険者たちの補給線が途絶えてしまう。
それでは、ダメだ。
モンスターの氾濫が町を襲うぞ」
俺の言葉にアニスはたじろぐが、
黙りはしなかった。
「それだけではないでしょ!?
貴方がここにいて、掲示板があるから、
攻略情報が出来上がっているんです!
貴方がいないと、掲示板の意味がないんです!」
俺は真剣な顔をしたアニスを見て、苦笑いした。
「俺の知識だけじゃねぇだろ。
薬も道具もあってのことだ。
その三つの中なら、情報の優先度は低い」
俺はペンとインクを持ち直し、
アニスから視線をそらした。
視界の角で俺をにらむアニスが見えるが、
デスクワークに戻る。
そこに飛び込む、最新情報。
「二階層のボスだ!
でかいキメラだ!」
俺は声がした方へ叫ぶ。
「キメラの見た目を教えろ!」
「獅子の頭!
蛇の尻尾!
前足ってか、サイクロプスみたいな手!
人間みたく二本足で立って歩いてる!」
なんじゃそりゃ。
イメージしてたキメラとは違うらしい。
「獅子の頭にはコショウとかスパイスをぶつけろ!
蛇の尻尾は熱に弱いはずだ!
火球の魔法をぶつけてやれ!
ただし、蛇の毒は気を付けろ!
解毒する間もなく即死するやつだと思う!
俺はライオン頭の人間をイメージする。
巨体なら、
サイクロプスとかの知識と混ぜても良いみたいだ。
「二本足で立ってるから、
かかと辺りを切りつけろ!
鳥もちでもいい!
とにかく、足を攻撃して地面に倒せ!
何個頭があっても、心臓は一つだ!
キメラがぶっ倒れたら、心臓を潰せ!
胴体が人間っぽいなら、
剣を寝かしてアバラの隙間から胸を突け!」
俺の声が届いたようで、
数名がダンジョンへ向かって駆け出した。
俺の予想なら、次の三階層でラスト。
予想より階層が多くても、
後一つか二つくらいのはずだ。
「どこが、優先度は低い、ですか?」
アニスが、俺をにらみながら言う。
俺は乾いた笑いを上げて、手元の書類に逃げた。




