第15話 気を引き締めろ!
ミノタウロスが、解体台の上に乗った。
冒険者たちは歓声をあげる。
「トシ・オー!
二階層だ!」
「次のマップを用意しろ!」
「一階層も道が変わってるぞ!」
「紙! 紙は!?」
「インクが足りない!
買ってこい!」
「インクなら、隣で売ってるだろ!?」
活気づく冒険者たちと、
二ギルドの職員たち。
「こうなると、
モンスターの氾濫も悪くねぇ!」
「七日も前から事前に準備できたからだ!」
「先生のおかげだ!」
皆が口々にそう言ってくれる。
俺としては全力で保身に回っただけなんだが。
罪悪感と言うか、
なんとも言えない気持ちで俺は苦笑いを返しておく。
「おい!
二階層は罠が多いぞ!」
たくさんの怒号の中で、
俺の耳に飛び込んだそれを逃さない。
俺はペンを走らせつつ叫ぶ。
「罠の種類によるが、
道に仕掛けてるタイプの罠は破壊しても復活する!
後、落とし穴とか踏み抜くタイプの罠には板を敷け!
商人で、板材売ってる人は前に出して!
稼ぎ時だ!
スカウト!
罠解除で稼げるぞ!
どんどん罠の位置を報告してくれ!
買うぞ!」
俺は掲示板に思い付くだけ罠の種類を書き出す。
「罠のある道は簡単に変わらないはずだ!
道が変わると、
罠ごと消えるのがあるからな!
あえて罠の道を通れば、道に迷わない!
薬師ギルド!
爆薬前に出せ!
解除が面倒な罠なら、爆薬で爆発させて、
罠を破壊して通ればいい!」
冒険者たちは大笑いして、
商人から板を買いダンジョンへ向かう。
普通のダンジョンなら、
爆薬で発破するなんてご法度だ。
爆破の音と衝撃で、
モンスターたちが暴れ、氾濫する可能性があるかららしい。
でも、既に氾濫してるなら、関係ない。
「進め!
進めぇ!」
「奥だ!
宝箱を探せ!」
冒険者たちは疲れを見せない。
既に先頭が始まって四時間は経つ。
深夜の二時、三時くらいだと仮定すると、
もう少しで夜が明ける。
俺はまた声を張る。
「お前ら、無理すんなよ!?
医者はいるし、薬はある!
休み休み進め!」
「何言ってんの、先生!」
「そうだぞ、センセ!
こんなチャンスないんだ!」
「おうとも!
どんどん行くぜ!」
冒険者たちは笑う。
簡易の診療所には、何人かの患者。
そして、死体袋が三つ見える。
死者、三名。
この数はモンスターの氾濫において、
驚異的な少なさだ。
本来なら近くの町は二つ、三つ全滅しておかしくない。
それが、冒険者三名のみ。
怪我人も、命には別状無さそうだ。
マリーが俺に近寄ってきた。
「領主の軍は来そうにないね。
町の衛兵も、動かない」
「後からのこのこやって来て、
『大義だった』とか言って、
俺に対応を委任してた的にして逃げるつもりだな」
「商業ギルド本部と王都にも報告しておけばよかったね」
「いんや、マリー。
そこに報告してないから、良いんだよ」
俺はそう言って悪い顔で笑う。
それを見て、マリーは気づいたようだ。
マリーも、その目を金貨にして笑う。
「うわぁ……。
怖ぁ……」
「あの二人が笑ってんの、怖っ」
それを見ていた周りから、
そんな言葉が聞こえたがスルーする。
「トシ・オー!
サイクロプスが入り口近くにたくさん出てきた!」
俺がポータルの方を見た。
すると、ちょうどポータルから傷だらけのサイクロプスが飛び出した。
ソイツは辺りを見回し、
俺のいる辺りを見るや否やまっすぐタックルしてくる。
「止めろ!」
「誰か止めろぉ!」
冒険者たちは叫ぶ。
だが、サイクロプスの進行方向に二つの影が揺らめいた。
次の瞬間、サイクロプスは四肢を切り落とされ、
地面に墜落したように落ちる。
「……」
無言の二人が大きな片刃の剣を振って、
血を振り払う。
「ジャバ! ライム!
アタシに返り血をつけないでよ?」
マリーがそう言うと、
用心棒の二人は笑ってサムズアップした。
ジャバとライムは、元Aランク冒険者だ。
いつかの酒場で二人から聞いた話だ。
二人は性悪貴族に目をつけられ、
汚名を着せられ、
ありもしない借金で奴隷として売られた。
それを、マリーが拾った。
二人の事情を知ったマリーは、
二年待てば汚名をそそいで性悪貴族も潰してやる、
と二人に約束し。
実際に二年でそれは実行した。
二人の借金は無効。
性悪貴族はありとあらゆる商人から取引を断れるようになり、
領地経営がたち行かず没落。
しかし、二人は奴隷から解放されても、
マリーの護衛を続けることを希望して、
今に至る。
「恩返しもだが、良い引退先だと思ったんだ」
ジャバはそう言っていた。
「なんたって、
美女のそばで控えてりゃ金がもらえるしな!」
ライムもそう言っていた。
「二人とも、さすがだ!」
「すげぇぞ!
ジャバ! ライム!」
「いよっ!
元一流冒険者!」
冒険者たちはそれを見て沸き上がる。
だが、俺は違和感に気づいた。
声を張り上げて叫ぶ。
「サイクロプスは生きてる!
生きてこちらを見てるぞ!」
ジャバ素早くサイクロプスの首を落とした。
マリーが不思議そうに。
「見られたら、マズいの?」
「ダンジョンモンスターは、
普通のモンスターじゃない。
ダンジョン自体が周りを確認するための、
目や手や足だ。
ダンジョンが俺たちを認識した。
こっからは、ここが狙われる!
皆、防御を固めろ!
柵を立てろ!
地面掘って溝を作れ!」
俺がそう叫ぶや否や、
ポータルからモンスターの群れが飛び出す。
そのモンスターたちは、
冒険者たちには見向きもせず、
俺のいる簡易の受付に向かってまっすぐ突き進む。
ジャバとライムはその群れに向かって剣を振る。
モンスターの身体が一瞬でバラバラになるが、
いかんせん数が多い。
仕留め損ねたやつらがこちらに肉薄した。
「しっ!」
俺のスリングショットで撃ち出した爆薬が、
モンスターの群の先頭で炸裂する。
俺は背負っているスコップをおろして握る。
そして、爆風から抜けてきたボロボロのモンスターに駆け寄り、
剣先で首を突き、切り裂く。
俺は残りを全て仕止めきり、
喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
「気を引き締めろ!」
冒険者たちは雄叫びを上げた。
向こうも必死だ。
この様子だと三階層で最後か?
「やるじゃねぇの、学者先生!」
「すげぇ!
スコップって言うか、
短槍じゃん、それ!」
「それでEランクかよ!」
冒険者たちの称賛は一旦スルーして、
俺はスコップを背負い直して机に戻る。




