閑話 窮地
●ダンジョン管理室●
一階層が、突破された。
残るのはボスのミノタウロスのみ。
クミは、焦りに焦る。
「なんで!
なんで冒険者が増えてるの!?」
冒険者たちはその数を増やし、
さらに攻略が効率化されて行く。
軍師はさらに情報を得て、知識を繰り出す。
その知識は攻略情報として開示され、
冒険者たちは知を得る。
冒険者たちは得た知を、
歴戦の経験でさらに現実的な策に作り替える。
動きはより簡略になり、
効率的にモンスターを駆逐していく。
「無法者の集まりで、
協調性なんてあるはずないって!
嘘じゃない……」
クミは自分が追い詰められている現実に、
やっと気づいた。
敵を、相手がどうなっているか見なければ。
クミの思考がやっとそこに到達した。
彼女はカメラの代わりになる空を飛ぶモンスターをたくさん召還し、
ポータルへ向かわせる。
しかし。
「おっしゃ!
来た!」
「やれ!」
「先生謹製の鳥もちだ!」
冒険者たちは、さらに上手だった。
トシオが薬師ギルドに頼んで作った鳥もちが、
飛行するモンスターたちを襲う。
この鳥もちは、
いつもトシオがスリングショットで撃ち出すものを改良している。
改良版は素手で投てきし、
ぶつかったところで弾けて餅が広がる仕組みだ。
鳥もちがついたモンスターは羽が開けず、
落ちる。
さらに近くのモンスターにぶつかり、
鳥もちが絡み合って落ちる。
連鎖的に飛行するモンスターたちは、
気持ちいいくらい落ちていく。
「一匹でも良いから、ポータルを抜けて!
外を見せて!」
クミの悲痛な願いは、
冒険者たちへは届かない。
飛行するモンスターはポータルの手前で呆気なく狩り尽くされる。
『無法者の集まり』。
ここにクミとトシオで認識の違いがある。
クミの認識は、
チンピラのような人が集まっているもの。
トシオの認識は、
ギャングのような人が集まっているもの。
似ているが、全く違う。
そして、トシオはよく知っている。
日本の『侍』は、特に平安時代の頃は、
『武士団』と呼ばれて今で言うギャングに近い存在だったらしい。
住む土地を守るために武器をとり蜂起した、
荒くれ者たち。
彼らが政に関わるようになって、
近代の『侍』になる。
『武士』は、『軍師』と『旗』の存在で化ける。
これは日本の歴史が証明してきた。
代表的なのは、源氏。
梶原景時と源頼朝。
他にも、黒田官兵衛と豊臣秀吉が有名だ。
トシオはそれを知っている。
そして、彼はそれをイメージして戦っている。
軍師はトシオ、旗はカーフェイ。
二つが揃う前なら、クミにも勝ち目はあった。
さらに、荒くれ者のために薬を揃え、
武器や道具を揃え。
役割を振り分け、勝ちへの道筋を示せば、
彼らはその道を旗に続いてまっすぐ走ってくれる。
名を上げるため、金のため、町を守るため。
それらは、忠義とは違うかもしれないが、
全員で同じ方向を向いているのは間違いない。
団結であることに、変わりはない。
トシオはそれで良い、と公言している。
そう、大義がなくても人は動く。
動いたのは一人二人じゃない。
百を越える大人数だ。
そうなれば、もう雪崩と変わらない。
坂を転がり落ちるそれは、簡単に止まらない。
止まるわけがない。
「止まってぇ!」
声を裏返し、絶叫するクミ。
しかし、冒険者たちはミノタウロスを討伐した。




