閑話 敵陣
●ダンジョン管理室●
ダンジョンバトルが始まり、
入り口に配置していたモンスターたちが飛び出した。
サイクロプス十体、ゴブリンが三十体、
ジャイアントバット十体の五十体のモンスターたち。
モンスターの群れが相手なら、
ダンジョンなしのダンジョンマスターが対応できるはずがない。
はずだった。
ダンジョン管理室の機能で、
モンスターの視界をカメラのように閲覧できる。
飛び出したジャイアントバットが見たのは、
武装した軍団だった。
「なっ!
何? 何? 何?」
クミは慌てて他のジャイアントバットの視界も確認する。
冒険者たちだ。
闇の神が、取るに足らない無法者の集まり、
と説明した者たちだ。
「……嘘でしょ」
冒険者たちは、無駄なく、被害もなく、
効率的にモンスターたちを屠る。
当然だった。
サイクロプスの倒し方を、
トシオから事前にレクチャーされているからだ。
最大の弱点、サイクロプスの視界の狭さ。
素早く足元に潜り込めば気付かれず脚の筋を切れる。
もしくは、正面と左右の三方向から同時に攻撃されると、
サイクロプスは対応できなくなる。
それを聞いた冒険者たちは、
さらに巧妙だった。
弓矢や魔法で正面から攻撃して引き付け、
左右から剣士たちが足を切付け倒し、
うなじや首を貫いてとどめをさす。
「サイクロプスって、
強いんじゃないの?」
クミは思わず呟く。
サイクロプスはBランク冒険者が、
パーティーを組んで倒すくらい強敵だ。
しかし、それは正面からやり合う形の討伐方法。
トシオの策略ならば、
下位ランク冒険者でも数さえ揃えばサイクロプスを討伐できる。
冒険者は無法者の集まり。
確かにそう言う側面はある。
だが、『武力集団』だ。
それに、『軍師』がついた。
異世界、地球の日本に産まれ。
義務教育を受けた知力のある軍師だ。
武力集団に軍師がつけば、
それは立派な『軍隊』だ。
策も連携もない、
本能だけで暴れるモンスター相手なら、
討伐ではなく駆除作業で済ませる。
「も、もう全滅する?
ヤバい!
もっと召還しなきゃ」
クミはモンスターを追加して召還し、
ポータルへ向かわせた。
闇の神は昨日、
クミに『これが最終試験』と言って今この場にいない。
このダンジョンバトルに勝てば、
クミはダンジョンマスターとして一人立ちする。
出来損ないのダンジョンマスターを相手にして、
ゲームのチュートリアルのような『勝利が約束された戦い』。
闇の神はクミにそう説明して、帰っていった。
そのはずだった。
ダンジョンを持たず、
ただの生身のダンジョンマスターなんて敵ではない。
何の縁もゆかりもない異世界人が、
一週間で用意できるものなんてたかだか知れている。
闇の神からそう聞いていた。
クミもそう思っていた。
しかし、冒険者たちはモンスターをあっさり退け、
クミのダンジョンになだれ込んだ。
「ダメ!
もっとモンスターを増やさないと!」
クミは慌ててダンジョンに配置していたモンスターも、
新たに召還したモンスターもダンジョンの入り口に集める。
しかし、ポータルの外にクミのモンスターはもういない。
そのため、ポータルの向こう側がどうなってるか、
彼女は確認できない。
その迂闊さに、クミは気付いていない。
モンスターを敵のところへ集めることは悪くない手だ。
だが、間が悪い。
バトルが始まって一時間も経ってない。
冒険者たちも元気いっぱい。
装備も綺麗な状態なら、
モンスターは壁になり得ない。
集めたモンスターたちも、あっさり討伐される。
モンスターをけしかけるなら、
もっとダンジョンの奥まで誘い込み、
冒険者たちを疲れさせてからが良かった。
分かれ道で冒険者たちを分断してからで良かった。
罠やなんかで装備が磨耗してからで良かった。
クミもまだ挽回の余地はある。
しかし、自分の劣勢に気付けてなければ、
挽回の余地すらなくなる。
一手目は、サトウ トシオの勝ちだった。




