第13話 てめぇら、急いで構えろ!
残り、約一時間。
暗闇の中で俺は辺りを見回す。
ここは樹海と町のちょうど中間の辺り。
俺は何もないところを睨む。
マリーに用意してもらった魔力と神聖力を計測する魔道具を使って、
この辺りにダンジョンが現れる、と言うことにした。
本当は俺がここにいれば現れるはずだが。
「準備はした。
後は天命を待つ、か」
この世界の天命なんて、ろくでもないだろうな。
他の神もあのクソ女神とどっこいどっこいだろうし。
「トシ・オー。
商業ギルドは準備完了」
「薬師ギルドも用意しました」
マリーとアニスが俺に話しかけた。
俺から少し町よりのところに、
ちょっとした施設を作ってもらった。
大きめの掲示板と受付、
モンスターの解体台と大量の薬品棚。
俺はマリーとアニスに頼んで、
ここに冒険者ギルドの簡易なものを用意してもらった。
「おう!
俺たちも準備万端だ!」
そして、バニレたちが呼んでくれた冒険者約百人。
町にもまだ冒険者が控えてる。
残ってる冒険者は俺の話を半信半疑で待機してくれてる。
彼らもダンジョンが現れたら、ここへ来るだろう。
そして、俺のことを全く信じてなかった冒険者ギルドはいつも通りお休み。
この設備を見て鼻で笑ってたバスコの顔が脳裏に浮かぶ。
俺はバスコに腹が立ったが、
この後ボロボロになるのだからと、
今は良いことにはした。
マリーが俺に話しかけてきた。
「商業ギルドの長として領主にも話しは通したから。
もしこれでダンジョンが出てきたのに、
領主が何もしなかったら、
王様に領地を接収されるだろうね。
領民からの信用もガックリ下がるだろうし。
領主は無視できないけど、
手出しもしたくないって感じだったよ」
マリーが苦笑いしている。
「ありがとう。
念のため、皆も下がっててくれ。
俺はギリギリまで計測する」
そう言って俺は三人を見送った。
カーフェイは話しは聞いてくれたものの、
ちゃんと返事は貰えなかった。
でも、彼の知り合いの上位ランク冒険者たちに、
この話を広めてくれた。
お陰でここにいるおよそ百人の冒険者の中に、
数名の上位ランクがいる。
町にもなかなかの数の上位ランク冒険者が来てくれている。
また、町に住む人たちの中で、
希望者は一時的に隣の町に避難した。
主導は商業ギルドだ。
今も残っている人は事情を理解した上で町を離れたくない人と、
この作戦の関係者。
後は冒険者ギルドの職員たち。
視界の角のタイマーを見た。
残り五十分くらい。
俺のところに『ポータル』が現れるとか言ってたが。
どうなることか。
俺は計測器を構えて歩く。
調べてるフリをしつつ、周囲を警戒する。
タイマーは残り三十分。
突然、俺の目の前に光の柱が立ち上がった。
「トシ・オー!」
俺を呼ぶバニレの声がかき消えるほどの大きな爆発と閃光、衝撃が辺りに響き渡る。
俺は慌てて目を腕で塞ぎ、地面に伏せる。
俺はさすがに死んだと思ったが、
体に痛みはない。
俺はゆっくり目を開けて辺りを見る。
俺の目の前には巨大な門が現れていた。
大理石か何かでできた二本の巨大な石柱の真ん中に、
艶やかな金属の大きな扉。
高さはパッと見、十メートル以上。
横幅はその倍位で、横に広い門だ。
「……はっ!
派手で結構なことだ」
そう言いつつ俺は起き上がり、
バニレたちのいる方に向き直る。
すると、バニレとパーティーメンバーたちが俺に駆け寄ってきた。
「トシ・オー!
無事か!?」
「……あぁ。
怪我はない。
行こう。
最終確認だ」
俺はバニレに肩を借りて皆のもとへ向かう。
そして、用意してもらった台の上に立ち、叫ぶ。
「ダンジョンだ!
ダンジョンが現れた!
でも、まだ開いてない!
今から最後の説明をする!
耳の穴かっぽじって、よく聞けぇ!」
冒険者たちが俺を見つめる。
「お前らは、勇敢で強い!
でも、お前らはバカじゃないが、
モノは知らねぇ!
俺は知ってる!
色々知ってる!
でも、お前らほど強くねぇ!
だから、お前らに俺の知識をやる!
だから、ダンジョンにはお前らが入ってくれ!」
冒険者たちが笑う。
「知ってるよ、学者先生!」
「戦いは俺たちに任せな!」
冒険者たちは、口々にそう言ってくれる。
「じゃ、もう一度説明をする!
お前らがダンジョンに入って、
見たり聞いたり、戦った話を商業ギルドが買う!
マップも、書きかけでも半端でも買う!
言っておくが、このダンジョンは不安定だ!
道も、出てくるモンスターも、
罠だってすぐに変化する!
このダンジョンの情報は、
ここで売っとかないと誰にも買って貰えないぞ!」
マリーが台に上がって、俺の横に立って声を張る。
「商業ギルドは、
このダンジョンについての情報も、
モンスターの素材も、なんでもこの場で換金するよ!
現金ですぐに払う!
手数料もなし!」
冒険者たちが大喜びする。
冒険者ギルドにモンスターを売っても、
即金では貰えず、手数料まで取られるからだ。
俺はマリーから話を引き継ぐ。
「そんでもって、
買ったマップはこの掲示板に大きく描く!
現れたモンスターも分布と弱点や戦い方を詳しく書く!
お前らはそれを見てダンジョンに入れる!
攻略情報は随時更新だ!
ダンジョンから戻ってきて、
モンスターや情報を売って。
掲示板を見て再度、
ダンジョンへアタックしてくれ!」
冒険者同士でも、情報を分けることはない。
情報が財産だからだ。
それを公開する。
俺の作戦は『攻略掲示板』だ。
ゲームの攻略サイトのように、情報を募って公開し、
さらにダンジョンの深くへ向かって貰う。
「更に!
薬師ギルドで用意して貰ったポーション、各種解毒薬!
毒薬、爆薬も!
ここにある薬代は、全部俺持ちだ!
タダで持っていけぇ!」
冒険者たちはさらに沸き上がる。
「ただぁし!
瓶には特殊なマーキングをした!
ダンジョンを潰したら、
使ってない薬は全部回収する!
隠しても無駄だ!
すぐバレるようにしてるから、
猫ババした分は金払えよ!?」
冒険者たちは笑う。
今度はアニスが台に上がって、
マリーとは逆サイドの俺のとなりに立つ。
「薬師ギルドです!
医者も用意しました!
こちらの代金は個人持ちですが!
怪我人の受け入れも随時行います!」
冒険者たちはさらに沸く。
近くにポーションも医者もいるんだ。
ダンジョンで怪我をしても、
命さえあればなんとかなる。
この精神的安心感はかなりの力になる。
俺の視界の角のタイマーは、
残り十分を切った。
「あの門が開いたら、
モンスターも飛び出してくるはずだ!
てめぇら、急いで構えろ!」
冒険者たちは大声をあげながら、
今もまばゆく光る門へ向かって駆け出した。
俺はそれを見送り、一息つく。
後は野となれ山となれ、だ。
ふと、町の方を見ると、
馬に乗った数人が松明を片手にこちらに向かってくる。
遠目でもあのシルエットが誰だか分かる。
バスコだ。
バスコは息も絶え絶えで俺の元へ来た。
「はぁ……!
はぁ……!
あ! あのですね!」
「バスコ、俺の報告は虚偽じゃなかった。
認めるか?」
俺がそう言うと、バスコは苦い顔で黙る。
バスコと一緒に到着したのは、
領主の兵士だ。
俺はその兵士に聞く。
「領主様に本件について報告してたはずですが、
派遣された兵士はお二人だけですか?」
「い、いえ!
今二人が!
応援を呼びに向かいました!」
「遅い!」
俺がそう言った時、
ちょうどタイマーがゼロになった。
「門が開いたぞぉ!」
冒険者たちの方からそう聞こえた。
怒号とモンスターの声。
戦いの音が聞こえる。
「ほら、モンスターが氾濫しています!
兵士たちの到着が遅すぎる!
領主様は何をされていたか?
バスコはアンタらが俺を町を危険にさらしたとして、
捕らえて処刑する、と言ってたが。
むしろ、
バスコの方が町を見捨てるのと等しい行為をしてるじゃないか!
もしかして、これも全て領主様のご意向か?」
「い、いえ!
我々は何も聞いていません!」
「商業ギルド長です。
今のお話、うちの本部に話しても?」
マリーが前に出てそう言った。
兵士は青ざめる。
なんたって、商業ギルドは冒険者ギルドに次ぐ巨大組織。
しかも、国の経済を支える商人たちの親玉だ。
そこに、下手な報告をされたらどうなるか。
一兵士でも、その意味を分からない訳ではない。
俺はバスコに詰め寄る。
「バスコ、もう一度聞くぞ?
俺は報告を、一週間前にしたな?
でも、お前はそれを、聞かなかった」
バスコは俺を睨む。
俺は依頼票を取り出して、バスコに突きつける。
「さて、俺の報告は以上だ!
この依頼はどうなる?」
「……か、完了です!」
バスコは悔しげに言って、
俺から依頼票を奪い完了のサインをした。
その瞬間、俺とマリーとアニスが笑う。
悪い悪い顔で笑う。
バスコはそれを見て怯んだ。
「なぁ、バスコ!
お前は認めたな!
この依頼は特別依頼だ!
『消耗品は経費として請求できる』!」
マリーとアニスが請求書の束をバスコに渡す。
そこには恐ろしい請求額が記されていた。
請求書を見たバスコは、目玉をひんむいて叫ぶ。
「こ!
こんなもの、経費として認められません!」
「バカ言え!
消耗品は経費として請求できる、
って言ったのはお前だ!
俺はこの依頼のために使った消耗品の代金を請求しただけだ!」
今さっき冒険者たちに話していた、
薬代の全て。
そして、この簡易施設を作るための経費全てが、
請求書に書かれている。
「サイクロプスの出現!
その調査の結果、
ダンジョンとモンスターの氾濫だ!
大事件だぞ!?
そして、お前はそれを認めた!
そんでもって、今依頼票に完了のサインをした!
なぁ、バスコ!
ダンジョンが相手でしかも、
モンスターの氾濫に対応するための用意だ!
俺自身も、
かなりの額を俺の財布から持ち出ししてる!
その額でも安いんだぞ?」
「商業ギルドはそれが正当だと主張します」
「薬師ギルドも正当だと主張します」
バスコの顔がみるみる白くなる。
二つのギルドの長が主張した。
これ以上ごねるなら、各ギルドの本部が動く。
そうなると、
たとえ冒険者ギルド本部がこの件を主導してたとしても、
バスコが冒険者ギルド本部に切り捨てられるのは明白。
バスコはその場に崩れ落ち、
放心した。




