第12話 俺は神を信じてない
次の日。
俺は朝からマリーに頼んで本を用意してもらった。
俺は布の手袋をして、
口元を布で巻いてマスクの代わりにし、
本を漁る。
「緊急事態ってことで、
商業ギルドは全面的に協力するって言ったけど。
でも、なんで神話の本?」
そう、俺は神話、宗教に関する本を集めて読み漁っている。
「ありがとう、マリー。
後、頼んでた魔道具はあったか?」
「魔力の探知機と、神聖力の探知機ね。
魔力の方は簡単だったけど、
神聖力は『教会』が監理しててね。
なんとか間に合わせるつもり」
俺はマリーに礼を言って、
顔を本に戻す。
他にもたくさん頼んだが、
この二つの探知機は必須だ。
『教会』。
この世界の神はたくさんいる。
そして、その元締めを『教会』と呼ぶ。
この世界を作りたもうた『創世の神』は、
自分の力を『七柱の神』に分け与え役割を分担させ、
自身はこの世界を保つために『世界の中心』で眠っている。
これがこの世界の神話だ。
創世の神はこの世界の理を常に一定に保ち、
世界の均衡を保つことに注力されている。
それはあまねく全てに及ぼす力のため、
創世の神が一瞬でも気をゆるめると崩れてしまう。
だから、不用意なことをしないよう集中するために眠っている。
七柱の神は、
火の神、水の神、土の神、風の神、
鋼の神、命の神、死の神の七柱。
それぞれ名前に関する物事を司り、
教団、信仰はそれぞれ違う。
なので、七つの教団の大司教が集って、
時には協力し、時には折衝し、
争いが起きないようにする。
それが『教会』。
『教会』自体は創世の神を祀る八つ目の教団が母体だ。
創世の神の信仰と教義はもちろんあるが、
その教団は『教会』の中ではあくまでも調整役のみ。
自身の信仰と教義については、
信者を迫害しないでくれればいい、とだけ主張してるらしい。
そして、七つの神もその役割を自身の元にいる神に力を貸し与え、
分派としている。
火の神の分派の『鍛冶神』が有名だ。
俺は理由を詳しく知らないが、
創世の神と七つの原初の神々は『○○のかみ』と呼び。
分派の神々は『○○しん』と呼ぶ。
「……アイツは『闇の神』って、
名乗ったよな」
『やみのかみ』だから、原初神か?
だが、かなり調べたがそんな名前の記述はどこにもない。
分派の神々の中にもない。
「……多神教は、複雑で困る」
そもそも、『夜闇』、『ダンジョン』、
『魔物』を司る神の記述がない。
魔物については、
生き物の中でも高い魔力を体内の『魔石』に蓄える生き物の総称だ。
しかし、生き物とその営みを司る『命の神』の分派にも、
魔物を司る神はいない。
「しかも、『ダンジョン』」
そう、ダンジョンだ。
七柱のどの神に属するのか分からない。
そう考えれば、原初の一柱なのかもしれない。
「んでもって、『闇夜』。
『夜』か……」
そんな大きな物事を司るのは、
原初の七柱レベルと考えよう。
「……なら、『朝』とか『日光』とかを司る神は?
いたら、三猿を付けてやる」
調べたが、こちらもいない。
俺の呟きを聞いたのか、マリーが近寄る。
「『日光神』なら、聞いたことがあるよ」
「本当か?」
マリーはちょっと複雑な顔になる。
「ただ、『日光神』を祀る教団を『教会』が異端扱いしてる、
って聞いたことがあるだけ。
詳しくは分からない」
「『異端扱い』か」
異端は『いもしない神を祀る教団』だったり、
『本来の教義を歪曲して伝える者たち』を指して、
七神の教団が敵視している。
過激な七神の信者だと、
異端者を私刑で殺すこともあるらしい。
「『日光』を司る神はいないのか?」
「日の光もこの世の理の一つだから、
『創世の神』の司りし物事だってさ」
「なるほど」
道理の通った説明だ。
俺はマリーに礼を言う。
「……トシ・オー。
もしかして、アンタ」
「俺は神を信じてない」
無神論者、と言うのか微妙だが。
俺はこの世界の神を信仰してない。
こんなところに俺をつれてきて、
放置かまして、殺そうとする神を信仰する理由がない。
「学者らしいっちゃぁ、
らしいね」
マリーはそう言って苦笑いした。
なお、マリーは『鋼の神』の分派の『黄金神』の信者だ。
鉱物としての金と通貨としての金を司る神。
商人はこの神の信者が多い。
俺は読んでいた本を閉じて、
マリーに向き直る。
「マリー。
頼んだのは俺自身なんだが、
本当に協力してくれるのか?」
「当たり前じゃない。
アニスも言ったとおり、
この町を守るにはアンタに頼るしかないんだ」
「赤字かもしれないけど」
「上手く行けば、大儲けよ」
マリーはそう言って笑った。
ダンジョンバトルまで、残り五日と六時間。




