第99話 起きてください
スコップの街で、
商業ギルドと薬師ギルドの長が仲が良いのは有名だった。
以前は恋人かなにかかと言う噂もあったが、
薬師ギルドのギルド長が女性だと知れ渡り、
幼なじみだったと言う話も一緒に広まった。
その二人が狭い家で顔を付き合わせてため息をついている。
「……違う」
「そうですね……。
見た目は一瞬、そうなんですけど」
二人の視線の先には小さくなっているトシ・オー。
そして、最後にもう一人。
「静かすぎて不気味まであるわ」
鎧姿の第三王子、バニレがため息混じりに言いはなった。
「でしょ?
お母さんじゃないでしょ?
トッシー、記憶どころか人から違うの」
『雷光の聖女』はそう言って三人の違和感を言語化した。
「『神の封印』って、ヤバイんだな。
そんでもって、
トシ・オーは何してこうなったんだ?」
「『教会』からの発表も、
私たちが知る話と食い違ってるところが多いし。
本当に、嫌になる」
バニレとマリーはそう言って頭を抱えた。
ジョージ前王がそれに補足する。
「さっきまでは、かなり昔に近かったぞ?
一瞬で、ほら、そこにあるダンジョンコアを二つも捕って」
トシ・オーの前にあるテーブル。
その上には広げた地図と二つの宝石が乗っている。
『天空のダンジョン』と『庭園のダンジョン』のコアだ。
「でも、なんで割らないんだ?
いつかの時は大笑いして割ってたぞ?」
「さ、作戦はまだ、途中です」
バニレの疑問に、トシ・オーが応えた。
「作戦、ね。
まぁ、いいぜ?
手を貸すよ」
「私も手伝います。
薬師ギルドとしても、喜んで協力します」
「アタシは、
実は商業ギルドのギルド長じゃなくなっててね。
個人的になら手を貸せるんだけど」
「商業ギルドの本部長が、良く言う」
「アニス。
だから、
おいそれと協力します、って言えないの。
アタシだって、商業ギルドの総力で助けたいけど。
動かすのに時間がかかりすぎるのよ」
大きな組織になればなるほど、
初動がどうしても遅くなる。
この世界の通信がいまだに手紙と言うこともあり、
伝達、通達に大半の時間が必要だからだ。
「でも、この街の商業ギルドなら、動かせるから。
必要なものは言ってちょうだい。
用意させるから」
窓の外で大男が二人、
ガッツポーズをしてマリーと一緒に応える。
ジャバとライムだ。
彼らも手を貸してくれるつもりらしい。
「ありがとうございます……。
でも、今は待機です。
次の手は夜になって、日が落ちてからです」
昼過ぎから数時間でダンジョンを二つ破壊し、
コアを二つ奪い取った。
窓の外は日暮れ。
日が落ちるまでもう少しかかる。
「その間に、きっと妨害が来ます。
それに対応しないと」
「街の人は避難どころか、全員臨戦態勢だ。
魔物が氾濫しても、正面からぶち当たれるぞ」
タードも窓の外から中に顔を出してそう言った。
隣には弟のゼンフもいる。
「兄上、本当にありがとうございます」
「なに、俺がやりたいんだ。
三年前に啖呵切っといて、目をやられました、
で終わるのは悔しすぎるからな」
タードはそう言って苦笑いをする。
トシ・オーはそれを見てうつむいた。
「ありがとうございます。
本当にありがとうございます」
自分ではない。
彼らが力を貸すのは、自分ではない。
それが分かると同時に、
なぜ自分がここにいるのだろう、と思ってしまう。
そうだ。
ここにいるのが、自分ではなく。
三年前にいなくなった人なら。
きっと、もっと上手くやるのだろう。
集まってくれている彼らも、もっと喜んでくれたのだろう。
でも、ここにいるのは自分だ。
言葉にできない場違い感、疎外感。
異物感を自分に感じたトシ・オーは、
思わず懐の宝石に手を当ててしまう。
スオラは今寝ている。
次のプランはもうトシ・オーに伝えてあり。
邪魔が入ったり襲撃されたら起こしてくれ、
と言って寝てしまった。
「……ん?」
なにかおかしい。
なにかは分からないが、
おかしい。
トシ・オーは、急いで魔法鞄にダンジョンコアをしまって、
小声でスオラを起こす。
「スオラ、起きてください」
「お? 来たか?」
「よく分からないのですが、
何かおかしいです」
「おぉ。そう言う感覚、大事だぞ。
そう言うときは、外の上だ」
トシ・オーは窓に駆け寄り、
窓の前の人たちを押し退けて上を観る。
他の人たちも上を観た。
黄昏の空に、人が浮いている。
トシ・オーは扉から外へ駆け出した。
他の皆も外へ出る。
空の上の、何もないところに浮いた人は、
何とも言いがたい色をしている。
溝の上澄みのような、
いろんな色が混ざって、
その果てにできた汚ならしい色。
そんな色をしている。
人の形だが、少し緩い。
なんと言うか、粘土のように崩れそうだ。
そして、人にしては大きい。
身長が五メートル以上はある。
顔はなく、服も着ておらず。
身体に凹凸もなく、つるりとしている。
「あぁ、ありゃま。
何となく分かったわ。
あれ、シェイプシフターだ。
シェイプシフターが、
いろんな生き物や魔物の身体を繋いで、
無理やり動かしてる」
スオラはそう言ってトシ・オーに短い指示をだした。
「俺の指示する道で、俺の言うところまで走れ。
戦ってくれるやつらたには、
あの敵は直接触れると死ぬと言え」




