閑話 灯りの届かぬ場所で
●どこかの暗い部屋の中●
男の目の前には、二つの宝石。
一つは自分のダンジョンコア。
もう一つは、『武人のダンジョン』のダンジョンコア。
それらを見つめて、じっと男は動かない。
「大変だ!
俺のダンジョンコアを獲られた!」
「私のダンジョンコアも!」
男の周りに突然現れた宙に浮く小さなモニタのような表示。
それに写し出されているのは、
『天空のダンジョン』のマスター、コウジ。
そして、
『庭園のダンジョン』の女性のマスターだ。
「だから言ったろ?
ダンジョンから脱出するときに、
ダンジョンを放棄してコアを確保しとけ、と」
疲れた顔の男はため息混じりにそう言った。
二人は何も言い返さず、苦々しい顔になる。
「作戦会議では、
『全員ダンジョンコアだけを確保して逃げる』、
と俺は提案した。
作戦が終了すれば、
また前みたいにダンジョンを一から作り直せば良い、と。
でも、お前らは拒否した。
『ここまで育てたダンジョンを手放すなんて』、と。
まぁ、言いたいことは分かるし、
気持ちも分かるから止めなかったが。
そのお前ら自身の判断の結果を俺に言うなよ。
そんなことまで、俺は対応できないし、しないぞ?
作戦は変わらない。
このまま続行する」
男は冷たく言い放つ。
二人は言いたいことはあれど、
何も言えなくなって床を見つめている。
「ただ、
二人が喉に剣を突き付けられてるのと変わらない状態なのは、
今後の作戦にも響く。
作戦を変えることはできないし、
進行を遅らせることもできないが。
別で一手、打とう」
男は二つのダンジョンコアを魔法鞄に詰め込み、立ち上がる。
「待って」
女性のダンジョンマスターが、
それを止めた。
「本当に、『あの人』は封印されてるの?
あの容赦ない手際は……」
女性のダンジョンマスターの声は震えている。
三人の脳裏に浮かぶのは、三年前の悲劇。
『武人のダンジョン』のマスターのこと。
「大丈夫だ。
俺が近くまで行って、直接見たんだからな。
それにもし、万が一、封印が解けていても、
俺たちのやることは変わらない」
男が扉を開いた。
その扉の先は、先が見えないほど長く長く続く階段。
地の底まで通じていそうなそれを、男は降り始める。
「そうとも。
何も変わらない。
今さら変えられない」
男の顔に何かが覆いかぶさり、
形を変えていく。
そして、現れたのは、
ミルポアで行方知れずになっていたパティスだった。
文字通り、張り付けた笑顔で男は歩いていく。
まっすぐに、地の底へ。




