閑話 諸悪の根元
●会議室のようなところ●
テーブルから少しはなれた位置に、
両手に手錠、足に足枷を付けた女性が立たされている。
濡れたネズミのような色のボロを着て、
髪はぼさぼさ。
しかし、その身体から発せられるオーラは強大。
理由は明確。
『光の神』から奪った二つの権能。
『都市』と『文明』が身体に馴染み、
その力を発揮しているからだ。
「こんなところに連れてこられて、
こんなもの見せられて。
私に何をさせたいの?」
『闇の神』は不遜に笑う。
他の神々は頭を抱えていた。
「……なんなの、あれ」
『風の神』はそう漏らした。
「あり得ない」
『鋼の神』も似たような状態だ。
「こ、これでは……、まるで……」
『水の神』が何かを言いかけて飲み込む。
「嘘だろ……?」
『火の神』は放心している。
「違う……。
絶対違う……!」
『土の神』はスマートフォンのような機械を必死に操作している。
そして、『死の神』が気づいた。
「……あれ、なんだ?」
モニタに写し出された、
トシ・オーの懐。
チラリと見える何か。
誰よりも早く闇の神が気づいた。
「ダンジョンコアじゃない。
あれ、アイツのでしょ?」
アイツの、とは、
もちろんトシオのことだ。
死の神はノートパソコンのようなものを操作して確認する。
「……確かにダンジョンコアだ。
だが、『何もない』ぞ?」
「そうよ?
三年前にも言ったけど、
あれは便宜上アイツをダンジョンマスターにするための、
中身空っぽなただの宝石
アイツとの命のリンクは、
三年前に『命の神』が切ったんでしょ?
なら、本当にただの石くれ」
死の神は、目を見開いた。
気付いてしまったが、疑いようもないが、
確信めいたものもあるが、納得だけできない。
そういう顔をしている。
「そうだ……!
空っぽなただの宝石……!
じゃぁ、なんだ?
トシ・オーは、
空っぽなただの宝石に話しかけてるぞ……?」
「そうね。
あれからは何の力も、
何か音とか信号とか出してる感じもないのにね」
返事をするのは闇の神だけ。
他の神々も何かに気付いて、凍りついている。
「……『何か』?
っ……!
そんなの決まってる……!
トシ・オーは、『トシオ』を……、
見つけた……!」
死の神の言葉に、他の神々がはっとした。
「何もない宝石が話してるんじゃない……!
トシ・オーの中から話しかけてる……!
だから、いくらコアを調べても何も見つからない……っ!」
闇の神だけ、楽しそうに笑う。
「記憶の封印なんて、半端なことするから」
「元を正せば、貴様が原因だろう!?」
死の神の怒号は部屋全体を揺らした。
しかし、闇の神にはどこ吹く風。
「あらあら、怖い。
まぁ、そうね。
こんな状況、貴方たちは味わったことないのよね?
私は三年前に嫌と言うほど、味わった。
この、感じを」
闇の神は笑う。
死の神はノートパソコンを乱暴に閉じて闇の神につめよった。
「今すぐダンジョンマスターたちを止めろ」
「もう遅い。
だって、アイツは始めてしまったから。
ダンジョンバトルなしの、『ダンジョン狩り』を。
さながら、三年前の続きのように」
死の神は枯れ枝のような指で闇の神の胸ぐらを付かんで持ち上げた。
細い腕のどこにそんな力があったのかと思うほどの力だ。
「今すぐ止めろ!
ダンジョンマスターを殺してでも、止めろ!
文明の発展は『白の教会』のお陰で、
既に元の値に追い付いたんだろ?!
なら、もうダンジョンマスターに用はない!
殺してしまえ!」
死の神の言う通り、
この三年で文明は急激に発展した。
『白の教会』がトシ・オーのメモを元に科学を発展させ、
それにともなって魔術も発展して。
人の文明が、急速に変わっている。
オスマンサスがその最たるものだ。
「あの子たちには、
私のダンジョンの権能を管理させてるの。
殺して私に管理を戻しても良いけど、
そうなると他の仕事回せないからね?」
「それも込みで何とかするのが!
本来のお前の仕事だろうが!?
『光の神』から権能を奪っておいて、
仕事はしません、なんて許さんからな!?」
権能の良いところだけを手に入れ、
仕事は他所に押し付ける。
押し付けられた方は、仕事と責任だけを負う。
子請、孫請、ひ孫請のようなひどいシステムだ。
「元々、『都市』の権能も、
ダンジョンマスターみたいに人間に任すつもりだったの。
各国の王族とかに神託して、
『貴方は神に選ばれました』、とか体よく伝えて、
仕事を押し付けるの。
オスマンサスに民主化されて、
できなくなっちゃったけどね。
貴方たちもやってみれば?
楽よ?」
「それで失敗しといて、よく言えたな?!」
闇の神はそれでも笑う。
「失敗? どこが?
あの仕組みを壊せたのは、
後にも先にもアイツだけでしょ?
アイツがいなきゃ、間違いなく成功していた」
「それでも、失敗だ!
しかも、その負債は世界の危機として残して!
お前は何もしないつもりか!?」
闇の神はさすがにばつが悪いと、顔が苦笑いに変わる。
「私だって、世界が滅ぶのは防ぎたいけど。
アイツを止める?
無理無理。
それができるなら、
三年前にしてたっての」
それには死の神もさすがに言い返せなかった。
「でも、ダンジョンマスターが絡んでるなら、
ダンジョンの中を観るのは手伝う。
その、
ビトメって人間がどこに入るのか分からないんでしょ?
なら、ダンジョンの中に隠されてるのは確定。
それなら協力として、認めてくれる?」
「……足りん。
足りんが、一旦はそれでいい。
すぐに探せ……っ!」
「やってます。
……。
…………。
………………あ」
嫌な『あ』、だった。
さっきまで余裕綽々だった闇の神の顔から、
冷や汗が吹き出している。
死の神に胸ぐらをつかまれて凄まれても顔色を変えなかった彼女が、
目に見えて狼狽している。
他の神々がそれを見て青い顔をさらに青くする。
「も、もう一人……、
ヤられてる……?」
活動できるダンジョンマスターの残りは一人になっていた。




