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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第七章 経験者大歓迎!

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第95話 適当に言ってません?

「おう!

出してくれて、ありがとう。

礼を言う。

 それで、ここはどこだ?」


 トシ・オーは表情に出さないが、

パニックのど真ん中にいた。

宝石が話をしている。

無機物の宝石がだ。

 魔物にしては、あまりにも無防備。

しかも、なにかできそうな雰囲気もない。


「あな……たは?」

「俺か?

分からねえ。

誰なんだろうな、俺」


 宝石はあっけらかんと言い放つ。


「記憶がなーんもねぇんだわ。

気がついたら何かの中で。

お前がそこから引き出してくれた。

 俺が入ってたのはそれか?

魔法鞄っぽいな。

俺以外に何か入ってねぇの?」


 よく話す宝石だ。

トシ・オーは、少しずつ冷静を取り戻し、

鞄をもう一度漁る。

鞄の中は空っぽだった。


「貴方しか、

入ってなかったみたいです」

「そうか。

でも、それは魔法鞄だろ?

ためしに、そのスコップ入れてみな」


 トシ・オーはスコップを鞄にいれた。

どうみても入らないはずのスコップが、

するする鞄へ飲み込まれていく。


「ほら、魔法鞄だ。

それ一つで一財産だ。

ちゃんと持っておけ」


 宝石のいうとおり、

ボロボロの魔法鞄をベルトに留めておく。


「と、なると。

マジで俺、なんだろな

何にも覚えていないし、

思い出せそうにもないな」

「……私も、三年前そうでした」


 トシ・オーは、ポツリと言う。


「おぉ、そうかよ。

こんなんだったか?」

「私は、言葉も常識も全て忘れてて……。

赤ん坊のような、獣のような状態でした」


 トシ・オーは、

その時のことを思い出して目を伏せる。

 恐ろしい。

ひたすらに恐ろしいと感じて、逃げようと大暴れして。

ビトメに迷惑もかけた。


「マジかよ。

話せるし、モノは分かるから、

俺の方がいくらかいいか。

 じゃぁ、とりあえず名前くれ。

何て名乗れば良い?」


 それに比べて、

この宝石はあっけらかんとしている。


「貴方は魔物でしょ?

名前はいらないかと」

「こんな魔物いるか?

魔法も使えねぇ、手も足もねぇ。

爪も牙も論外。

くっちゃべるだけの石くれに、

何ができんだ?」

「……高値で売れそう」

「それは否定しねぇがよ」


 トシ・オーは宝石をテーブルの上においた。


「お前、俺のこと魔物さん、とか呼ぶのか?

バカみてぇだぞ?」

「なんで、呼ぶ必要が?

貴方はここに置いて行きますよ」


 トシ・オーは少し驚いた様子で言い返した。

宝石は顔もないのにため息をついたのが分かる。


「薄情なやつめ。

俺のことを置いてくのかよ」

「貴方はここの家の人のものでしょ?」

「お前が腰に付けてる魔法鞄もそうだよな?」


 トシ・オーはベルトに留めてある魔法鞄を見た。


「これは、借ります」

「ここの家の人に許可貰えたのか?」

「ここは私の家、らしいです。

記憶はありませんが」

「じゃぁ、俺もお前のじゃんかよ?」


 普段無口なトシ・オーだが、

何故だかこの宝石相手には話が続く。


「こんな大変なときに、

不信なアイテムは持ち歩きませんよ」

「お前のなのに、不信?

記憶を失う前は呪いのアイテム集めでもしてたのか?」

「だから、記憶がないんです」


 宝石はトシ・オーの言葉を聞き逃していなかった。


「後、大変なときに、っつたか?

なら、なおさら俺を連れていけ」

「何故ですか?」

「助けてやるよ」


 宝石は自信満々にそう言った。

今度はトシ・オーが小さくため息をついた。


「魔法が使えない、

手も足もない、と言ったのは貴方では?」

「はっはっはっ!

だけどな、口はたつぜ?」


 トシ・オーは否定できなかった。

宝石は笑う。

顔もなにもない。石なのに笑っているのが分かる。


「記憶はないが、俺はお前より賢い」


 トシ・オーの脳裏に、

さっき魔法鞄を言い当てたことが浮かぶ。


「知恵を貸そう。

代わりに、

俺の記憶を探すの手伝ってくれよ?

 後、仮で良いから、名前をくれよ」


 まるで、悪魔に契約を持ちかけられているような、

胡散臭さと抗いがたい魅力的を感じる。

トシ・オーは唸る。

そこに、宝石は追い討ちをかけた。


「お前、困ってんだろ?

困ったときは使えそうなものは全部使え」

「……話を聞いてください」


 トシ・オーは、

試しに今の状態とビトメについて話し始めた。

宝石は軽い相討ちしかしなかったが、

全部聞き終えてから、こう言った。


「俺がいりゃ、勝てるぞ?

その、ビトメって女も助かる」

「適当に言ってません?」

「信じる、信じねぇ、はさて置いて。

少なくともこんなとこにいるより、

百倍は良い結果を出せる」


 トシ・オーは、大きく息を吐いた。


「分かりました。

貴方の名前は、『スオラ』。

スオラです」

「よし!

俺はスオラ!

よろしく!」


 目には見えない握手がされた。

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