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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第七章 経験者大歓迎!

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第93話 『スコップの街』

●天空のダンジョン最奥●


 ビトメがダンジョンに連れ去れてた。

何もない。

本当に何もない、空を浮く小島の上。

彼女はその上で座っていた。


「『水の神様』から、

ここで待つよう神託をいただいた以上。

ここで待つしかありません」


 幸い、まだ『鋼の神の加護』が発動しており、

身の安全は保証されている。

難点があるとするなら、

食べ物も水もない土がむき出しの小島の上で、

自分は何日もつのか。


「体力を温存しなければ」


 ビトメは座って、

『命の神』への祈りを捧げ続ける。

思考しないよう、行動しないよう。

正気を保ち、心を落ち着かせるために。

己の信仰のために。


●プニャード●


 トシ・オーは、動かない。

ダンジョンバトルが終わり、

一般人と周囲の安全を確保し、

『白の教会』の神殿に戻ってから。

彼はテーブルの上の大陸の地図に両手の平を付けて、

ピクリとも動かない。


 しかし、その眼球はせわしなく動き続けている。


「なぁ、あれ……」


 ジョージ前王はそんなトシ・オーを遠目で見て言いかける。

しかし、『雷光の聖女』はそれを遮って首を横に振る。


「違うよ。

お母さんじゃない」


 明確な否定。


「お母さんは、立ち止まらない。

目的のために歩き続けるの。

だから、あれは違うよ。

 ……でもね」


 『雷光の聖女』は目を細めて続ける。


「きっと、彼も探してるの。

自分の中の『勝ち目』を」


 トシ・オーの見つめる地図の上の赤い丸印が、プニャード。

緑に塗られて広がる地域は『樹海』。

そのさらに北。

国をいくつも跨いだ先にある、

黒いインクでばつ印が付いた所が『天空のダンジョン』。

 大陸の南端から北端ほどの距離がある。

緯度で言えばヘルトより、

『天空のダンジョン』の方が北にある。

真っ直ぐ行けても、馬で数年かかる。

それなのに、『樹海』が道を遮っている。

 広い、広い、緑の地域。

ここはダンジョンではなく、

自然に生息している魔物たちの巣がある。

中央へ行けば行くほど、

魔物は狂暴に、強力に、凶悪になる。

人類未踏の地域だ。

 これを迂回して『天空のダンジョン』へ向かったらば、

馬とはいえ直接距離よりさらに数年余計に時間がかかる。

現実的に、ビトメの生存が絶望的だ。

しかし。


「……やられた」


 オスマンサスの将軍は、

報告書を見てそう呟いた。

彼はニワトリを屠った際、

受けた傷に包帯を巻いている。


「魔物の氾濫は、囮だった」


 その報告書には、こう書かれていた。

倉庫街に保管されていた帰還石が、全て破壊されている。

さらに、街の商店や倉庫にあった帰還石も残らず破壊。

ヘルトに行ける瞬間移動魔法の使い手も、全員死亡。

瞬間移動ができる魔法使い自体もかなり数を減らしており、

意図的に狙われたのがわかる。


「ダンジョンマスターの狙いは、

トシ・オーをここプニャードに閉じ込めて、

ビトメ様を連れ去ることだったと見て間違いないだろう」


 将軍の言葉を聞いて、

『雷光の聖女』が手を上げた。


「ビトメねぇちゃん、助ける!」

「待て待て!

お前さんなら『天空のダンジョン』まで一走りかも知れんが、

ダンジョンの中に一人で飛び込むのは危険すぎる!

せめて、お前さんの所のテクノマギを百人は連れて行かねば、

生存すら危ういぞ?」


 ジョージ前王がそれをとめる。

包帯まみれのゼンフが手を上げた。


「『樹海』の手前の街ならば、

私が瞬間移動で連れて行けます」

「あそこは、

『樹海』の魔物を狩って生活する冒険者の街だ。

土地に根付く者もいるが、

いつ放棄されるかわからんとして、

街に名前すらつけられてない『名無しの街』だぞ?

 あんなところへ出られた……、として……。

いや、それは名案かもしれんな」


 ジョージ前王が、ニヤリと笑う。

そして、彼は地図の上の『名無しの街』に青いインクで丸をする。


「ここは、

三年前までトシ・オーの生活拠点だった街だ!」


 『名無しの街』、『冒険者街』。

色々呼ばれるが、

そこに住む者は今、街をこう呼ぶ。


●名無しの街●


「……『スコップの街』」


 そう呟いて、

トシ・オーはローブを目深に被り直した。

 街に入ると目につくのは冒険者たち。

彼らは、

ほとんど全員がスコップを持っていた。

剣士もスカウトも、

魔法使いなんてほぼ全員がスコップを背負っている。

 スコップは柄からグリップまで全て金属製。

焼き付けられた刃が付いているので、

固い土にもさくりと突き刺さる。

手入れを欠かさなければ、

魔物の首をはねる武器にもなり得る。

柄やグリップは険や槍も受け止め、

いなすことができる。

万能なサブウェポン。


「……トシ・オー。

しっかり顔を隠しておけ。

 バレたら悪い意味じゃなくて、

いい意味でパニックになるぞ。

バレた瞬間、街を上げて祭りが始まってしまう」


 同行をすることになったジョージ前王は、

苦笑いしながらそう言う。

ここはクリザンテーム王家の直轄地で、

今もなお第三王子が直接管理をしている。


「この街はな、

三年前から必ず『クラウン』を仕入れてるんだ。

しかも、必ず二月に一本売れてる。

一本金貨三枚の超高級な酒が、だ」


 ジョージ前王、包帯をまいたゼンフ。

そして、『雷光の聖女』がトシ・オーの周りを囲むように陣取り、

街を歩く。

はっきり言って、とんでもなく目立つ集団だ。

 突然、その集団を見つけた冒険者の男が、

大きな声をだした。


「ゼンフ!

こんなところで、何してんだ?」

「あ!

タード兄さん!?」


 左目に眼帯をまいた冒険者が、

ゼンフに近寄ってきた。

彼はこの集団を見て眉を潜める。


「異端審問官、の仕事か?」

「そ、そんなところです」


 ゼンフは慌てて肯定する。

それを不思議そうに眺めている『雷光の聖女』が。


「おっちゃん、おとーと、なの?」

「聖女殿。

老け顔と言いまして、

見た目より歳が若い方も多いのですよ?

 私の息子の、

今のオスマンサス王も。

あの見た目で、貴女と同い年ですから」

「ジョーサンは、

ジョージの息子だから若いよ!」


 『雷光の聖女』はジョージ二世、

前王をジョージと呼び。

その息子、現王ジョージ三世をジョーサンと呼ぶ。

 現王もジョージ二世に似て、イケオジなのだが。

年齢はまだ二十一歳。

現王には三人の姉がいて、三人の弟がいる。

三人の姉は既に他国へ嫁いでいたので、

長男のジョージ三世が王位に着いた。

 ゼンフは何となく居たたまれなくて一歩下がる。


「老け顔の自覚はありますよ!

兄上の方がどう見てもお若いから!」


 彼ら兄弟が並ぶと、非情だ。

劇画タッチの世紀末漫画のキャラのようなゼンフと、

少女漫画のキャラの俺様系王子様のようなタード。

血統とは?

と言いたくなる。

 ジョージ前王はゼンフをなだめつつ。


「まぁまぁ。

ちょうど道案内を探してたんだ。

 タード殿、お礼はしよう。

この街の商業ギルドまで案内してくれるかな?」

「構わないが……。

そのフードの人、どこかで会ったか?」


 タードはフードの中を覗き込もうとしたが、

ゼンフはやんわり止める。


「すまぬ、兄上。

この方の護衛が仕事なのだ」

「おぉ、そう言うことか。

すまん」


 タードが謝った。

彼が頭を下げたその瞬間、

何かに気付いて顔つきが変わる。


「トシ……、オー?」


 タードは訝しげに、そう呟いた。

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