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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第六章 副業・兼業OK

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閑話 重責

●会議室のようなところ●


「ビトメとトシオを引き離すことが、

ダンジョンマスターたちの目的だったのか?!」


 火の神がモニタを齧り付きで見ながら叫ぶ。


「これはダメ!

急いで彼女をトシオのところへ戻さないと!」


 土の神はそう言って、

スマートフォンのような端末を操作し始める。


「私の判断が甘かった!

申し訳ない!」


 鋼の神もオールバックの髪をかきむしり、

紙の資料に埋もれている。


「ここで私の加護を使うと、

ダンジョンコアを破壊できます。

破壊できますが、

彼女の足場の小島が落ちて……」


 ビトメは天空のダンジョンのど真ん中、

一番高いところに浮いている小島の上にいた。

直径十メートルほどしかない、

何もない島だ。

周囲には飛び移れる距離に足場も何もない。

空の上にポツンと浮かんだ、小さな小さな島だ。

 『鋼の神の加護』がまだ発動しており、

魔物に襲われてもなんとかなるが。

足場を失って落下するのは、さすがに護りきれない。

その上、小島の周りには魔物すらいない。


「このままここに放置されてもダメ!

食べ物も飲み物もない!」


 風の神は、必死に考えているようで、

ヒールをかつかつ鳴らして会議室のようなところを右往左往している。


「……これは」


 死の神はイスの背もたれに身体を預けて、天をあおいだ。


「ビトメの加護の、

『命の神の加護』の範囲から、

トシオが外れてる」


 ビトメに与えられた加護は、

本当は七柱全てだった。

伝えられていないが、

『命の神』は最後にビトメに加護を与えている。


 それは、『サトウ トシオの記憶を封じる加護』だ。


 トシオ自身にも何重にも封印がかされている。

その封印の一番上。

今まで漬け物石のように押さえ込んで動かなかった、

この加護による封印が今はずされた。


「他の封印は?」

「まだ大丈夫、だけど」


 土の神の答えのは切れが悪い。

死の神は重ねて問いただす。


「他の封印は、大丈夫なんだな?」

「……封印は大丈夫。

だけど、なんか違和感がある」


 彼女は眼鏡をはずして続ける。


「土から伝わる、

こう、トシオの歩き方とかが……。

三年前のヤツなんだ」

「……記憶を封じている、んだよな?」


 不安そうな顔で火の神が呟いた。

記憶、と一括りにしても、多岐にわたる。

その人の経験したこと、経験から構成された人格、

学び蓄えた知識、反復することで身体に染み付いた鍛練。

これら以外にも、無意識に見聞きしているものや、

ケガの経験、病歴等々。

 『命の神』が封じているのは、

経験、知識、鍛練と、人格の四つ。

経験はこの世界の分と、

トシオの元の世界の分の両方を封印している。


「……経験、知識、鍛練が封印の隙間から漏れてる。

ミルポアで見せたあの脱獄劇。

あれは、多分そう」


 土の神はそう言って、

かりゆしのポケットからメガネ拭きを取り出して、

メガネの汚れをぬぐう。


「……何があった?」


 死の神だけじゃない。

他の五柱も、土の神を見つめる。

しかし、土の神は首を横に振った。


「分からない。

でも、トシオの封印の内側に響くくらいの、

何かがあった」


 封印の最奥にあるのが、人格。

サトウ トシオの、元の人格だ。

 

 これが表に出るようなことがあれば、

この世界は終わってしまう。


 突然、死の神が自分の胸を強く押さえて苦しむ。

他の五柱はそれに駆け寄るが、何もできない。

 死の神の権能『審判』は、

七柱の神々の『サトウ トシオの処遇の決定と処理』を今だに否定し続けている。

死の神は、これに今もなお蝕まれ続けて、

命の神から受け取った権能を処理しきれていない。

そのため、この三年間『創世の神』を参考にし、

休眠状態で権能の処理だけを行っていた。

常に針のむしろにいるような苦しみが、彼を襲っている。


「……大丈夫だ。

まだ、大丈夫……っ」


 死の神は、そう言ってふらつきながら立ち上がる。


「ビトメへ神託を。

その場にとどまり、加護は使わないように。

なんとしても彼女を助けなければ。

 彼女は、彼女こそが、

この世界のための『生け(エスケープ・ゴート)』……。

何の罪もない、そんな彼女にしか、

サトウ トシオを封じられない。

 そんな重責を私たちは彼女に科してしまったんだ!

私たちは何としてでも、彼女を助けなければ!」


 風の神がため息混じりに言う。


「でも、どうやって?

『天空のダンジョン』は、プニャードから遥か北。

『樹海』を越えて向こうにある。

物理的な距離がありすぎる。

 しかも、ビトメはダンジョンのほとんど最奥に閉じ込められてる。

ダンジョンを踏破して生きて戻ってくるには……。

サトウ トシオの力が必要」


 五柱の神々が互いに互いの顔を見て、

ため息をつく。

死の神が、口を開いた。


「サトウ トシオの封印は解けない。

解くわけにいかない」

「それはわかってる。

でも、他にいる?

加護もなしでダンジョンを二つも破壊して、

五体満足で生きてる人間」


 誰も反論できない。


「……『闇の神』を呼べ」


 死の神は忌々しげに、そう言った。

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