第92話 危険すぎる!
ビトメは何かに名を呼ばれ、
目を覚ました。
目の前にはさっきまでの綺麗な街並みの残骸。
瞬間パニックになりそうになった彼女を、声がなだめる。
「落ち着いてください。
『命の神の聖女』よ」
「……!
あな……たは……?」
「私は『水の神』。
時間がありません。
手短に、伝えます」
声は優しく、
揺れていたビトメの意識を落ち着かせていく。
「ダンジョンマスターの強襲です。
このままでは、
この街も貴女もトシオも危険です」
ビトメはやっと周りを落ち着いて見れるようになった。
ゼンフに抱えられ、逆の腕にはトシ・オーが見える。
周囲には異端審問官たちと、『白の教会』の戦士たち。
黒衣服の軍団も、彼らと共に剣を振るっている。
神の声が彼女の耳にはっきりと届く。
「ダンジョンの『扉』へ向かうのです。
扉の中は天空のダンジョンです。
そこで、私の加護を使いなさい」
「『水の神様』の加護を……?」
「はい。
私も力をお貸しします。
共にダンジョンコアを穿ち、
この戦いを止めましょう!」
虚ろな顔で何かを口ずさむトシ・オー。
その顔を見たビトメは、決意を固めた。
「御心のままに」
ビトメは顔を上げた。
それに気付いたゼンフ。
「おお!
ご無事ですか?!」
「あの!
私をダンジョンの扉に!」
「ダメです!
危険すぎる!」
ゼンフではなく、
トシ・オーがそう叫んだ。
「神託を賜りました!
ダンジョンの扉から中へ!」
ゼンフが目を見開く。
ビトメは『命の神の最後の聖女』。
彼女だけは、
七柱全ての神々の加護を賜っている。
彼女だけは、
六柱の神々の神託を受けとることができる。
ゼンフは、腹をくくる。
「お二人とも、ご自身の足で走ってください。
私が、ダンジョンまでの道を作ります」
ゼンフは二人を下ろして拳を軽く握る。
トシ・オーは、
すかさずビトメを止めようとする。
「ビトメさん、ダメです!
ダンジョンの中はここ以上に魔物がいる!」
「分かっています。
分かっていて、行きます。
『水の神様』のご意志なのです」
ビトメはトシ・オーを見つめて言う。
「行くのは私だけです。
私なら、『鋼の神様』の加護で身を護り、
ダンジョンの中で『水の神様』の加護を使うことができます。
そうすれば、
この街は助かります!
貴方も、助かります!」
ビトメはトシ・オーの肩に手をおいた。
「大丈夫。
絶対に貴方を帰して上げます」
ビトメはトシ・オーに笑い掛けた。
そして、『白の教会』の人を呼んでトシ・オーを保護して貰う。
トシ・オーは抵抗したが。
「大丈夫です!
待っててくださいね」
そう言い残して、
ゼンフの後を追ってビトメが走り出した。
「ビトメさん!」
トシ・オーの声が響く。
しかし、ゼンフもビトメも止まらない。
走る二人はスターリングが襲ってきたら屈み、
ニワトリと将軍の戦闘に巻き込まれても立ち止まらず。
他の鳥形の魔物はゼンフが殴り落としていく。
戦場のど真ん中なのに、
ビトメには音が遠くに聞こえる。
自分の心音が、
耳元に心臓があるんじゃないかと思うほどうるさい。
ゼンフは傷だらけになりながらも、ビトメを護り抜く。
ビトメは息も絶え絶えに走る。
そして、ダンジョンの扉の前に出た。
「私は『命の神様』への信仰を、
この命が尽きようとも!
決してやめません!
神様!
『鋼の神様』!
その御力をお借りいたします!
私の信仰を妨げる、
ありとあらゆるものを阻め!」
ビトメの周囲に砂鉄や金属が浮かび上がり、
音速で彼女の周囲を飛び交う。
さながら、サンドブラストのように振れたものを全て削っていく。
さすがのスターリングのクチバシも、
その早さと数で負けて削り殺される。
ゼンフはそれを見てビトメから飛び下がる。
「ビトメ様!
お頼み申す!」
「はい!」
ビトメがダンジョンの扉を潜って、
ダンジョンへ入っていった。。
「今だ!」
それを見たダンジョンマスター、
コウジが懐からデコイコアを取り出して握りつぶした。
その瞬間、ダンジョンの扉が閉じて消える。
「なっ!?」
「知らなかったろ?!
このダンジョンバトルの勝利条件は!
相手のデコイコアの破壊だ!
今俺のデコイコアを自分で破壊した!
俺の敗けさ!
あーあ! 負けた、敗けた!
負けたなぁ!
でも、勝利報酬は何も書いてないから、
何も失わねぇんだよ!
あははははは!」
ビトメをダンジョンの中に閉じ込めたまま、
ダンジョンバトルが終わってしまった。
コウジは傷だらけでも生き残っていたフェニックスを呼び寄せ、
その背に乗って飛び去った。
高笑いだけを残して。




