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ダンジョンマスターは、アットホームな職場です!  作者: 桃野産毛
第一章 未経験者歓迎!

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第10話 緊急事態だ

 昨日の闇の神と他のダンジョンマスターとの邂逅で、

俺の行き詰まっていたダンジョンの研究がかなり進んだ。

 そして、分かったのが、

闇の神とやらでも俺を元の世界に帰せない。

もしくは、俺を帰せない理由があるらしい、と言うこと。

 俺は徹夜したが、眠気が全く来ない。

そのまま、マリーがいると思われる商業ギルドに向かう。

 商業ギルドの中は基本人がいない。

商業ギルドの主な仕事は、

商人同士または商人と客との揉め事や重要な契約をする際に、

仲立ちをすること。

なので、商人たちは自分の店にいて、

ギルド職員もその店へ出向いて仕事をするので、

ギルドの建物には人が少ない。


「ジャバ、ライム、おはよう。

アポ無しで申し訳ないが、

緊急事態だ。

マリーさんを呼べるか?」


 マリーの護衛の二人が、

商業ギルドの受付の脇に座っていた。

マリーがここにいることは確定だ。

 ジャバはライムの肩を無言で叩く。

ライムはうなずいて、ギルド長室へ向かった。

俺は念のため、受付のギルド職員にも話しておく。


「おはようございます。

トシオです。

緊急事態なので、

至急ギルド長とお話ししたい」

「かしこまりました。

ライムさんが行かれたので、

ギルド長はすぐ来られるはずです」


 受付の男性はそういって笑う。

そこに、マリーが飛び込んできた。


「トシ・オー!

どうしたの?」

「『ダンジョンからの』モンスターの氾濫だ」


 俺の一言でマリーだけじゃなく、

ジャバもライムも受付の男性すら青くなる。


「どっ!

どういうこと!?」

「過去に消失したダンジョンの一つ。

曰く、突然現れて、

誰も入ってないのにしばらくすると勝手に消失したと、

資料にあったダンジョン。

『陽炎のダンジョン』は、

どうやら消失ではなくて『移動してる』」


 俺は寝ずに考えたシナリオを話す。


「昨日、冒険者ギルドが俺に、

サイクロプスの調査の指名依頼を出した」

「知ってる。

アニスと二人で抗議した。

冒険者ギルドの本部にもね」


 俺はうなずいて続ける。


「俺は樹海に罠を仕掛けて周囲を調べた結果、

ダンジョンの入り口とおぼしき穴からサイクロプスが出てきた。

 しかも、

ダンジョンの入り口はしばらくすると消えた。

その上、

ダンジョンから出てきた色んなモンスターのせいで、

樹海に元からいたモンスターの分布が変わってる。

ゴブリンとか弱いモンスターが、

樹海の浅いところに増えてる」


 俺は昔買った本を出して話を付け足す。


「樹海の状態を踏まえて過去の資料を調べた。

この本にあったダンジョン消失の事例は、二つ。

カーフェイが破壊した『白黒のダンジョン』と、

突然消えた『陽炎のダンジョン』。

 その結果、

『陽炎のダンジョン』は消失したんじゃない。

移動してる可能性が高いと結論が出た」

「う、嘘でしょ?」

「ダンジョンが移動している。

帰還石の瞬間移動魔法に似てる移動方法だと思われる。

だから、端から見ると消失したように思える」


 俺は少しためて言う。


「そして、その『陽炎のダンジョン』は、

今この町の近くまで来ていて。

しかも、モンスターを撒き散らしてる。

ダンジョンの外にモンスターが出るのは、

氾濫の前兆だ。

 以上を統合すると、

町のどこかに突然ぽっ、とダンジョンができるや否や、

そこからモンスターが溢れ出す可能性がある」


 聞いていたマリーたちは、

すっかり青ざめた顔だ。


「ぼ、冒険者ギルドには?」

「今から報告に行く。

でも、俺の話には物証がない。

そのせいでこの話を、

あのギルド長が聞かないかもしれない。

 だから、マリー。

冒険者ギルドについて来てほしい」

「わかった。

この後の予定は全部キャンセル。

 薬師ギルドへ先に行きましょう。

アニスにも話しとかないと」


 助かる。

俺を引き留めたいと思ってくれる程度に信用されていたことを、

利用させてもらおう。

 マリーは護衛の二人を連れて俺の後をついてくる。

薬師ギルドについたら、

ちょうどアニスが部屋から出てくるのが見えた。

マリーはすかさず声を上げた。


「アニス!

すぐ来て!

緊急事態!」

「なんですか?

朝からいきなり」


 アニスに同じ説明をする。

アニスと近くにいた他の薬師ギルド職員たちが青ざめた。

アニスが見たことがないくらいうろたえる。


「そっ!

それは、どれくらいの確度ですか?」

「俺個人の研究資料を集めてる分からだ。

物証がないけど、確度はすごく高い。

しかも、町に近いところに来る可能性が高い」


 アニスは周りの職員に短い指示を出して、

ついて来てくれることになった。

 俺たち五人はまっすぐ冒険者ギルドへ向かう。


「依頼したのはサイクロプスがいるか、の調査です。

そんなざれ言を報告されても、

依頼は完了になりませんよ」

「ふざけないで!

バスコ!

アンタ、この町を危険にさらす気なの!?

モンスターの氾濫よ!?

すぐに周囲の町から冒険者を呼んで!」


 とりつく島もないバスコに、

マリーが噛みつく。

俺はこうなることは予測していた。

だから、今俺たちが話しているのは、

冒険者ギルドの受付の前だ。


「薬草採取の依頼が滞ってるからですか?

二ギルドの長が、こんなところに……」

「そんなちんけな話じゃないでしょ!?

モンスターの氾濫は、

アンタ自信の命にも関わる話なのよ!?」

「本当なら、ね」


 そういって笑うバスコを見て、俺はため息をついた。

まぁ、目的は果たせたとしよう。

なんたって、

周りにいた冒険者たちが俺の話を聞いたからだ。

 仲の良い冒険者何人かは、

俺の話を聞いた途端に冒険者ギルドから飛び出ていった。

これでこの話は町中に拡がるはずだ。

 バスコもそれを見たのか、

演技がかった仕草でため息をつく。


「貴方たちはデマを流して、

町中をパニックにするつもりですか?」

「アンタ、

いい加減にしなさいよ!?」

「もう良いよ、マリー。

俺は今からまた樹海に行って調査する。

サイクロプスの調査だ。

バスコ、これで文句ないか?」


 俺がそう言うと、

バスコは楽しそうに笑う。


「えぇ、えぇ。

今度はちゃんとした報告を期待していますよ」


 腹が立つが、ここまでは俺の思惑通りだ。

俺は引き留めるマリーとアニスを置いて、

樹海へ向かった。

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