第9話 やってやろう!
一週間。
七日で、死ぬ。
俺の身体はまだ動かない。
今の俺が生かされてるのも、
闇の神とやらの気まぐれ。
神と人。
生き物としての格の違いだ。
人とアリくらいありそうだ。
闇の神は繰り返し言う。
「サインしなさい」
断固、Noだ。
サインしても、しなくても死ぬならば、
コイツの思いどおりになってたまるか。
アリも噛みつくことを教えてやる。
だけど、だけども、お前は殺す。
神だのなんだの、知ったことか。
死んでもお前を怨み続けて、必ず殺す。
「おま……っ!?
嘘でしょ!?」
突然、闇の神が慌てふためく。
途端、俺の身体が動き出し、
脱力していたので顔から地面に倒れた。
土と血の臭いが鼻の中に広がる。
「元の世界とまだリンクが繋がってる!?」
俺はその一言を聞き逃さず、
飛び起きて神から契約書を奪い、
右手の指先を噛み切ってサインを殴り書きした。
「あ! お前!
何を!」
「殺す!」
俺は慌てる神を向かって言い放つ。
「お前を殺す!
必ず殺す!
そっちの女も、一緒に殺す!」
怒りを憎しみを、
今までの苦労を渇望を。
全てを怨み、言い放つ。
「け、契約が!」
契約書が燃え上がり、チリになった。
俺の視界の右上角にタイマーのようなものが現れた。
百六十八時間、一週間のタイマーだ。
タイマーはスタートし、
秒の桁の数字がどんどん減っていく。
どうやら、契約が成立したようだ。
神の顔色が真っ青だ。
「お前は!
なんてこと!」
さっきまでの余裕が吹き飛んだ神の姿を見て、
俺は確信した。
俺には詳しくは分からないが、
今のは神に都合が悪かったらしい。
だから、俺は笑う。
更なる確認のために、神を嘲笑う。
「はははは!
お前の思いどおりになってたまるか!
糞ども!」
「な! なにコイツ!
何も知らない、
何も分からないくせに!」
俺に神の言葉を聞く耳はもうない。
俺は言いたいことを言い続ける。
「じゃぁ、俺を元の世界に帰せ!
帰せよ!」
「そ……、それは……」
神が言い淀み、あからさまに視線が泳ぐ。
この女が本当に神なら、
今までどんな時でも自分が圧倒的に優位だったんだろう。
こう言う駆け引きをしたことがないから、
隠しきれず神の顔に全部書いてある。
失敗した、と。
状況がよく分かっていないパーカーの女は、
神に話しかけた。
「どうしたの?」
「ごめんね!
ちょっと黙っててね、クミ!」
神は冷や汗を流しつつ、
パーカー女をなだめすかす。
どうやら、
神は今の俺に手出しできないらしい。
理由は分からないが、確定だ。
その証拠に、
俺は神に都合が悪いことをしでかした。
その上、神をバカにして、
大笑いしている俺が今も五体満足だからだ。
この神はどう見ても慈悲も何もない、
短慮なヤツだ。
コイツの意にそぐわないことをすれば、
俺なんてすぐさま殺されるに決まってる。
でも、今も俺は生きている。
俺は大声で笑う。
神は頭をかきむしり、唸る。
「あぁ、俺は研修もOJTも受けてない!
何にも知らない、わからない!
そうだとも!
俺のいた世界で、
俺みたいなヤツを何て言うか知ってるか?
『無敵の人』だ!」
俺は声高らかに笑う。
神は俺を睨みはすれど、何も危害は加えない。
さっきみたいに俺の身体の動きを止めることもしない。
きっと都合がさっきと変わったんだ。
何がどう変わったか分からないが、
付け入るならここだと直感的に分かる。
俺はパーカー女を指差して叫ぶ。
「『ダンジョンバトル』!
いいぞ!
やってやろう!
一週間後に、
お前のダンジョンコアを粉々にしてやるからな!
泣いて命乞いしろ!」
俺は捨て台詞を吐いて、
魔法鞄から虎の子の中でも一つしかない、
『帰還石』を取り出して握りつぶす。
帰還石は、
割ると登録された場所に一瞬で移動する、
瞬間移動の魔法が込められた石だ。
この石はもろい。
ちょっと力を込めれば割れる。
なので、魔法鞄がないと持ち運べない代物だ。
俺の目の前の二人と樹海の景色が霧のように消えて、
町の俺の家の玄関前が現れた。
「追ってこない……、か?」
俺は警戒をしつつ、家に入る。
急いで俺はダンジョンコアを触って調べる。
何も変わっていない。
変化があったとしたら、
俺の視界に表示され続けているタイマーだ。
「残り時間がいつでも分かるのか。
目をつぶると消えるな。
寝るとき邪魔にならないか」
俺は次に魔法鞄から、
色んな検査キットを出した。
以前もダンジョンコアを色んなキットで調べたが、
何も出ず、何も分からなかった。
だが、『ダンジョンバトル』とやらでコアの何かが変わったかもしれない。
俺は周囲の警戒は続けながら、
色々な検査を続けておこなう。
「魔力が計測できた。
前までゼロだったけど、
今は微弱に魔力を帯びている。
後、神聖力も検出された。
これまた微弱だが。
神とやらが関わったからか?」
思った通り、
ダンジョンコアに変化があった。
だが、やはりコアを埋めても何しても、
ダンジョンを作ることはできない。
「時間がない。
調べながらも、
戦い方を考えなければ」
ダンジョンバトル。
さっき聞いたばかりの情報だし、
分からないことしかないが。
分かっていることを整理する。
まず、二つ以上のダンジョンの入り口同士を繋げて、
モンスターや用心棒を送り込みダンジョンを攻略し合う。
そして、ダンジョンコアを見つけ出して破壊した方が勝ち。
ダンジョン内にモンスターや罠を配置したり、
道を複雑にして迷路にしたりして、
ダンジョンコアを守ることも有り。
「多分、バトルが始まってからもダンジョンの罠を増やしたり、
道を変えるとかその場で増改築できるんだろうな」
元の世界のアニメや漫画の知識を持ち出しつつ、
想像しうる物は最悪を想定する。
「俺はダンジョンがないから、
俺のそばに入り口に繋がるポータルが現れる。
どんな見た目だ?
俺以外も通れるのか?
用心棒とか言ってたぞ。
冒険者のことか?
なら、冒険者を雇うか?」
思い浮かぶのは、
カーフェイの顔だ。
「ダメだな。
信用の話の後だし、
用意も何もなしで雇えるとは思えない」
外はまだ暗い。
「とにかく、ダンジョンコアを調べ直しつつ、
作戦を考えよう。
時間がない。
『元の世界とのリンク』ってのも、
気になる。
考えることが多すぎる!
本当に糞だ!」
俺は徹夜をすることに決めた。




