第86話 あっちで待ってても良かったのでは?
王城内は予想外に観光客で賑わっている。
『聖女の右』はビトメたちに説明をしながら、
城の奥へと案内してくれる。
「一階は大半が観光地として公開されています。
玉座と謁見の間は二階にあり、
三階は王族の執務室などがあります。
一般公開は一階と中庭だけですが、
観光客で毎日賑わっています。
首都に来たら必ず、
と言うほど国内外の観光客が殺到してますよ
ちなみに、王族の方々はもう城の中には住んでおられなくて。
離れたところにある離宮に住まれています。
中二階の禁書庫も、
過去トシ・オー様が荒らされてからは、
空っぽのままだそうです」
「と、トシオさん、
そんなことしたんですか?」
ビトメは驚き、呟いた。
それに応えるように、
彼女の脇にいた人物が話し出す。
「そんなこともあったなぁ……。
三年前か……。
昨日のことのように思い出せるぞ」
城に入ってからずっとついてくるスーツ姿の男。
初老と言う風体ではあるが、足腰はしゃんとしており。
立ち居振舞いは優美。
どう見てもやんごとなき人だ。
『聖女の右』の一人がため息混じりに問いかける。
「前王、お暇なんですか?」
彼こそ前王、
ジョージ・オスマンサス二世。
「暇なものか。
毎日観光客にナビゲーターとして、
城の歴史やいわれを教えつつ案内している。
明日も予約でいっぱいだぞ?
王だったときより忙しい!」
そういう割に、彼は嬉しそうな顔をしている。
王の重責から解放された彼は生き生きとしている。
「いやぁ……。
しかし、記憶と言うのは大切なのだな……。
あの傑物、怪物が、すっかり骨抜きだ」
少し寂しそうにジョージ前王は、
トシ・オーを見つめた。
トシ・オーは困惑しているものの、
その目を見つめ返す。
「神とやり合うと言うのは、
それだけ苛烈なのだな。
いや、むしろ、
コイツの敵になりうるのは神とかくらいじゃないと、
とも言えるがな」
トシ・オーを見つめるその目は、
彼を見ているようで遠くを見ていた。
三年前に自室の鏡から出てきた、あの男を見ていた。
「あの酒より旨い酒は知らん。
どんなに金のかかった酒より、
珍しい酒より旨かった。
苦味もくどさもかなり強かったがな」
ジョージ前王はそう言って苦笑いした。
「ささ、上へ行こう。
今の王が待っている。
他の王族も紹介したいしな。
何せ王家は人数が多い!
急がなければ紹介だけで昼が過ぎるぞ」
そう言って、
ジョージ前王は皆をつれて二階の階段を封鎖していた
鉄格子の鍵を開けた。
観光客たちがそれを見て感嘆の声をあげる。
「さぁ!
よく参られた、『英雄』よ!
現王がお待ちだ!」
少し演技がかった動作で、
ジョージ前王はトシ・オーたちを二階へ招き入れた。
二階には兵士や執事たちがおり、
皆忙しそうに右往左往している。
前王がいると言うのに、会釈すらなく駆け回っている。
「普段はもっと人が少ないんだが、
何せ王族全員集合なんでな。
警備も使用人も全員増やしてる」
「一階の観光客に出ていってもらえば?」
そうゼンフが提案する。
「せっかく予約までして来てくれたのだから、
入れてやらんと暴動が起きるぞ」
ジョージ前王はそう言って苦笑いした。
少しあるくと大きな扉の前に出た。
「ここが謁見の間だ。
こっちからこれを見るの、
あんまりないから少し違和感があるな」
「前王なら、
あっちで待ってても良かったのでは?」
トシ・オーがツッコミを入れる。
ジョージ前王は笑って誤魔化した。
彼も、早くトシ・オーに会いたかったのだ。
敵である。
国の天敵である一個人。
捕らえたら逃げられ、
城に忍び込まれ、根こそぎ盗まれ。
そして、相対するとあの笑顔。
悪魔はな、いつでも陽気に笑ってんだよ。
ジョージ前王からすると憎くもあるが、
確実に大恩人だ。
しかも、あのやり取りに心地よさすら感じていた彼は、
一方的だと自覚しつつも友だと思っていた。
そんな友が、生きていた。
死んだと思っていたが、生きていたのだ。
記憶がないと知っていても、
ジョージ前王は早く会いたいと思ってしまった。
トシ・オーの顔を見た瞬間の、喪失感は凄かった。
王の経験から、顔にはでなかったが。
死となんら変わらない、とすら思ってしまうほど。
そして、ジョージ前王は謁見の間の扉の脇にいた兵士に指示する。
「入れてくれ」
兵士は敬礼をして、扉を開いた。




