第83話 謝罪については受け入れます
ゆっくり三人に向き直る『光の神』。
神だと聞いた途端、床にひれ伏したゼンフ。
異端審問官であり、
以前まで『いない神』とされて何度も対峙した相手の。
しかも、いないとされていた『神』本人が目の前にいるのだから、
当然のことだとも言える。
この部屋が非常に広く、
『光の神』に繋がった機器とベッドしかないので、
彼はべったり床につくことができた。
それでもあり余る床を、
トシ・オーはビトメを連れて歩き、
部屋の奥の小さなソファーにビトメを座らせた。
ゼンフは床に引っ付いたまま声を張り上げる。
「誠に!
申し訳ございません!」
「異端審問官さん、頭を上げてください。
いつぞやは、剣を交えたりもしましたが、
誤解が解けて私は喜んでるんですよ。
あぁ、右肩は大丈夫ですか?
貴方はたしか、一度私が斬りましたよね?」
ゼンフは床にめり込みそうなくらい頭を床に力強く押し付けて言う。
「あれは、『癒し手』に治してもらいました!」
「あはは!
やっぱり、貴方でしたね。
異端審問官の中でも有名な、
『不退転のゼンフさん」
『光の神』は、からから笑う。
そもそも彼女自身も『聖女の右』として、
ゼンフら異端審問官とバチバチにやりあっていた。
顔見知りどころか、宿敵だった。
それが、実は『光の神』本人でしたと、なったらば。
ゼンフは冷や汗をダラダラ音がしそうなくらい流す。
「悪神『闇の神』の影響下にいたとは言えど、
私たちは貴女方を、
『白の教会』を敵として捕らえ!
時には信者の私刑を、
見て見ぬふりをしたこともあります!
今までの数々の不敬を償えるなら、
この首をいくらでも好きにしてくだされ!」
「貴殿方がそれだけ敬虔な『創世の神』の信者だった、
と言う話です。
うちの子たちの個々人の感情はありますけど、
私自身は貴殿方を恨んだことはないですよ。
だから、その首はぜひ、
トシ・オー様を護るのに使ってください」
『光の神』はトシ・オーの方を向いた。
「トシ・オー様。
いえ、トシオ様。
本当に、本当に、ごめんなさい。
私を、皆を助けてくれて、
戦ってくれて、護ってくれて。
ありがとうございます」
『光の神』は頭を下げた。
トシ・オーは気まずそうに言う。
「あの、私には何が何だか分からないのですが」
「聞きました。
記憶を封じられてると。
私にはもう力がほとんどない、
残滓のような状態です。
三年前の戦いで負った重傷もあり、
もう長くはいられません」
『光の神』は自分の腕や鼻に繋がったチューブを触って続ける。
「うちの子たちは、
医療を必死に発展させてくれて。
なんとか、私を貴方に会わせようとしてくれました。
やっと、それが叶いました」
『光の神』はもう一度頭を下げる。
「貴方を帰すことができず、
本当にごめんなさい」
深い謝罪だった。
良く分からないトシ・オーは、
とにかく望みを言う。
「謝罪については受け入れます。
できれば、早くビトメさんを休ませたいのですが」
「彼女は……。
彼女を少しこちらに連れてきてもらえますか?」
トシ・オーは一瞬ためらったが、
ビトメを『光の神』のベッドのそばに連れていく。
『光の神』は、優しくビトメに声をかけた。
「初めまして、ビトメさん。
少し、お顔に触れますね」
そう言って、『光の神』はビトメのほほに手を当てた。
「闇に囚われてはいけません。
闇はあって当然ですが、
貴女にはそれを上回る光も持っています。
その貴女の中の光に、目を向けてください……」
『光の神』の右手がほんのり輝く。
すると、ビトメの瞳に力が戻り、
まばたきを何度もして、周りを見回す。
「……ここ……は?
どこ?」
「お目覚めですか?
では、改めて、挨拶を。
初めまして、
『光の神』だったものです」
ビトメは目を見開いて口をパクパクしている。
「ふふっ。
もう大丈夫そうですね。
トシオ様、
我々『白の教会』は貴方の味方です。
例え世界を敵に回しても、貴方に着いていきます」
「はい!」
「もちろんです!」
『光の神』の言葉に、
『聖女の右』たちが同意する。
「『雷光の聖女』も、
じきに戻ってきますので。
お休みの前に顔だけ見せて上げてください」
『光の神』はそう言って、
ナイトキャップを被り直し、ベッドに横たわる。
「私は少し眠ります。
ふふふっ。
もう少し、もう少し。
もう少しだけ、生きなければ。
また、怒られてしまう」
そう呟いて、『光の神』は目蓋を閉じた。
笑顔で嬉しそうに、目蓋を閉じた。
三人は『聖女の右』たちに連れられて、部屋を出る。
「主は、もう限界なんて越えておられます」
「いつお亡くなりになってもおかしくありません」
『聖女の右』たちはうつむき加減でそう言う。
ビトメは周りを見渡しながら、質問した。
「あの、ほかの神様は?」
「一度もここへはご光臨されておりません」
ビトメは思わずうつむく。
やはり、神ではなくなった『もどき』の状態の彼女は、
七柱の神々にとっては仲間ではないらしい。
「お部屋の前に、お食事を。
地下に食堂がありますので、
昇降機で降りましょう」
ここの昇降機の箱が広いといえども、
エレベーターガールを含めて、九人が箱に乗り込む。
巨漢のゼンフもいるのでぎゅっと積めて乗り込み、
一行は地下へ降りていった。




