第3話 歪な物語の始まり
湿った土と草の匂い。
微かに揺れる草木の音。
時折吹いてくる涼やかな風。
───ここはどこだ。
薄らと目を開ける。
視界に映ったのは、病院の天井じゃない。
棺桶の蓋でもない。
コバルトブルーに染まった天。
ゆっくりと上体を起こす。
周りを見渡すと、小さい原っぱの中にいた。
マップで、ここはどこか確認。
スマホを手に取ろうとしたが……ない。
「は?ふざけんなって……」
背中に重みを感じない。
背負っていた筈のリュックもない。
どこかで落とした?
訳が分からなくなって、手と腕を見る。
透き通るように白い。
芸術品の様に細い。
これ、俺の身体じゃない。
服装は焦茶のベストに、麻の長袖とツギハギの長ズボン。
靴は古びた革製。
完全に、村にいるいい年した青年のテンプレ服装。
年齢からして、同い年ほどの16歳辺りか。
一応小物類として、大型の拳銃を1丁装備。
待って。まさかとは思うけど。
輪廻転生した?
しかも異世界転生ってやつ?
嘘だ!って言いたいけど、
身体が違うのが証拠なんだよなぁ。
「……ぁ」
一瞬、無意識に喉から声が漏れでた。
前世の完成された声とは違う、まだ成長途中の声。
喉仏の部分に手を当ててみる。
「あー、あー……」
少し高い声だな。
大きく息を吐き、伸びをして体をほぐす。
その後、俺は周りを探索する事にした。
右手には1つの屋敷と集落、左手には鬱蒼と茂る森林。
森の方は、立ち入っては行けない雰囲気が。
迂闊に近づかない方がいいかも。
とりあえず、村の中を見てみよう。
「立地はまあまあってとこか……」
険しい山脈が円のように連なる中、
その内部にポツンと位置する。
水資源もありそうだし、土の成分も悪くない。
自給自足はできる場所。
村を二分する道をゆっくりと歩く。
のんびりとした空気が漂う。
村の家々は質素ながらも、
木材でしっかりと建築されている。
見た目よりも、機能性重視ってやつか。
皆がリラックスして生活しているのが分かる。
前世の日本とは大違いだ。
やれ効率化だの、やれタイパ&コスパだの……
みんな焦りすぎ。死ぬわけじゃないのに。
『あ、いたよ!』
好きな民謡を口ずさみながら進む。
すると、後方から誰かの声が聞こえてきた。
『シオンお兄ちゃん、こっち来て!』
元気のある、のびのびとした声。
「誰だ…?」
明らかにこちらに向かって、声をかけている。
後ろを向くと、一人の少女が手を大きく振っていた。
偶然だな。
俺の書いてた主人公も、シオンだった。
おそらく、この身体の持ち主の名前だろう。
はて、どうも違和感が拭えない。
俺はその名前と非常に関わっていた。
なかなか思い出せん。
まあいいか…何かが引き金にはなるさ。
自分を無理矢理納得させて、俺は少女の方へ向かう。
「どうしたん、いきなり呼んで」
決して不信感を抱かせるないよう、
極力フレンドリーな態度で話しかけた。
『お兄ちゃん、これ!』
少女は手のひらをこっちに差し出してくる。
その上にはキラッと光る小さな物。
「あ、ありがとう……」
指で持ち上げてみる。少し重い。
地面に埋まっていたのだろう。
湿った土の匂いがする。
冷えている。
息を吹いて払う。
それは、砲弾を極限まで小型化した形。
大部分を黄土色の金属筒が占め、
先端は止まれの標識を、半分にした真鍮色の物体。
「これ…弾丸じゃないか」
刑事ドラマや、FPSゲームなどで見るもの。
太陽の光を反射して、金色に光っている。
まず、日常生活では絶対に見ない。
沖縄本島や硫黄島、紛争地域にでも行かない限りね。
「こ…これ、どこで見つけたの?」
物騒な物を見たので、声が震えている。
『これ?これはね、そこに置いてあったの!』
俺の質問に、少女は無邪気に答える。
指し示す方に視線を遣る。
そこは、一軒の家屋の裏手。
日が当たらず、ジメジメとしている。
大きな棚に纏められた、幾本もの薪の間だった。
なんでそんな物があるんだ。
「とりあえず、俺が預かってていい?」
少女に聞いてみる。
『いいよ!それ、お兄ちゃんにあげる!』
幸運なことに、少女が駄々を捏ねる事はなかった。
その場を離れて、再び弾丸を見てみる。
ずっと握っていたので、かなり暖かい。
掌は、握っていた部分が赤くなっている。
弾の平たい底を見てみる。
綺麗な六芒星が描かれている。
薬莢の部分には、「2007 8 31」と数字が。
俺はその字体をよくよく眺める。
俺の癖とよく似ている。
筆記体で、少し斜めっている。
そういえば俺の書いてた主人公も、
こんな文字の癖だったっけ。
偶然がすぎないか?
妙に引っかかるシオンって名前。
そして、この数字の刻印。
まさか。
着用しているベストを脱ぐ。
この記憶が正しいなら。
ベストの内の、胸ポケットの部分。
そこには、刀剣と槌が交差する
黄色い1つのエンブレムが。
頭の中で、1つの確信がつく。
───ここ、俺の書いた世界じゃね?
そうと決まれば、ここから50秒後に
屋敷の方から風が吹いてくるはず。
そして天の太陽に少しの間、雲がかかるんだ。
どこに出ようか。あれは強めの風だ。
どれくらいかって?
桜吹雪が起きるくらいさ。
道に戻って、屋敷の方へ足を進める。
ゆっくりと歩いていく。
やがて、道の中間に差し掛かった頃。
急に風が吹いてくる。
ここからだ。天を見上げる。
これから10秒後に、天に雲がかかる。
周りは落ち着いた雰囲気だ。
だけど、俺だけ心臓がバクバク鳴っている。
5秒。屋敷の方から雲がくる。
4秒。俺の真上に差し掛かる。
3秒。太陽までほんの少し。
2秒。白い光のリングに触れかかる。
1秒。円の中に入り込もうとする。
……0。
きたぞ。遂に太陽が遮られた。
俺の考えは正しかった。
雲が通り過ぎる。
太陽が再び照りつけてくる。
さて、1つの課題は解決した。
しかしながら、依然として問題は五万といる。
ここからの展開を、どう攻略していこうか。




