第4話 イベント特盛一丁!
道沿いには、牛や小さいドラゴンを飼ってる家畜場。
面積が広めの、様々な作物が栽培されてる畑。
他にも鍛冶屋から宿まで色々とある。
井戸端会議をしている主婦から、
守護ゴーレムと遊ぶ子供達。
天然の要塞である山脈に囲まれた場所。
外界とは隔離されている。
けれども住人は自給自足しながら、細々と生活を営む。
長閑でいい所じゃないか。
こんな安息の地を求めて居たのかも。
「こういう場所がやっぱ1番だよなぁ……」
俺も空気に溶け込んで、村を探索する。
その時だ。
「うっ……うわぁぁぁっ!!」
後手。森の方から誰かの悲鳴が聞こえてきた。
「……なんだ?」
化け物でも出たのだろうか。
早速、何人かの大人が現場に走って行く。
子供達は自ら散り散りになって、
或いは母や兄・姉に引っ張られて家へと駆け込む。
「いや…時間だ……」
イベントが始まった。
正直さっさと終わらせたい。
しかし、大きな代償がある。
本来は無かったはずの行動を取るとどうなる?
俺はパーになっちまうよ。
イコール、この世から消滅しちまう。
そんなのは御免だね。
考えを反転させて、撤退モードに切り替える。
俺はすぐさま背を向ける。
反対方向───屋敷の方へと走り出した。
しかし、10秒と経たずに足取りは停止する。
まずいことになった。
どこへ逃げればいいか分からん。
いくら作者とはいえ、主人公の家までは把握してない。
あん時に書いとくべきだった。
あちこち走り回って探すも、中々見つからず。
「ええい……なぜ見つからん…!」
イライラして、もどかしく感じる。
一軒の家の裏手に回る。
すると、扉が開きっぱなしの小屋を発見。
「お、ラッキー…邪魔するぜいっ」
俺は態度を一変させ、そこに飛び込む。
誰が居ようと関係ない。
荒い息遣いが聞こえるけど、今は無視無視。
扉を閉めて、気配を殺す。
冷えた薄い板越しに、外の様子を伺う。
飛び交う怒声。誰かの走る足音。
金属が交じり合う甲高い音。
矢が放たれる鋭い音。
錆びた鉄のような臭いも漂っている。
討伐してみたい。殺ってみたいけどさ。
チートも使えない今じゃ、俺は非力な存在だ。
視界が効かない暗がりの中、
懐にしまった拳銃のグリップを強く握る。
その時だ。
「……行かないで」
急に耳元で誰かに囁かれる。
俺はビクッとしたが、平常心を保つよう強く念じる。
それは、あどけなさを残した少女の声。
呼吸の度に、熱を持った息が耳に吹きかかる。
チラリと横目で見てみる。
薄暗がりの中に、銀色の長髪が僅かに見える。
その存在が動く度に、
髪の先が頬をくすぐっていく。
「……逆にどう行けってのさ」
俺は声を抑え、不満を込めて返答する。
ほおっと、熱い溜息が耳にかかった。
察してくれたか。
静かに話す存在は、俺の腕を小さな手で握ってくる。
氷のように冷えた手。
(冷たすぎだろ……どんだけ寒い所にいたんだ)
「……お兄さん」
少女がか細い声で話しかける。
「…なに」
少しぶっきらぼうに答える。
「お兄さんは………私を救ってくれますか?」
「……へ?それってどういう…」
精神的に参ったから、引っ張って欲しいのか。
それとも、物理的に助けて欲しいのか。
「悪いけど、心が重いから助けてってのはNOよ。
それは心療内科に……って、この世界にはないかww」
俺は笑って軽く流す。
しかし、その発言が地雷となっていること。
自分自身から大変危険な目に遭っている事に、
気づくのは直ぐの事だった。
突然、掴んでいた腕に力が入る。
「!?いでででっ…」
万力で締め付けられているみたいだ。
「何すんだよッ………ひぃっ!?」
体を捻って掴み掛かろうと試みる。
けれど、そこに浮かぶ表情が視界に入った途端。
俺は完全に怯え切ってしまった。
鋭い刃のような視線、
瞳孔が開かれた目と感情がない真顔。
「なんで?ねぇなんで?なんで助けてくれないの?
私のことが嫌いなの?こんな尽くしてるのに?」
猫が獰猛な虎になったように、態度が豹変。
勢いよく揺さぶられて、
視界がグワングワンと左右に行く。
「ちょちょ、待て待て…!」
好きも嫌いもあるかと言いたい。
だけど、今はそれどころじゃなかった。
揉み合いへ発展した挙句、
突き飛ばされて体を扉にぶつける。
薄い木板の扉を破って、俺は外に転がり出た。
しかも運悪く、騒動の元凶と鉢合わせに。
目の前には、俺を見つめている巨人?がいる。
全身が焦茶色の毛で包まれ、ふんどし一丁で
2m以上あろう石の大剣を、片手で担ぐ化け物が。
「もうだるいて……」
即座に立ち上がって、距離を取る。
懐から拳銃を取り出し、スライドして弾を装填。
リボルバーでは無く自動拳銃なのが救いだ。
腕をまっすぐ伸ばし、サイト越しに狙いを定める。
グリップをしっかり握り締め、反動に備える。
狙うは眉間。
すると、化け物に変化が現れた。
俺の攻撃の意思を読み取ったのだろう。
咆哮を上げて、猪のように勢いよく突進してくる。
大剣を小枝のようにブンブン振り回しており、
それに当たった物は即座にバラバラだ。
あれでは『斬る』より、『殴るor叩く』の方が正しいだろう。
来るぞ。あと少し。
まだだ、まだ撃つな。
冷たい引き金に、人差し指を掛ける。
「だんちゃーく……今ッ!!」
化け物が最終ライン上に到達した瞬間、
俺は躊躇なく引き金を引いた。
心臓に響く重低音と共に、
銃口から赤の発射炎が飛び出す。
同時に発射炎を突き破り、超音速で弾が射出される。
ブレもせず歪みもせず、
金色の軌跡を描きながら弾丸は一直線に飛翔する。
発射から1秒も経たずに、
弾は正確に化け物の眉間に、小さくとも綺麗な円を開けた。
途端に、オーガが足を止めた。
走れなくなった、と言うのが正しいか。
丸太のような腕が垂れ下がり、剣が掌から滑り落ちる。
そのまま土埃を上げて、地面に落下した。
風穴と口、目、鼻からは赤色の血が流れ出す。
化け物は膝から崩れ落ち、地響きを立てて倒れ伏した。
指一本をみても、ピクリとも動かない。
長閑な村に騒動を起こし、ひとしきり暴れ回った化け物。
その代償は創作主によって討たれるという、
皮肉な結末を迎えるのであった。




