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第2話 電気街と死の舞踏会

電車に揺られながら、車窓から街の景色を眺める。


鉄路の上を疾走する列車の中からは、

東京の高層ビルが勢いよく流れる。


ガラス張りの壁面は、日光を反射してギラついている。

俺は、例の呟きについて思案していた。


あれは無敵の人だ。


知人にも、そんなやつがいる。

本人曰く、虐待を受けまくったからだと。


こいつはこいつなりに改心して、一応社会復帰はしている。


ぼんやりと外の景色を見やる。


その時、機械音声の車内放送が耳に入る。

一気に現実へと引き戻された。


『まもなく、終点 秋葉原です。お降りの際は足元にご注意ください。

山手線・京浜東北線・つくばエクスプレスはお乗り換えです』


淡々とした機械調のアナウンスの後に、

車掌さんによる補足?のアナウンスが入る。


『……本日は秋葉原駅周辺でイベントが開催されているため、

通常と運行形態が異なります。駅構内は大変混雑が予想されます』


車内放送を聴きながら、俺はぼんやりと考える。


(イベントって……あの大規模フェスタの事か?)

スマホを取り出し、SNSアプリを開く。


ブックマークした公式アカウントのツイートから、

リンクをタップ。


画面が切り変わり、特設サイトが映し出された。


交通アクセスの部分を見る。


『専用列車の運行を予定』と書いてある。


今乗っている一本を指しているのか。


電車は駅のホームへ滑らかに入り、

停止位置目標でピッタリ止まる。


秋葉原駅の電気街口を抜ける。


視界には圧巻の光景が広がっていた。


駅前は巨大そのもの。


真っ直ぐ伸びる中央通りに沿い、コンクリ壁のビルが立ち並んでいる。


俺がいくところは、万世橋交差点。

アキバのスクランブル交差点とも言える場所だ。


実際のスクランブルと仕組みは違うけどね。


メインストリートを歩いて、あちこちに視線を向ける。


「やっぱり、こうでなくっちゃな!(語彙力低下)」


井戸の中にいた蛙が、遂に大海原を見る。

その通り、俺は完全に興奮状態だ。


画面越しにしか見なかった、憧れの場所。

秋葉原電気街は、俺にとってのネバーランドだ。


その地を今、自分の足で探検している。

これ程までに嬉しい事はない。


今日は人生で数回しかない、最高の日になる。


万世橋交差点に到着。

見れば、既にイベントが始まっている。


厳重な荷物検査をなんなり通過。

人で溢れる道中を歩いていく。


ホコ天にはいくつものブースが設けられ、多種多様な企業が出展していた。


中古専門店から、VR機器を扱う企業ブース。

レアなゲーム機まで備えているところも。


交差点には特設ステージが設けられ、有名Vtuberのライブが行われていた。


すると、俺のよく知る企業のブースが視界に映った。

「お、いいやつあるじゃん……」


中に入って見物。

どうやら、自社の出版作品を紹介しているらしい。


数々の作品が展示されている。


ふと目をやると、親の顔より見慣れたタイトルが。


二段目、右から数えて7番目に俺の作品があった。


声を出したいのを抑えて、黙って観覧する。

知ってる作者のデビュー作から、有名な作品まで様々だ。


その時、ふと思いつく。

あの犯罪者予備軍アカウントはどうしてんだろ。


スマホを取り出して、リアタイ欄をスクロール。

すると、例のアカウントのツイートが流れてきた。


『秋葉原きた。人いっぱい居る』


(……ん?)


別れを告げるようなそのツイートに、一瞬違和感を覚える。

俺は道の脇に寄ってページを更新していく。


『やってる最中に死ぬのが、一番面倒なパターン?』


『最後の準備が完了』


『皆さん、今までありがとうございました』



……秋葉原、人がいっぱい。


非常に嫌な予感がする。頭が警鐘を鳴らしている。


ここから早く離れないと、酷い目に遭う。


震える指で、もう一度更新。


───そこには、悪魔の残虐な宣告が記されていた。


『時間です、さよなら』


逃げようとした時には、もう遅い。

奥の方から、集団の悲鳴が聞こえてきた。


何事かと思って振り向く。


鈍く光る蒼の壁が迫ってきていた。


「は!?何だよいきなりっ……」


鋭く吐き捨てて、間一髪で避ける。

蒼の壁……バンは1つのビルに勢いよく突っ込んだ。


一体全体、何だってんだ。

周りは天災が起きたかのようにパニくっている。


すると、バンの方から1発、大きい乾いた音が響いた。


今度は何だ。誰か爆竹でも使ったか。


ノイズと共に低い男の声が響き渡る。


『聞けぇ、お前ら!!』


一息ついて、さらに声高々に叫ぶ。


『俺直々に、死の舞踏会へと誘ってやろう。

さあ踊り狂え!!穢れた血を捧げるがいい!』


言い終わるなり、男は群衆に視線を遣る。


そのまま躊躇なく引き金を引いた。

乾いた破裂音が響き渡る。


群衆の中に綺麗な真紅の華が咲く。


数秒の静寂。


人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


現場は大混乱。


先程の楽しいフェスタとは一変。


紅一色だけの、阿鼻叫喚の地獄と化した。


遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。


男は銃を乱射した後、弾切れを迎える。


少しの沈黙。


一瞬ほくそ笑んで、ナイフを持ち出した。


結構な速さで、逃げ惑う人を刺していく。

「やばいやばい……」


俺も走って逃げる。


すると何かに躓いて転んでしまう。


足元を見ると、倒れ伏した誰かの片足。


背後からは足跡が聞こえてくる。

這おうとする。


が、鞄が絡まって身動きが取れない。


「何で俺なんだよ……他を当たれやッ!!」

パニックになって、訳もわからず罵倒する。


しかし、運命は残酷だった。


仰向けになった途端、腹部に強い圧迫感を感じた。

顔を上げて確認する。


その瞬間だ。

腹の違和感が、焼かれるような激痛に変わった。


炎で熱したばかりの鉄棒で、

貫かれているような鋭い痛みの感覚。


キャパ越えの痛みに悶え、声にならない声を絞り出す。


腹に手をやって触ってみる。


生温いねっとりした物が手に付着する。

痛みを和らげる為に抜こうと、ナイフの持ち手を掴もうと試む。


ねっとりとした物が手に付着。

上手く掴めずに、更に焦ってしまう。


腕が当たって、更に深く突き刺さる。


肉を掻き分けて、臓腑まで届いてる。


腑が煮え繰り返るような激痛を味わう。

「やばっ……これ、死ぬ…か、も……」


意識と視界が、徐々にフェードアウトする。

人々の悲鳴と怒声、発砲音が遠い場所から聞こえてくる。


「俺は……先、に行く、よ……」

無意識のうちに、何かを呟いた気がする。


その思考を最期に、俺の意識はこの世から消え去った。

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