一難去ってまた一難
《前回までのあらすじ》
人間の少女、アリスの家で傷を癒すエミールは、彼女の家で暇つぶしに魔力に関して調べていた。しかし、彼の存在を快く思わない村人たちは、エミールの抹殺をたくらんでいたのだった! そのことを偶然耳にしたアリスによって、エミールは村から離れることとなる……
「やっぱり……!」
「ん?……何が見える?」
彼女が睨む方向を見ると、村の中心の方から赤い炎がいくつもこちらの方へ向かってくるのが見えた……その村人たちの松明と反対の手には、鈍く光る鍬やスコップといったエモノを持っているのが見えるし、俺を……いや、俺たちを殺しに来たことが窺える……。
「うわあ、おっかねえぜ……なんだって、俺一人でこんなことに……」
「この村はね、農業が第一だから《《変わったこと》》が嫌いなの。何か変わったことが一つ起きただけで、それが作物の栽培に影響するかもしれないって思っちゃうから」
なんて神経質な村だよ……変化を嫌うって、この世に存在している上ではちゃんちゃらおかしいことだぜ……。
村人は殺気をそのまま写したように赤い松明と、固く握りしめたエモノを持ってアリスの家へと入っていく……。
「その前例って何かあるのか? 流石に納得が出来ねえぜ……」
「……実はね、前も行き倒れになった旅人がこの村の近くに倒れてたんだけど、その人を助けた翌日から三日ぐらい大雨が続いて大変なことになっちゃったの……」
「旅人はどうなったんだ……?」
「……殺されちゃったわ。悪鬼と化した村の人たちにね……」
……神経質ってところを三段階ぐらい跳んで、殺伐とした村だったぜ……! こんな村がほかにあるなんて思いたくねえほどにな……。
「おい、アリスがいねえべ!」
「むう……さては、あの小僧と一緒に逃げたんだべか?だとしたら、まだ遠くには逃げてねえべ! 探すど!」
ッチ、追手が来る……のんびりはしていられないぜ! 捕まったら間違いなく殺されて、今度こそ俺は地獄行きだ……! アリス、何かいい手はないのか!?
「……こっちに来て。みんなには見つけられない森の奥まで逃げるよ!」
おお、ただの向こう見ずではないな! 土地勘のある彼女が一緒に逃げてきてくれたのは正解だぜ……!
俺たちは月明かりを頼りに、森の奥へ奥へと草木をかき分けながら進んでいく……
「ここだべ! この草木の間から奴らは逃げたんだべ!」
なに!? もう見つかったのか……! そういえば、向こうも土地勘があることを失念していた! このままだと、先を進む俺たちよりも、俺たちが掻き分けた道を辿ってきている村人たちの方が明らかに速い……!
バシュン! バシュン!
魔弾で追手を振り払えないものかと数発放つものの、焦って上手く狙えねえ……! しかも、手加減しているわけでもねえのに、村人は吹っ飛ぶばかりか物ともせずに突っ込んでくる……!
「後ろは見ないで! とにかく掻き分けないと……!」
そうは言うが……ん? 今気づいたが、近くに水が流れる音がする……ただの川なんてものじゃなくて、これは急流……?
「川……? あるけど……でも、あの場所はみんな知ってるし……なにより、見晴らしが効いちゃうよ!」
「あるんだな? 俺に考えがある。とりあえずそこへ向かってくれ!」
このままじゃ、どの道追いつかれる。それに、いつまで俺が足止めできるかもわからんからな……!
俺たちは道を横に進んで公道っぽいところに出た。その先には谷があり、底からはけたたましいほどの水音が聞こえる……! 思ったとおりだぜ!
「あの吊り橋を越えるんだ! そうすれば俺たちは逃げられる!」
「……わ、わかったよ! あなたの策に賭けてみる!」
俺たちは吊り橋に足をかけ、反対側へと走る。
けど、そううまくことは運ばねえ。俺の背後には別に動いていたの村人が迫ってきている……!
「逃がさねえべ! 皆、撃ちまくるど!」
!! あっぶねえ、後ろから矢が飛んできて、ヒュンって右耳を掠めてったぜ! それから無数の矢が巣をつついたときのハチの如く、大挙して迫ってくる……!
ッチ、ダメだ、飛んでくる矢に阻まれて魔弾が射手まで届かねえ! まさか、魔力を収束させた指鉄砲ですら、矢を弾けねえ体たらくとはな……こうなったらシールドで!
ブイン……! 紫色の六角形を模した魔力のシールドが目の前に現れた……コイツで弾けるはずだ……!
「がぁ……ッ!!」
痛ってえ! 矢が肩にビシュッ……っておい! シールドが……全然範囲が足らねえじゃねえか! テロの時よりも圧倒的に狭くて小さい……これじゃあ、アリスを護るどころか、俺自身も守りきれねえ……!
畜生! 今は逃げるしかないか……けど、向こう岸はまだ先……苦肉の策だが、これをやるしかねえ!
「アリス、すまん、ちょっと吹っ飛とばすぞ!」
「えっ……!?」
アリスの背中に手を当て、魔力を集中させる……!
……思いっきりだ……彼女は怪我しちまうだろうが、死にはしないはずだ。下手に加減したら、彼女を川に落としちまう……!
シュゥゥゥ……ドバァンッ……!
収束音の後に起きた爆発音と共にアリスの身体は吹っ飛ばされ、橋のちょうど向こう側に倒れた……!
いよっし……成功だぜ……! あとは、俺も同じことを自分の背中でやるだけだ……無事な右の手を背中に付け、思いっきり魔力を込める……!
シュゥゥ……バァン!
ん!? 何かまずいぞ、まるで野球ボールを投げたときに、指が滑ったときみたいな感覚が……!
その嫌な予感は本物だった……アリスを吹っ飛ばしたときよりも明らかに魔力が足りていねえ! さっきバリアとか魔弾で多量の魔力を使っちまったせいなのか、加減を間違ったのか……いや、きっとその両方だ……! クソッ!
「届けえぇッ……!」 チュドンッ……!
両手を後ろに回し、残ったありったけの魔力を手の中で起爆させる……!
3メートル……2メートル……近づいてはいるが……!
クソッ、あと少しで向こう岸なんだ……! 畜生! 俺は……いや、俺はまだ死ぬには早すぎる! うおおおおおおおおッ……!!!!
シュゥゥゥ……ドンッ!
……届いた! 三度目の爆発でなんとか、向こう岸に届いた……! 俺の両手は、確かに地面を掴んでいる……けど……もう限界だ……魔力の使い過ぎなのか、力が段々入らなくなってきてるし、片手だからよじ登ることもできねえ……!
しかも後ろからは村人の攻撃が……! 奴ら、容赦なく追撃を……!
ほどなくして、二本くらいの矢が、背中にビシュッと刺さった激痛が……!
「ぐぅ……!」
「待って! 今助けるから……!」
アリスはすぐそばに駆け寄っていた……が、その手が伸びるまでの時間は一瞬にして長い時間だった……アリスの手が、孤軍奮闘している俺の右手に伸びる前に…… ズルッ……
「エミールッ……!!!」
もう手が限界だ……俺の落ちる先は、数十メートルほど先にすごい勢いで川が流れている……到底助からねえ……! 畜生! 俺はこんなところで……!
その時だった……
どういうわけか分からないが、伸ばしっぱなしだった右腕に《《青い茨》》がシュルルルルル……と伸びてきて、バシッと巻きついてきた……!
上を見上げると、俺と同じく何が起きたのか理解できない顔でいるアリスがいた……そして、茨は彼女の差し伸べかけていた左手から伸びているみたいだ……。数瞬の硬直の後、我に返った彼女は俺を引っ張り上げてくれた。
「はぁ……はぁ……ありがとう、助かったぜ」
「……何だったの……? さっきの茨……」
俺は吊り橋を支えるロープに手をかけて立ち上がると、村の方へ相対する。吊り橋には俺たちを追ってくる村人たちが押し寄せてきていた……まるでムカデだぜ……!
「エミール、その体で何をする気……?」
「はぁ……はぁ……この矢の《《お返し》》をするんだぜ……!」
この吊り橋さえぶっ壊せれば、俺たちを追ってくることはできなくなるからな……! もう魔力は尽きたとは思うが、立ち上がった俺は右手に指鉄砲を作った。ここで奴らを落とさないと、俺たちの命が尽きることになる! 脳内でそのことが過ると、指鉄砲にはいつの間にか魔力が充填されていた……!
4つのロープを指鉄砲で撃ち抜いて切断すると、吊り橋は文字通り吊られるように俺たちの方から落ちて行く……そんな中、右耳には村人……いや、悪魔どもの断末魔の悲鳴と絶叫がこだました……。
ざまあみやがれ、クソ野郎どもが!
第八話、読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




