これから
《前回までのあらすじ》
アリスと共に村から脱出を試みるエミール。草木をかき分け、二人はなんとか谷にたどり着く。一つだけの吊り橋を渡る途中に村人から弓矢の猛攻を受け、彼は自分とアリスを魔弾で反対岸へぶっ飛ばす! 困難を乗り越え、向こう岸にたどり着いたエミールは橋を切断し、鬼畜な村人たちを叩き落としたのだった。
「……終わったね……」
アリスは複雑そうな表情をしている……無理もないか、知人が沢山死んだんだから平気なわけがないしな……。
イチチ……忘れたころに肩と背中の傷が再び痛み出してきたぜ……!
「あっ、治療しなきゃね! 向こうで火を起こして何とかしないと」
アリスはちょうど良さそうなところに枝や落ち葉を集めると火起こしを始める……割と芸達者な奴だぜ。
それはさておき、ここまで自分を犠牲にできる彼女になら、腹を割って俺がこの世界に来た訳を話してもよさそうだ……少しはお互いを知っておくべきだしな。
「……なあ、アリス。俺は望んでこの世界に来たんだ」
「え、それはどういうこと……?」
「もともと、別の世界に住んでたんだけどよ、そこでの生活が過酷で、窮屈で、自由なんてあったもんじゃない。だから、この世界に来たんだ」
彼女は最初こそきょとんとしていたが、次第に笑みを浮かべてくれた。信じてくれたのか、よくできた冗談だと判断して笑ってくれたのかは分からないが、さっきのお葬式ムードは変えられたような気がした……。
「それでさ、どうして自分の財産を犠牲にしてまで、俺みたいな変な奴を護ろうとしたんだ?」
いっちばん気になることと言ったら、これしかあるまい……この訳を聞きたくて仕方がなかった。アリスは火起こしをしながら、少しの間思案すると、話し始めた。
「……そうね。私、前に見た夢で、あなたみたいな人と冒険する夢を見たの。だからは分からないけど、何故かあなたの味方になりたいと思ったのよ。悪い人には見えなかったし」
「……なるほど」
コイツ……いい意味で変な奴だな。そんな自分の勘と推測だけで他人を必死に護るだなんてな……。
ボッ……! 「点いたわ!」
おお、炎が闇を照らしだし、本格的に明るい空気が辺りを包み始めた。
すると、彼女は辺りの雑草を集めて調べ始めた。一体何をする気なんだ……?
「……よし。エミール、背中を見せて」
「え、ああ……」
すると、彼女は最初に俺の左肩に刺さっている矢に手をかけた。
……待て、そういえば、矢っていうのは先が返しの形になっていて、一度刺さると大人の力でも中々抜けないし、《《抜いても大きな傷ができる》》って前に本で読んだような……嫌な予感がしてきたぞ……
「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
「えっ!? ちょ……」
待て、アリスの華奢な腕でこの矢が引き抜けるのか……? 彼女の表情は、「できる」と分かっている自信に満ちているようだし、考えを変えてくれそうな顔には見えねえ……!
俺は痛みに備えて目を閉じ、歯を食いしばった……!
くぅッ……! あ、あれ? 思ったより痛くねえ……目を開くと、先に赤い血が付いた矢を握っているアリスの姿があった。
「よかった……あのときエミールを引っ張り上げられたから、この茨を使えば引き抜けると思ったの。……ちょっと荒っぽかったよね、ごめん」
「あ、ああ、それはすごい発想だな……ところで、痛みがさほどなかったんだが、それもその茨のお蔭か?」
「え? そ、そうなの? あっ、ごめんごめん、トゲが刺さっちゃってるから取るね」
それとも、痛みを覚悟していたけど実際は大したことが無かったってのか……? なんにせよ、悶絶せずに済んで良かったぜ。
「はい、次は止血するよ! さっき潰した薬草だけど、これを塗っておいて」
おお、さっきやっていたのは薬草を選別して潰して軟膏に……さっそく服の内側に手を入れて、傷口に塗ってみるとひりひりした感覚は収まり始めた……。これがRPGとかの薬草ってやつか……そこら辺の草に紛れてる上に、ここまで楽になるなんてな……。
「……ん? お、おい、アリス、お前の服、背中が破れてるぜ……!?」
「え?……ああ、なんか背中が涼しいと思ったらそのせいね」
「い、いや、その……すまん」
多分、アリスをぶっ飛ばした時にやっちまったのか……あの時は村人から逃げることで無我夢中だったぜ……。けど、彼女はそのことには動じない……まったく恥じる様子が無いな……。
「いいの、いいの。結局、あなたのお蔭で助かったんだから」
「お、おう……ところで、これからどっか行く《《アテ》》はあるのか?」
「うーん……そうだ、《《王都》》に行きましょう!」
王都……彼女が目を光らせて言うに、いわゆる首都っぽいやつかな……至る所に人が居て、有名な店があって、文明の中心地ってイメージ……。
「王都はね、ちょっと離れたところにあるんだけど、すごく広大で、偉い王様が住んでるところなのよ」
「や、やけに抽象的だな……」
「……実は、私、王都には4歳の時までしかいなかったの。こっちに来たのは、おじいちゃんが亡くなっちゃって、土地を管理する人が足りないからお父さんが呼び出されて、それに私とお母さんが付いて来たってことよ」
なるほど……もともとその王都に居たのか。どうりで村の連中と違って《《標準語》》を話しているわけだぜ。まあ、こんな綺麗な少女が方言で喋ってるのもそれはそれで面白いと思ったんだけどな。
「……不謹慎かもしれないが……両親はどうなったんだ?」
「……お父さんはあるときモンスターに……お母さんは持病が悪化しちゃったの。それから精神を病んじゃって……ううん、私のせいよ……私が止めてあげられなかったから……」
やべえ、さっきまで目を輝かせて明るく喋っていた彼女の眼のハイライトと声のトーンがどんどんフェードアウトしていってる……! さすがに踏み込みすぎたな!?
「そ、そうか……それはすごく辛いことだったな……思い出させちまってほんとにすまねえ。俺、両親がもともといなかったから、《《親》》っつうのがよくわかんなくてよ……俺が悪かったぜ……」
「いいよいいよ。もう……昔のことだから。今更、後悔しても辛いだけだよね」
親……必要な存在ではあるんだとは思うけど……どうも、彼女の様子を見ていると辛いこともあるんだな……。学校でよく、虐待がどうのこうのっていうのを先生が言ってたっけ。あれはこういうことだったんだな……なんというか、複雑だぜ。
「ありがとう、こんな話まで聞いてくれて。こんな話ができる相手、最近は居なかったから心に仕舞いっぱなしになっちゃってたから。ようやく吐きだせたの」
「あ、ああ……そうなのか」
やっぱり明るいぜ……萎れてた花に水をあげた後みたいに、すっかり彼女は明るい表情を取り戻している。
「さて、今日はもうここで一夜を明かしましょ」
「え? いや、俺は昼までぐっすりと寝ていたお蔭で目と脳は大丈夫なんだが、それよりファンタジー世界の森の中で寝たらモンスターに寝首をかかれるんじゃ……?」
「それに関しては大丈夫。火があればモンスターは寄ってこないから。明日はけっこう歩くし、今の内にエミールも英気を養おうよ」
「お、おう、そうしておくぜ」
おやすみの挨拶を交わすと、アリスは横になってすぐに目を閉じた。よっぽど疲れていたのか、あっという間に眠りについたみたいだな……。
ま、俺も特別やることはないし、星でも眺めてるか……えっと……あれはなんて星座なんだろうな?
第九話、まだまだ物語はここからです!
読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




