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転生魔帝の人界亡命  作者: conacana
7/30

亡命

《前回までのあらすじ》

 ハインケルの力を借りて本を図書館に返し終えたエミール。休憩がてら彼と話をしていくうちに、魔王は自分のせいで性格が変わったと結論付けたエミールは、彼に人間界に続く扉に案内させた。初代魔帝が作ったとされるその扉を押すと、エミールは亜空間の中に居た。魔力を吸い取られ、意識が朦朧とする中で、彼は一つの光を目にしたのだった……。


 ……俺はまた死んだのか? 体にその疑問を投げかけると、指先がピクリと反応を返してくれた……生きている。そう確信すると同時に、俺の身体は電源の入ったパソコンのように時間が動き出した……体の下にはふかふかとしたベッドのような感触があるのが分かる……。

 固唾を飲んで、俺はゆっくりと瞼を開ける……!


「ここは……」


 見覚えのない天井の下……そこで俺は横になっていた。魔界じゃないことは一目でわかるけど、転生する前に居た場所とも違う……新たな世界だ。これがあの人間界なのだろうか……?

 ゆっくり腰を上げて、ふらつきながらも俺は近くにあった鏡を見た……


「……!」


 驚くことに、生えていた角、翼、尻尾がすべて元から無かったように消え失せていて、残った変化は目だけだった。相変わらず、目の色は白と黒、瞳は赤と青で別れてやがる……まあ、人間に近づいたって意味ではこれでいいんだろうか……。


 ガチャ……「あっ、目が覚めたみたいね」


 木製のドアを平然と開け、手にパンとかの食料の入ったバスケットを持った女が入ってきた。歳は俺と同じくらいの感じで、西洋人だと一目でわかる金髪蒼目だ……とはいえ、彼女にはまず何を聞こうか……?


「えっと……ここはどこだ? どうして俺はここに寝ていたんだ?」


 赤いカチューシャが特徴的なその女は、ドアの近くにあった椅子に座ると話を続ける。


「あなたは気絶していたのよ、村の中心でね。それで、私があなたを引き取ったの。そして、今あなたが横になってるのは私のベッド」


 自分のベッドの上に、どこの馬の骨ともわからない赤の他人を寝かせるだなんて、随分とお人よし……いや、不用心な奴だぜ……。


「……そうか、助けてくれたことには礼を言うぜ。ありがとな」


 まあ、俺の関心は身体でも金でもなく、そのバスケットの中の食い物だ。なかなか美味そうなパンやリンゴとかが入っているじゃないか……!


「そうそう、これ昼食なんだけど、よかったら一緒に食べない?」


「えっ、ああ、それは嬉しい!」


 気前がいいぜ! ちょうど腹も減ってたんだ……!

 彼女はきれいに半分に仕分けて俺に渡した。量自体は決して多くはないが、なんというか、安心して食べられるからか妙に美味そうに見える……


「へへ、じゃあいただくぜ」 ムグ……


「あら、昼までぐっすりだったからか、よっぽどお腹が空いてたのね」


 おお、やはり美味い……健常者には間違いなく《《普通のロールパン》》かもしれないが、味覚を殺して無理やり食ってたあの時とは感覚が違うぜ! 林檎も、懐かしい味がして美味いな……むしろ、今までのより歯ごたえがあるから俺は好きだな。


「……自己紹介をしてなかったわね。私はアリス。アリス・グロスターよ」


 アリスか……ありふれた名前だな。

 俺の名前はどっちを言おうか……名前のかっこよさで言えばエミールだよなぁ……けど、俺の元の名前は直樹だし……どっちにしよっかなぁ……?


 ……ゴクン「俺の名は……えっと、エミールだ。エミール・ヴィンテル」


「へぇ、かっこいい名前ね!」


 へへ、やっぱりかっこよさが一番だぜ! ……まあ、せっかく魔王がくれた名前だしな。あんな奴だったけど、俺を転生させてくれたのもアイツだってことを忘れちゃならないために、俺はこの名前で生きていくことにする。


「そいつはどうも。ところで、助けてくれた礼と言っちゃあなんだが、俺に手伝えることはないか?」


「えーと、そうね……


 ガラッ! 「アリス、生きてるか!?」


 なんだなんだ!? いきなりドアが開いたかと思うと4、5人くらいの村人がこっちを覗いてるぜ! なんか、みんな汗かいてるし、心配でもしているのか?


「ちょっと、勝手に人の家に入ってこないでよ! 私はこのとおり大丈夫だし、この人は悪い人じゃないから!」


「いんや、信用ならねえだ! ほれみろ、その男は目が片方黒いし、やっぱり普通の人間じゃねえだ! これは何かの災厄の兆しに違いねえだ!」


 えぇ……まあ、そうなるよな。いきなり俺みたいな変な奴が村のど真ん中に湧いたら、ビックリと恐怖を感じて当然だろうぜ……。


「ダメ! この人は渡さない! 絶対に悪い人じゃないんだから! もし何か起きたらその時は私が責任を負うわ。これでいいでしょ!?」


「な……! ホントに良いんだべな? そんなこと言って、ホントに何か起きたら今度は両親もいないんだべよ!」


 アリスのやつ、俺のために一歩も引く気がねえぞ……コイツにとって、俺を庇ってもメリットよりデメリットの方がデカいだろうに……。


「いいよ! それでも、私は平気だから……!」


「……分かった。みんな、もう行くべ……」 バタン……


 村人たちは半ば見捨てる形で、家を後にしていった……

 しっかし、彼女は無鉄砲なやつだ。あんなことを平気で言っちまうだなんて……どっかの誰かさんに似たような性格だぜ……。ったく、どうして大丈夫だなんて言い切れるんだよ……。俺は魔界の帝王なんだぜ? そんなやつを……いや、内面をまだ何にも知らない他人を何故そんな風に庇っていられるんだ……?


「……いいのかよ、もし俺のせいで……」


「大丈夫! だけど、外にはあまり出ないほうが良いかも。その傷だって、まだ癒えてないんでしょ? なら、寝てなきゃ」


「……わかった、そうするぜ」


 ここまで向こう見ずで人の話を全く聞かないあたり、アイツそっくりだな……。

 そういえば、服も変わってるな。しかも、その下には無数の包帯が巻かれてる……扉通った時に付いた傷なのか……? 痛みはそれほど感じないんだが……。まあ、ここは彼女の言葉に甘えておくとするか。気分が本調子じゃないことは事実だしな。


「じゃ、私はちょっと出かけてくるから。夕食の材料をもらってこなきゃいけないからね」


「あ、ああ……大丈夫なのか? さっき村の人から見限られてそうな感じだったけど……」


「ええ、あれくらいはいつものことよ。少ししたら、みんな忘れてくれるはずだから……」


 いつもって……彼女は日常からこんな無茶なことをやらかしてるのかよ……ますます、誰かさんに似ている奴だぜ……。

 ……それからというもの、俺は暇だったんで寝たり起きたりを繰り返していた。魔界ではこんなに安心できたことはなかったからな……。


 ガチャ……! 「ただいま……エミール、起きてる!?」


 やけに早く扉が開き、アリスが血相変えて帰ってきたぞ……!? 見るからにかなり焦っているし、何かまずいことがあったことは想像に難くないが……


「急いで、今すぐに此処から逃げるよ!」


「えっ……!? ま、まてまて、何が起きたのか説明してくれよ……!」


「なんかいつもより不味い気がするの……さっき、小耳に挟んだことなんだけど、皆があなたを狙っているみたいで……!」


 ッチ、なんてこったい……俺自身は何にもしてねえのに、勝手に命を狙われるとはなぁ……まあ仕方がない。今、俺がすべきことは彼女が言うように逃げることだな……!


「わかった、傷はもう何ともない。それと、短い間だけど世話になったな」


「何言ってるの、私も一緒に逃げるんだから」


 え……!? どういうことだ? 俺が逃げるのは当然として、彼女が逃げる意味は……?

 そんなことを考える時間も暇もなく、靴を履き終えるとアリスに手を引かれて外へと連れ出された。玄関をグルっと周って、ちょうど反対方向にある森の茂みに俺たちは身を潜めることにした……。

第七話、やっとタイトル回収! 遅くなってすまない!

読んでいただきありがとうございます!


次回もお楽しみに!

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