ザーク島
《前回のあらすじ》
デプスダインとの戦いを経て、海へ出られるようになったドルザードの街。エミール一行はザーク島へ向かうべく、商人の恩返しを受けて船を借りることができた。そして、魔界への門が待ち構えるというザーク島に近づきつつあった。
「見えてきました……あの小島が件のザーク島っすね!」
ディードの言うとおり、大海の中にポツンと浮かぶ小さな島が見える。外から見る限り、木々の緑のカーテンに阻まれて内部は見受けられないが、この場所に例の扉がある……!
「あの棒のように伸びている物は……桟橋だね。ご丁寧に上陸できる設備は整っているみたいで助かったよ」
……レクス、桟橋が無かったらどうやって船を泊める気だったんだろう? まあいい、上陸して船を後にした俺たちは、早速目の前にある森に目を移した。
「あの森……結構深いみたいだよ?」
「そうだな、アリス。たしかに迷いそうではあるけど、所詮は小島だ。歩いていれば絶対に扉に当たるはずだぜ」
だが、それは予想を良い意味で裏切ってはくれた。
「うわ、なんっすかこれは……!?」
ディードと同じく俺たちも思わず拍子抜けしたぜ……森に見えたそれは外周だけが木々が覆っているだけで、内部はぽっかりと穴が空いたように綺麗に整地されている……。
「この道の造りは……間違いない、魔族のものだ」
確かに、その石レンガで無骨に作られたソレは、俺が魔界で見たものと同じだった。ということは、間違いない。この場所に例の扉があって、道を辿って行けば……!
「あれはなに?」
アリスの指差す先には、関所のような建物が佇んでいた。
その外観は無骨……なんたって、道と同じような石レンガで造られているみたいだ。だが、この建物は急遽作られているのが見て取れる。まるで豆腐みたいな四角い建物になっているぜ。
「魔族が作ったんだろうな。それも、つい最近だぜ」
玄関口は固く施錠されている……いや、近くにインターホン《呼び鈴》のようなものが発見できた。
ジリリリリ……
非常ベルのような音が鳴り、それから少しして扉はゆっくりと開く。
中からは、全身を金属のような見るからに硬そうなものに身を包んでいる大きな魔族が現れた……!
「なんだ貴様らは。ここは貴様らのような余所者が来るところではないぞ……ん!?」
くぐもった低い声の主は今すぐにでも出て行けと言いたそうだが、俺の姿を見るなり、少し驚いた様子をした。
「お、お前……まさか、あの……いや……そんなはずは……」
「そこまで驚くか……見りゃわかるだろ、俺は魔帝。お前たちが血眼になって探しているターゲットだぜ?」
眼球が白い人型の生物なんて、この世界には俺以外いないはずだからな……この魔物、まさか魔帝が直々にこの場所に来るなんて考えもしなかっただろう。
「……ほ、本当に、魔帝様なのですか……? いや、待て……その近くにいるのは人間と吸血鬼! さては貴様ら、魔帝を唆したな!」
急に何を言い出すんだ!? って、そ、そうだ、考えてみたらそうなるよな。何か魂胆でもない限り、此処に来るなんてありえない話だ……!
「そ、そんな! 私たち、そんなことはしてませんよ!」
「まったく、魔界を征服するんだったら、僕はもっと大人数で来るよ……」
「問答無用! 蛮族どもめ、ここで叩き潰してくれる!」
ど、どっちが蛮族だよ! とはいえ、戦わなければならないか……! 俺たちは魔界に交渉しに来たってのに!
「待て。ブルート」
魔族の奥からそう聞こえると、戦いの直前にも拘らず注目はそっちに集まった。魔族の股の間をすり抜けてこちらに姿を現したのは、一人の人型をした魔族……。
「!……ハインケル様!」
そう、ハインケルだ!
王都で会った時以来の再開じゃないか!
「お帰りを心待ちにしておりました、魔帝様。ブルート、魔帝様たちを魔界にお通ししろ」
「は……!? ですが、ハインケル様、一行には吸血鬼と人間が混じっていますが……」
「構わない。この方たちは魔帝様の大事なお客様だぞ」
「は、ははっ! 先程の無礼、どうかお許しを……」
ブルートと呼ばれるその魔族は、深く頭を垂れて謝罪した。意外にも礼儀正しい性格だな。
「え、ええ……た、戦う前だったから私たちは大丈夫だよ……」
「……では、皆様、こちらへ」
ハインケルと共に建物の奥へと進むと、そこには見覚えのある大きな扉があった! あれこそ、あの時城の地下で見て、俺が触ったあの扉だ! しかも、扉は開いており、中には紫と黒が渦巻く亜空間が広がっている……!
「ま、禍々しいね……」
「アリスさんの言うとおりっす……」
「僕もひっさしぶりに見たけど、変な色だな……」
「こ、このまま入れるのか……今度は、俺たちの魔力を奪われたりしないよな?」
「ええ。このまま入るだけで問題なく魔界に行けますので、その点はご安心を」
ハインケルはササッと普通に亜空間の中に足を踏み入れると、そのまま果てへと飛ばされていった。
……勇気を振り絞って、俺たちも足を踏み入れる!
「す、すごいっすね! 体は動いていないのに、勝手に進んでるっすよ!」
「へ、変な感じがする……けど、どこか面白いような気がするよ!」
アリスの言うとおり、奇妙な感覚がするが、あの日を思い出す。魔力を吸い取られながらも必死にもがいてたっけな。まるで、叫ぶ要素の無いジェットコースターに乗せられている気分だぜ……。
「エミールはあの人のこと知ってるの?」
「ん、ああ、ハインケルは俺が魔界を抜け出すのを助けてくれたんだ。それ以外にも、色々手伝ってくれたしな。俺が思うに、魔族の中で一番良い奴だぜ」
「へえ、あの人が居なければ、師匠は人間界にいなかったんですね……!」
「ってことは、僕が此処にいることもなかっただろうね。それよりエミール、魔王と会話するときの話題はもう決まってるね?」
「お、おう……一応決まってるぜ」
それを聞かれると不安になっちまうぜ。けど、引き返すことはできないし、魔界に着いたら最終調整を済ませればいいだろう……。
進み続けて辿り着いた亜空間の先には、薄暗い地下室のような場所が待っていた。近くに魔族はいないが、俺の記憶通りなら此処は城の地下のはずだ。
「エミール!!!」
なんだ!? 到着早々に、聞き覚えのある声が俺の耳に響いてきた!
この声は女……だが、アリスのものじゃない。だ、だとしたら、答えは一つしかない!
「待ってたわ~!」 ギュウゥ!
ぎゃあああああ!!! やっぱり魔王だ……!
突然現れたと思ったら、抱きつかれて全身を締め上げられる!!! ぐう……骨が……骨が折れる……!!!
「ちょ、ちょっと、エミールにいきなりなにするの!?」
「だ、誰っすか、この人!?」
アリスたちの声を聴いて、魔王は俺の全身が砕そうな寸前で拘束を解除した。幸いにも骨が折れることはなかったが、身の危険を感じたぜ……。
「あら、お客さんまで連れて来たの? 丁寧にもてなしてあげるから、まずは玉座までついてらっしゃい」
そ、そういうわけで、俺たちは玉座まで向かうことになった。ったく、俺の身体は既にボロボロになりそうだぜ。
「エミール……私、扉の前で何日もずっと待ってたんだからね。いつ見つかるか、いつ帰ってくるか……そしたらまさか、あなた自身の意志で此処に帰ってきてくれるなんて! 私はとっても嬉しいわ! きっと、私のことが恋しくなったんでしょう?」
それはないぜ。とことん一途なのは嬉しいんだが、愛と行動が激烈すぎてついていけないんだよ……なんて、口が裂けても言えないぜ。うっかり口を滑らせるようなことがあれば、間違いなく八つ裂きにされる!
こんな人物に交渉なんてできるのか? いや、ここまで来たらやるしかない!
いよいよ交渉……!
次回もお楽しみに!




