勝機
《前回のあらすじ》
港湾都市ドルザードに到着したエミールたち。商人と別れた後に早速、不穏な空気をこの街から感じたのだった。その原因は、デプスダインという竜のようなモンスターが船渠を占拠していたからであり、これによって船を出せなくなってしまっていたのだ。当然、ザーク島へ向かうことは大幅に待たされてしまう……。だが、待てる時間はなかったエミールたちは船渠に向かい、デプスダインと交戦することとなる。
「ま、まずいね……今すぐに水晶を再展開できるほど、僕の魔力は余ってないよ……!」
し、しかも、俺たちの治療はまだ終わってねえ……特に、アリスは深くまで貫通しているみたいだし、かなりダメージを負っちまってるままだ……!
「ち、畜生ッ!!!」
どうすればいいかなんてもうわからなかった……錯乱しかけていた俺は、魔弾を竜の眉間に向けて発砲した……!
首を振るだけで回避できそうな弾速だったにもかかわらず、竜はまたもやあの水のバリアを張るだけという最小限の動きで防いできやがった……。
クソ……神様ってやつはこうも無慈悲なもんなのか……俺の目には、さっき水晶を破壊したであろう強力なブレス攻撃の予備動作が見える……。
もう駄目だ……なにもかも……。
次の瞬間、バシィンッ!! という空気が激しくたたきつけられる音と共に、俺は涅槃から目覚めた……上を見上げると、そこには一人の少年が地上に舞い降りていた……あの後ろ姿は……!
「遅くなってしまって、本当に申し訳ないっす! 師匠!」
……へっ、どうやら、ヒーローは遅れてやってくるってのは本当見てえだな……! 空気弾の不意打ちを受けた竜は予備動作を中断し、新たな外敵の出現に鬱陶しさを感じているみたいだ……。
「まったく、君のトイレは相当長かったじゃないか!」
「ま、まあ、怒んないでくれよ、レクス……一応、これでも師匠のために急いだんすよ!」
ま、いいだろう……ディードが駆けつけてきたおかげで、少なくとも首の皮一枚で持ちこたえることはできた……。
「レクスはそのまま、重傷者のアリスを治療していてくれ」
この竜は俺たちが引き付ける……さっきの短い間の治療で、動ける程度には回復したからな。
「ところで、師匠。俺、新しい技を編み出したんすよ!」
新しい技……? ま、まて、あの竜には水のバリアがあって、不意打ちでもかけない限り攻撃は効かねえ……! そんなバスケットボール程度の風の魔法弾なんかじゃ……!
……ゴオオオオオオォォォッ!!!
な!? あの弾、バリアに当たったと思ったらけたたましい音と共に竜巻みたいなものを引き起こしやがった!
しかも、その威力はバリアの水分を吹き飛ばして、穴を空けた! なんて風圧だ……!
「師匠、今なら当たるっすよ!」
「お、おう!」
魔弾はバリアの穴を見事に貫き、竜にダメージを負わせた……!
……いや、まだ不十分だ! この程度で引き下がるはずがない!
竜はすぐさま開いた穴を修復すると同時に、怒った形相でこちらを睨みつけてきた……!
ギュルルルゥゥゥ……!
あの唸り声は……ヤバい、ディード、来るぞ……!
俺とディードは水晶を出現させたり、茨で全身を防御したりなんてできない……アレを防ぐ手段が……!
バッシャアッ!!!
クソ……! 水音と共にあの水弾がもうすぐそこに……!
すると突如、目の前に薄い水晶の膜が形成され、弾はそれに弾かれていった……!
下を見下ろすと、レクスがキザな笑みを浮かべて水晶を操っている!
「フフフ……さっき受け止めたときに分かったのさ。あの水弾を防ぐなら、この程度の薄さで十分だってね。それなら容易い話だよ……!」
命拾いしたぜ、レクス……これで、あの凶悪な全周囲攻撃に怯える必要はないぜ! このまま一気に巻き返す!
「……さっきの連携、もう一回やるぞ!」
「……はい!」
竜巻弾と魔弾のコンボは確実にダメージを与えていき、水弾はレクスの水晶が防いでいく……ブレス攻撃を許さぬまま、さっきとは打って変わって互角以上の攻防戦が続く……!
「はぁ……はぁ……、くらえ……!」
……ゴオォウ……
な、音と穴が小さい!? これでは狙いがつけられない……!
5回目の竜巻弾を撃つときにディードの奴、何かあったのか……!?
「はぁ……はぁ……はぁ……」
攻撃を中断して、ディードに駆け寄ると、息を切らして膝をついている……
「すいません……師匠……鍛えてはいたんですが……もう魔力が……」
しまった……! 魔力切れか……。たしかに、あれだけの魔力……そして風圧を巻き起こしていれば、あっという間に魔力がカツカツになっちまうな……。
ギュルルルロロロロオオオオォォォッ!!!
こ、この声は……! 正面には、こちらにじっくりと目線を合わせ、今から葬ろうとその大口を広げてブレスを放とうとしている竜の姿が……!
この距離じゃ、レクスが分厚い水晶壁を展開したとしても貫通しちまうだろう……!
「クッソったれがぁッ!!!」
竜の眼球目がけて決死の魔弾を放つ……! 頼む、発射前に間に合ってくれ……!
が、攻撃が全部弾かれてる……! アイツ、さっきディードに不意打ちをかけられた時に学習しやがったんだ! ブレスの予備動作をしながら、魔弾を防ぎやがった!
「え、エミールッ!!」
「待て! アリス、君はまだ傷が治ってないんだ! 僕の治療が終わるまで待て!」
レクスたちも駆けつけられない……!
か……完敗だ……どうあがいても、どう展開が俺たちに有利になろうとも……俺たちが勝つことは、神が許さないのか……! 運命……変えられぬ現実……不可能……無理……仕方がないことなのか……!?
俺の脳内には、人が死に際に聞くというノイズが走っていた……!
ドオオォォンッ!!!
脳内に響いていた黄泉へのノイズを切り裂いて、聞こえた咆哮はどこかで聞いたものだった……!
ドグアアァァァンッ!!! ギュルオオオオォォォンッ!!!
このけたたましい音と竜の叫び声……そうだ、大砲だ……!
意識を引き戻された俺が最初に見たのは、大ダメージを負って大きく仰け反る竜の姿だった……。
「坊主ども! 大丈夫か!?」
「君たちがデプスダインと戦ってるって聞いて、急いで持ってきたんだ!」
あの人たちは……親切な民間人のおっちゃんと、商人の人だ!
まさか、大砲をわざわざ持ってきてくれたのか……こんなことが……こんなことがあるもんなのか……!
「おい坊主、今なら顔のバリアが剥がれてる、トドメを叩き込んでやれッ!」
「あ、ああ!」
正面に向き直し、指鉄砲を構える……!
目標は、奴の外皮の中で最も柔らかく、痛みを感じ、恐怖を覚えるであろう部位……!
「言わずもがな、眼球にぶち込む!」
魔弾は方向を変えることなく一直線に、なによりも俺の意志に従って進んで行き……奴の小さい眼球を穿つ!
ギュルオオオオォォォォォ……!!!
竜は悲痛な叫び声と共に今一度大きく仰け反り、崩れ落ちるようにその場に倒れた……!
俺はしばらく構えた腕を下ろすことができなかったが、奴の瞼が降りているのを確認すると、やっと緊張から突き放されたような気がした……。
「エミール!」
「師匠!」
二人が真っ先に駆け寄ってきて、そのときようやく、俺は勝った……そうだ、この強大な首長竜、デプスダインをついに打ち負かしたんだ!!!
神は俺たちを見捨てていなかったんだ!!!
「うおおおおお!!!」 「デプスダインを討伐したのか!!!」
船渠の外から、押し寄せた観衆が歓喜の咆哮を上げ、俺たちは少し英雄になったかのような余韻に浸ることができた……。
その直後……!
ギュルルルルル……!
低い唸り声が、場の空気を切り裂く……!
倒れているはずのデプスダインに目を向けると、奴はむっくりと首を起こしている……!
「あ、あれだけダメージを与えたのに、まだやるつもりなんすか……!?」
「うそ……だろ? 流石にもう万策尽きたぜ……!?」
しぶとすぎる……! まだ体が動かせるのか……!?
俺の身体には冷たい電撃が走り続けていた……冷や汗が流れ、手汗が湧き出し、脳が戦闘態勢に戻そうと必死に走っている……!
けれど、竜はこちらに背を向けると、船渠を抜けて海へと戻って行った……。
その様子から1……2秒ほどして、周囲からは拍手が巻き起こり、再び勝利の宴に戻った……!
「……終わったね……実に長くて、ヒヤヒヤする戦いだったよ……僕にとって、君は死なれちゃ困るからね」
ああ、レクス……お前の言うとおり、俺は未だ死ぬわけにはいかないんだ……あの海を越えて、魔王に会いに行かなくちゃならないんだ!
デプスダイン戦を経て、物語は終盤に差し掛かりました!
次回もお楽しみに!




