馬車に揺られて
《前回のあらすじ》
魔界に続く扉を探すべく、ドルザードを目指して出発したエミールたち。途中でレクスと再会し、利害の一致から共闘することとなった。そして、商人と馬車を足止めしていた魔物を撃退したことで、ドルザードまで馬車で乗せてもらえることとなった。
「ドルザードには何時到着しそうなんだ?」
「商人さんが言うには、明日の朝には着くって」
「それまで暇じゃないか? 一応、僕はトランプを持ってきたけど……」
おお、レクスの奴、用意がいいな。
特にやることっていうやることも今は無いし、馬車に揺れている間は《《ポーカー》》でもするか。
「……そういえば、師匠。魔界ってどんなところなんです?」
どんなところ……か、そうだなぁ……俺自身があんまり、あの場所に居なかったから、イマイチ説明はできないな……知性を持った魔物って感じの奴は居たけどよ。
「……多分、この世界よりはよっぽど魔法の技術が発達してるんじゃないかな? 僕があの場所に居たのは250年も前の話だけど。はい、スリーカード」
うっ、強い……ツーペアじゃ役に立たないか。
そうだな、言われてみれば、そうだった気がする……図書館の機械や、あの転生の儀とかいうやつとか……。
「どっちにしても私は楽しみだよ。だって、知らない世界を見るって、ワクワクすることじゃない? はい、フォーカード!」
「あー! 俺、フルハウスっす……アリスさんの言うとおり、俺もすごく楽しみっす! 早く着かないかな……!」
そ、そうだな……知ったところで絶望とかしてほしくはないけど……俺とレクスは、魔界に悪いイメージしか持ってないからな……。
「……魔界にそんなに長くいたことがないって聞いたけど、君はどうして魔帝になれたのかい?」
あ……えっと、それは……。
待て待て、流石に「転生したら魔帝の血統だったから」なんて言えねえよ……アリスにもこのことは言っちゃいねえし、どう言えばいいんだ……?
ガタガタ……
「なんだ? 馬車が止まったっすよ……?」
どうしたんだ……? 外には夜の帳が降りているし、山賊か何かに出会っちまったのか?
少しすると商人が前からやってきたが、その顔を見る限り、何かに出会ったというよりはこれからに備えて警戒しているようだった。
「すまないね。君たちに頼みたいんだが、馬車の上に登って辺りを警戒してくれないか?」
「なにかいるんですか……?」
「このあたりは、シースパンサーっていう強力な魔物が出没するんだ。奴らは光には近寄って行かない習性をもっているんだが、馬車のライトが故障してしまってね……」
「それで、僕たちがライトを取って周囲を警戒すればいいってことだね?」
「そういうことだ。……これが、照らすための懐中電灯だ」
手渡されたのは、前世に見たソレとはだいぶ形状が違う懐中電灯だった。後ろの部分が銃のマガジンみたいな形になっていて、引き金のようなものもついていた。
カチッ……「うおっ!? 眩しい……!」
「ああ、気を付けてくれ。そいつは夜間警戒用だから凄く明るいんだ」
すっげぇ……まるで、警察が使うサーチライト……とまではいかないが、かなり明るくて、遠くまで照らせそうだ……!
「すごいっすね……世の中にはこんなシロモノもあるんすね!」
「私も初めて見たよ。まるで、第二の太陽みたい……!」
俺たちは馬車の上に上がると、四方に分かれて辺りを照らした。四人いるから、これはちょうど良かったぜ。
ふう……なんとか、さっきの魔帝の話題は切り抜けられた。でも、後々、三人は事実を知ることになるだろう。特にアリス……彼女とは帰ってきても一緒に同居することになるし、隠し通せるだろうか……。
「あっ、早速見つけたっす……! シースパンサーっすよ……!」
どれどれ……西側を照らしていたディードの光の先には、黒い体毛に覆われたヒョウのような魔物が碧い瞳を光らせていた。まるで、黒豹みたいだぜ……。
「……ねえ、僕が聞いたことに間違いが無ければいいんだけど、シースパンサーって《《光源には近づかない》》んじゃなかった?」
あっ……た、確かにそうだ。近寄らないなら、ここまで寄ってくるなんてことはないはずだ……一体どういうことだ……?
ガルルルルッ……!
黒豹は体制を低くして、明らかにこちらを敵視している……!
今にも襲い掛かってきそうだ!
「……く、来るぜ!」
次の瞬間、勢いよくこちらに突っ込んできて、車を引いている馬の方へ跳びかかってきた!
「任せて!」
丁度、正面の方に居たアリスから伸びた茨は、難なく黒豹を絡め取り、強力な靱性を以って束縛した……だが、奴は何かに取りつかれたかのように、しつこく抵抗して茨から抜け出そうとしている!
「うっ……こ、この魔物、すごく強い……!」
やばい、茨が引きちぎられそうだ……! クソ、頭が激しく動くせいで、雷光銃を撃とうにも急所が狙えねえ……!
「くらえーッ!!」
ディードの空気弾! ……いや、ダメだ、弾は確かに脳天に命中したが、まだ黒豹は抵抗を止めていねえ! やっぱり、襲撃の影響で凶暴化しているのか……!?
「……アリス、3、2、1で拘束を解除してほしい。僕に考えがある」
「え、ええ!? わ、わかった……」
何か策があるのか、レクス……? この状況で束縛を解いたら、間違いなく黒豹は馬を狙ってまた突っ込んでくるはず……!
「3……2……1……今だ!!」
茨が解かれると同時に、案の定、再び地面を蹴って馬の喉元に噛みつきに来た……!
「もらった!!」
あと三寸くらいのギリギリで、なんと馬の身体から水晶が飛び出して黒豹を吹っ飛ばした! 流石、吸血鬼を統率するほどの手腕を持つだけのことはあるぜ……俺なんかよりも全然、戦略が上手いんじゃないか?
こうして、黒豹を撃退し……いや、待て、まだ終わっていねえ!
ガルルルルッ!!!
さっきよりも興奮した状態で、黒豹はこちら目がけて《《弾丸のように》》一直線に走ってきた! 意地でも馬を喰らいたいのか……!?
「当たれ!」
ッチ、ダメだ! 思ったより俊敏で、距離が離れているのもあって指鉄砲がなかなか当てられねえ! このままだと……!
「……あっ!!!」
「どうした、アリス!?」
「しょ、商人さん! 今すぐに馬車を止めてください!!!」
「え!?」
な、なんだって!? こんな状況で馬車を止めるだなんて正気か!?
意見を伝える間もなく、アリスの声帯が潰れそうなほどの大声を聞いた商人は、反射的に馬車を止めてしまったみたいだ……。
「おい、アリス、何を……!?」
「ほら、見て……」
グルルゥ……
アリスのライトが照らす先には、小さな子猫のような何かが光に怯えていた……もしかして、黒豹の子供か……?
ガルルッ!!!
追いかけてきた黒豹は、馬ではなく足がすくんで動けない子供の元に駆けつけると、首根っこを持ち上げた。そして、こちらを一瞥して暗闇へと消えて行った……。
「どうやら、子供が轢かれそうになっていたから、あんなに血相変えて私たちに襲い掛かってきたみたいよ……子供が無事で良かった」
「ああ……そうか。僕たちと違って、魔物は喋ることができないからね。行動で示すしかなかったんだろうさ」
「……それにしても、すごく強かったっすね……」
他人のためにそこまで自分を犠牲にできるなんて、まるでアリスみたいだな……俺には到底、そこまでできそうに無いんだけどよ。
「そう? あれは親心だと思うよ。自分の子供がピンチになっていたら、助けない親なんていないもの!」
「アリスさんの言うとおりっすよ! 俺だって、昔から母さんには助けられてばっかりでしたし……そういうことって子供からしたら、すごくありがたくて安心することなんですよ」
そ、そんなものなのか……俺には親が居なかったから、その親心っていうのがイマイチよく分からない。けど、体験者の二人の意見を聞くに、特別な情だってことはなんとなく理解できた……と、思う。
「あったかい話じゃないか。……僕も、セバスチャンのためにプレゼントでも用意しておこうかな」
プレゼントかぁ……ディードの母親にでも用意しておこうか……。
視線を馬車に移すと、商人が話に入り込めずに困っている表情をしていた。
「……君たち、もう出発していいか?」
「ああ、撃退……いや、脅威は去ってくれたぜ」
温かい空気に包みこまれながら、馬車は再び動き出す。
親心……か。俺に子供たちがいたら、そんな気分を味わえるんだろうな……。
第22話、読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!




