再開と再出発
《前回のあらすじ》
身の潔白を証明し、国王から正式に魔界との交渉の任を受けたエミール。魔界に繋がる扉を探すため、禁書の閲覧許可も取り付けて再び王立図書館に向かうのだった。禁書において、王都から西にあるドルザードという地域からさらに西にある無人島にそれらしき扉があるという情報を掴み、向かうべき目標とする……。
さて……今日という日ほど、朝日が奇妙な始まりを告げると感じたことはないぜ……元あった場所に帰るっていうだけなのに、妙な予感が起きる前からしていた。
「食料、地図、コンパス、ナイフ……よし、準備できたよ!」
「俺もっす! 魔力は問題ないし、絶好調っすよ!」
二人とも、準備はできたみたいだな。
朝食を早めに済ませて、俺たちは既に玄関に居た。
「行ってらっしゃい、三人とも。特に、ディードはくれぐれも迷惑をかけないようにね!」
いざ鎌倉……!
玄関を開くと、そこには見覚えのある奴が待機してやがった……。
「やあ、三人ともお揃いのようだね。魔界に行く気なんだろう?」
このマセたムカつくガキ……あの館の主のレクスだ!
一体何の用だ……? 吸血鬼が人里に来るとは……。
「師匠にこの前のリベンジをしにきたのか!?」
「まさか……そんな下らないことをしに来たんじゃない。君たちと手を組もうと思ってね」
なに……? どういう風の吹き回しだ……?
いや待て、襲撃の時にコイツが現れたときは、明らかに魔界の奴らとは敵対していた。そのことで俺たちを……?
「ま、そんな顔をするだろうと思った。けど、これは嘘じゃないことは受け止めてほしい。僕らとしても、魔族が人間界にやってこなくなることにはメリットがあるのさ」
「……いいの? レクスは吸血鬼を統率しているんでしょ。そんな人がいなくなっても……」
「そんな心配はしていないさ、アリス。代理はセバスチャンに任せてあるし、何より、僕の勘が「君たちなら平気」だって囁いてくるからね」
……こっちとしては、戦力は多いほうが良いな。その上、魔界とかかわりのある人物とあらば、加えるしか選択肢は残されていない……少なくとも、裏切ったり、魔界と結託して俺たちを嵌めようとしているわけではなさそうだな……。
「わかった、その言葉を信じる。ただ、仲間として入る以上、お前を特別扱いしたりはしないぜ?」
「構わないよ。むしろ、そうしてもらったほうがこっちとしても楽だからね」
あれだけ館で屈辱を与えてやったのに、今度は俺たちの仲間になるとはな……運命っつうのはホントに奇妙なもんだぜ……。
「行くところはもう決まっているだろう? 此処から西の方にある島、ザーク島ってところ」
「ああ……って、お前なんで知ってるんだよ……?」
「フフフ、吸血鬼を舐めないでもらいたいね。こう見えても元々魔界に居たんだから、行き来する方法の一つくらい知ってるさ」
俺が苦労して禁書まで見せてもらってやっとつかんだ情報をこうもあっさりと……これなら、襲撃の時にでも教えてくれればよかったのによ。
門の外に足を踏み出し、帰省の旅が始まる……!
「最初に目指すべきチェックポイントは、このドルザードだな」
「ええ。そこから船に乗せてもらって、ザーク島に向かう……」
地図から見るに、それぞれのチェックポイントの距離はあまり離れてはいないし、何か険しい山だとか谷とかはない……。
「一見すると、そんなに長い旅にはなりそうにないっすね」
「そうかな? 僕は気を付けたほうが良いと思うよ……」
王都から西に進み、平原を歩いている。
すると、妙なところに行商の馬車が立ち止まっていた。
「何かあったんですか?」
「ん? ああ、見てくれ。あの魔物を……」
商人の指差す先には、蝙蝠のような翼を持ち、ドラゴンみたいな身体をした魔物が数匹うろついている。今まで見た事のない奴だが、明らかに獲物を探している様子だ……。
「あれはグレムリンっすね……本来、この先の渓谷とかにしかいないはずなのに、何故ここに……?」
「そうなんだよ。気が起っているのか、進むと攻撃を仕掛けてくるから前に進めなくて……ギルドに護衛を頼もうにも、この前の襲撃で復興の方が優先されているからどうにもならなくてな……」
おいおい、襲撃の影響がこんな形でも表れているとはな……。
「分かりました、私たちが追い払っておきます!」
まあ、まずはアリスの言うとおり、目の間の敵を何とかしなくちゃな。 軽く追い払ってやるぜ! ズキュンッ!
ヒュン…… 「ッチ、先制は外したか……!」
「そんなうまくはいかないよ。向こうは飛んでるんだよ?」
レクスの言うとおり……空飛ぶ相手に当てるのはまだ難しいぜ。初撃を外しちまったせいで、俺たちはグレムリンたちと真っ向から対峙する……数はおよそ……6匹か!
ギャオオオン……ギャオ……ギャルルル……
うわ、イライラしてんのが目に見える……!
そりゃあそうか。いきなり見慣れないやつらが大勢で来て、騒いで、戻っていったら近所迷惑ってやつだな。俺だってイラつくぜ……。
ギャオッ!
来るか! 三匹くらいの集団が突っ込んでくる……!
「アリス、準備はいいな?」
「もちろん!」
アリスから伸びた茨は左右から敵を包み込んで捕縛した!
といっても安心はできねえ! どうやら、先に突っ込んできた三匹は囮だ!
後ろに残った奴が、口からシュボッと火炎弾を撃ってきやがった!
「任せてくださいっすッ!」
ディードから放たれた空気弾が火炎弾と衝突し、小さな火災旋風を巻き起こしながら相殺された……アイツ、やるじゃねえか!
「あっ……!」
「どうした、アリス?」
茨の方へ目を向けると、捕縛されているグレムリンたちが強引に口だけを開けて、火炎弾を撃ってきた!
「し、師匠!」
時同じくして、後衛の奴らも次々と火炎弾を撃ってきやがった!
流石に、この量は俺たちの力では捌けない……!?
クソ! 6発は俺が叩き落としたが、追加で放ってきやがった2発は防げねえ……!
「お前ら、防御を……!」
次の瞬間、大地から何かが隆起して火炎弾を防ぎ切った……。
す、水晶だ! 真紅の水晶が俺たちの前に盾のように……!
「ふう、危ない危ない。君たちのお蔭で、この血の盾を張る時間を稼げたよ。さあ、二人は安心してトカゲどもを狙うといい」
ノリが良いな……レクス! だが、これで攻撃を受ける心配はしなくていい!
空を飛んでいようが、こうなれば只のカモ同然だな!
「師匠、後ろの三匹は頼みます!」
「おう。そっちは任せたぜ!」
へっ、後ろからチマチマと火炎弾を撃ってくるだけなら、こっちからでも同じことはできるぜ!
指鉄砲から発射された魔弾のことごとくがグレムリンの頭部や首、胸部を貫き、それらは撃ち抜かれたカモのように地面に落下していった。
アリスの方へ目を向けると、ディードの空気弾が茨で捕縛されている魔物の頭部に叩きつけられ、次々と脳震盪を起こして気絶していっていた。
「ふう、これで全部みたいだよ……」
アリスが茨を解くと、商人が駆け寄ってきた。
「おお、すごい連携だった。四人とも……本当にありがとう! これでドルザードに行ける……!」
なに? ドルザードだって? これはちょうどいい!
「商人さんよ、ドルザードに行くつもりなら俺たちも馬車に乗せてってはくれないか?」
「ああ、もちろんだとも。ちょうど、馬車にはまだ余剰スペースがあるから、そこに乗っていくといいさ」
「おお、さっすが師匠!」
「へへっ、魔族が次に襲撃してくるのが何時か分からない以上、時間は一日でも惜しい。だからこそ、こうやってショートカットしていかなきゃな!」
第21話、再開のレクス!
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