第607話・覧古考新、覆水盆に返してぇぇぇぇ(進化の対価で失ったものと、得たもの)
――乙葉宅
コンコンと眠りに就いていた。
その間、どれだけの時間が経過しているのか、俺には予想も出来ない。
まあ、その間は幻想郷レムリアーナにいたので、元居た世界がどのようになっているのかなんてよくわかっていない。
ただ、俺は神威枯渇状態で意識を失っていたので、それが回復するまでは意識が戻らない事も理解している。だから、突然の意識喪失状態に陥りかけて、急ぎ飛空艇に戻った時はようやく意識が戻るのかよと内心、ほっとしていた。
あの世界って、最悪は帰れない可能性だってあるという事を、今更ながらに思い出していたからさ。
――ガバッ!!
勢いよくベットの上で体を起こし、首を軽く回してみる。
「うん、神威枯渇状態は脱したらしいけれど……って、痛てて、なんだこの全身の痛みは」
何というか、しびれるような痛みが全身を駆け巡ったんだよ。
こう、冷たい水の中にずっと手を突っ込んでいたような感触。
それに、体の彼方此方に包帯のようなものまで巻き付けられているんだけれど、これって俺、怪我をしていたのか?
「ふう。何が何だかさっぱりだな。取り敢えずは、状況報告をしておきますか」
額に人差し指を当てて、新山さんに念話を送ってみる。
ルーンブレスレット経由なので連絡は届くはず。
『あ、よかった、乙葉くん、ようやく目を覚ましたんだね。もう怪我は大丈夫?』
(あ、ああ、おかげさまで今しがた目を覚ましたんだけれど。俺って、どれぐらい意識を失っていたんだ?)
『あの鏡の前で血まみれになって倒れてから、今日で4日目だよ。急ぎ診断で状況を確認したら『高濃度神威浸潤症』って出てさ、体内に神威が染みこんで中毒というか、組成が書き換えられ始めていたって表示されてね……』
(うわ、ちょい待ち、自分でも検査してみるわ)
ということで、急ぎ天啓眼で自分の状態を確認してみるんだけれど、なんかおかしな状況になっているらしい事は理解出来た。
『ピッ……高濃度神威浸潤状態。レムリアーナの環境に適応するため、魂から神威があふれて肉体の構成物質に神威が纏わった状態。夢の世界であるレムリアーナでの活動の際、魂より疑似的な肉体を作り出す為に神威を凝縮した結果、夢から覚める際に肉体物質に神威構成体が融合し発生した事象』
さ~て、どうしたものか。
(新山さん、今俺も確認してみてわかったんだけれどさ。新山さんって、同じような状況になっていなかった?)
『私自身も診断で診断したのですけれど、私も軽度の『神威浸潤症』って表示されていました。でも、これは体がだるいとか疲れているような状態が数日程度続くぐらいで、それで体内の神威が抜けるので問題はないとかで』
(ああ、要するに浸透した神威を抜けばいいだけなのか。それじゅあ俺もそうすればいいんだよね?)
『ええっと、瀬川先輩の深淵の書庫で調査して貰ったら、乙葉くんの場合、肉体が神威に適合するように進化したというか、再構成されちゃったみたいで……』
(へ? あ、まあ、ちょいとこっちでもいろいろと調べてみるよ。うん、ありがとう)
進化? 再構成?
それって俺自身が亜神に逆戻りしたっていう事なんじゃないか?
そういうときは、ステータスチェックすればいいんだよなぁ。
「ということで、久しぶりのステータスチェック……ップうぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
――スプラッシュ!!
うん、突然の激しい頭痛で吐いたわ。
しかもステータスが表示されないわ。
『ピッ……神人に進化した乙葉浩介の脳では、ステータスチェックは不可能。情報量を人間の脳では処理できません。見るのではありません、考えるな、感じろ……です』
あ、そういうこと……。
こいつはまた、面倒臭い事になっているんだなぁ。
ということで、せっかくなので自分に出来る事を一つずつ確認してみる。
「魔術……は今まで通り使用可能。使える魔術についても問題はない……と、あれ? 魔導書がない。頭の中に術式は浮かぶんだけれど……って、あれ?」
俺が最初に作った魔導書も、あの異世界で作った収納の魔導書もない。
しかもチベット巫術の書も、鏡刻界で購入した魔導書もない。
ただ、黒い魔導書のみが残っている。
うん、嫌な予感がするのでそれを取り出して開いてみるんだが。
「……一つになった? いや、この魔導書が全て収納したのか?」
俺の予想通り、俺が今まで入手した魔導書の全てが、この一冊にまとめられている。
いや、感覚的には全ての魔導書を吸収して一つになった感じなのだが。
「問題は、魔導書が一つになったこと、そして」
両手を見るんだが、魔皇紋が消えている。
「うっそだろ、ヘルメスさん、鉄幹さん、聞こえますかー!!」
声にも出すと、念話も送る。
たが、返答はない。いや、俺の中にいるのは分かるんだけれど、どこにいるのかわからない。
まさか俺の魂と同化した? そう考えたけれどそんな感覚はない。
ということはまさか?
「いや、それこそまさかでしょ?」
そう思って、慌てて黒の魔導書に手を添えて問いかけたけれど、こっちには二人の意識を感じない。
よしよし、セフセフ。
「って、そんなに安心している場合じゃないわ」
慌ててベッドから飛び起き、身支度を整えて……え?
待って、近くに置いてある服が掴めない、そして着ているパジャマが脱げない……っていうか、俺、裸!!
(いやいや、待って、これってどういうことだよ)
そう思ってふとベッドを見ると、俺がベッドで体を起こしたまま、その場で停止しているという事。
これってつまり、幽体離脱ってやつだよね。
って、そうじゃないわ!! 急いで肉体に重なりあって……。
――パチッ
うん、肉体と魂が接続したみたい。
何だろ、このサイボーグ体に魂が接続した感覚みたいなのは、そんな経験はないけれどね。そういうアニメを見たことがあってね。多分だけれど、こういう感覚なんだろうなぁ。
「ふう。さっきの天啓眼の説明では、この肉体は神人ってやつで、それに俺が進化したらしくて。というか、幻想郷レムリアーナに適応した体に置き換えられたって感じたよなぁ。うん、あの破壊神の残滓が何か仕出かしたっていう事は理解出来たわ」
そして、あの面倒臭い『残滓の切符』とかいう存在。
そいつが魂と同化したっていう事はつまり、いつでもあいつが俺に問い掛けて来れるっていう事じゃないか。あいつ、まだ俺の肉体を狙っているのかよ。
「はぁ。まあ、とりあえずはシャワーでも浴びてから、飯でも食いますか」
――プツッ
そう思って立ち上がってみると、またしても肉体と魂が分離したわ。
いや、この状態で何をどうしろっていうんだよ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・書籍版1~13巻が好評発売中……って、これはあとがきでいいのか?




